前回まで、出世が早い人=偉くなる人を、成果を出し続けられる人と定義して、その要素をみなさんと一緒に考えてきました。今回はその第3章です。

「成果という邪念」

ビジネスはすべて成果を追求していますよね。会社全体の成果は社員一人ひとりが生み出した成果の総和です。戦略や組織、それぞれの役割や責任、権限といった構成要素はすべてこの"成果"という目的を達するための手段と言えます。しかしながら、いま目の前のハードル(目標)に取り組もうという時、この成果は邪念となってみなさんの行く手を阻み、成果を出し続けるための障害になりうる概念なのです。今回はこの"成果"という概念について向き合っていきましょう。

成果を出すための必須要素=成長

成果を出し続けるために必要な要素を考えてきましたが、あとどんな要素があるでしょうか。そう、「成長」ですね。成長を定義すると、「今までできなかったことができるようになる」もしくは「できることが増える」という表現になります。営業で言う平均5件のアポ取得数が10件になるとか、リピート率が上がるなど。エンジニアでいくと図面を書くスピードが今までより速くなるとか、時間当たりの作業量が効率化していくといった、さまざまな「カイゼン」が「成長」ですよね。

では、「今までできなかったことができるようになる」ためにはどんなステップを踏めばよいでしょうか。一般的にはPDCAですよね。さて、みなさん。PDCAの4要素で最も重要なのはP? D? C? A? どれでしょうか?

「うまくやろう」として「うまくいかない」

このコラムで「成果を出し続けろ」というメッセージを出しておいてなんなんですが、みなさんいきなり100点満点の大正解を出そうとしていませんか。人が成長し、正解に近づくための方法は、実行(D)と修正(CA)を繰り返すことが重要ですよね。なので、いきなり100点を出そうとすること自体が、実は間違いなのです。

この、いきなり100点を出そうとすることを「うまくやろうとする」と表現していますが、失敗がダメなことだ、失敗したくない、という思考から考え過ぎて動きが止まることが成長の阻害要因になる、ということなのです。つまり、準備や計画(P)にこだわりすぎて行動が止まると成長できない、ということになります。

失敗というのは、成功に近づくための可能性をひとつひとつ潰す作業に過ぎない、と考えましょう。とにかく"早く失敗する"ことが重要です。当社で、新しい取り組みをする時、社長は「さっさと失敗しようぜ」という掛け声をかけます。これは、「いきなり正解は出せない。なので、すぐ実行して不足を速やかに認識しよう」という意味合いですね。

もちろん、その会社が潰れるとか、そういう致命的な失敗をすると、もう取り返しがつかなくなってしまいますが、いち社員の失敗で会社が潰れることはほぼないですから、失敗を恐れずに、こうあるべきだということを、こう動こうということを決めて、うまくやろうとせずに、まずすぐ"実行"(D)すると。そして、もしうまくいかなければ、そこを修正して次に向かう(CA)と。考え過ぎずに「すぐやる」、決めたら「ただただやる」、やってみてだめなら「繰り返しやる」人間が正解に素早くたどり着けるので、一回一回にこだわりすぎて(P)動かないという状態は成果を出すための障害になるのです。

速やかな"実行"が重要

ここまで考えてみると「PDCA、何か大事? 」の解答はもうおわかりですよね? そうです、重要なのは「D」です。"実行"。一般的に、賢い人、アタマの良い人ほど、アイデアをこねくり回す傾向があるようです。ずっと「P」にこだわっている人、周りにいませんか。「バカになれ」という話ではありませんが、ちょっと賢い程度では、実行と修正をひたすら繰り返す人達には勝てないのです。

おいしい味噌汁を作ろうと思ったとき、レシピを買ってきますよね。本屋でたくさんあるレシピを吟味する作業が「P」です。成果を出し続けられる人は買ってきたレシピAを速やかに試し、周りの人に食べてもらい評価を受けます。成果という邪念にとらわれ成果を出せない人は、「本当にこのレシピAでおいしい味噌汁がつくれるのか」と考えに考え、レシピBを追加購入してきます。

速やかにレシピAで作った味噌汁に評価をもらったほうが、「じゃあ塩加減を調整しよう」とか「具材で味を調整しよう」となるのです。実行によってそのレシピが有用かどうかを"事実化"し、作り方を吟味改善するという順番がより早く正解にたどり着く方法なのです。

みんなが追求している"成果"。最終的な評価は、もちろん生み出された成果に対して下されますが「うまくいくかなあ」「うまくいくはずない」「どうせむりだろう」と成果をあまりに過度に意識して取り組む時、人の集中力は著しく低下するのです。 「すぐやる」「ただただやる」「繰り返しやる」に挑戦してみてください。

著者プロフィール:冨樫 篤史(とがし・あつし)

識学 大阪支店長、講師
1980年東京生まれ。立教大学卒業後、ジェイエイシーリクルートメントにて12年間勤務し、主に幹部クラスの人材斡旋から企業の課題解決を提案。名古屋支店長や部長職を歴任し、30名~50名の組織マネジメントに携わる。

組織マネジメントのトライアンドエラーを繰り返す中、識学と出会い、これまでの管理手法の過不足が明確になり、識学があらゆる組織の課題解決になると確信し、同社に参画。

■ 株式会社識学