2018年秋、レクサスの新型車2台が日本に登場した。北米では1989年から販売してきたセダンの「ES」と、新型車のコンパクトクロスオーバーSUV「UX」だ。2台を眺めると、同じレクサスながらデザインのテイストが異なることに気づく。なぜ違うのか。レクサスデザインの変遷を振り返りながら考えた。
日本でも世界でも好調のレクサス
1989年にまず北米で発売し、2005年の日本導入から今年で13年となるレクサスブランドが今、存在感を高めつつある。昨年はラグジュアリークーペの「LC」を登場させるとともに、フラッグシップセダンの「LS」ではモデルチェンジを実施。今年の秋にはESとUXを続けて発売した。
レクサスインターナショナルの澤良宏プレジデントは、11月27日のUX発表会で同ブランドの販売実績に言及した。2018年1月~10月の販売台数は、グローバルで前年同期比6%増の56万7,000台を記録。日本では、なんと35%増の4万6,900台を達成したという。いずれも過去最高だ。
3世代にわたるレクサスのデザイン史
レクサスをデザインという視点で見た場合、3世代に分けられるのではないかと個人的には思っている。
第1世代は2005年の日本導入時にデビューした「IS」と「GS」、その翌年に登場した「LS」、2009年に発表となったクロスオーバーSUV「RX」とブランド初のハイブリッド専用セダン「HS」、2年後に加わったハイブリッド専用ハッチバック「CT」だ。
日本導入当時、レクサスは「微笑むプレミアム」というキャッチコピーを使っていたと記憶している。強烈な押し出しでアピールする欧米のプレミアムブランドに対抗するためのメッセージだった。この言葉を反映し、ISもGSも優しさを感じさせる造形だったという印象が残っている。
ところが、2012年1月に発表された現行「GS」から、イメージが変わりはじめた。最大の特徴は、バンパー上下のグリルをつなげ、中央から上下にいくほど幅が広くなる「スピンドルグリル」の採用だった。それ以外にも、前後のランプは「L」をモチーフとした大胆な造形になり、サイドやリアのラインもシャープになっていた。このクルマを機に、レクサスのデザインは第2世代に入ったと見ている。
翌年モデルチェンジしたIS、このISをベースとしたクーペの「RC」、2014年に新登場したクロスオーバーSUVの「NX」、その翌年に日本初登場となったフラックシップSUV「LX」と現行RXが、この第2世代に属すると思っている。
特にNXは、ブランニューということもあって表現が明確で、スピンドルグリルは上下に大きく開き、ヘッドランプは吊り上がり、SUVらしい力強さを表現する前後のフェンダーラインは角張っていて、とにかくシャープという印象だった。
その流れが変わったという印象を抱いたのが、2017年3月発売のラグジュアリークーペ「LC」だった。レクサスは2012年のデトロイト・モーターショーで発表したコンセプトカー「LF-LC」を量産化するという意図でLCを開発。市販の予定がなかったコンセプトカーを商品化するにあたり、2mを超えていた全幅、極端に低かった全高を常識的なレベルに収めつつ、オリジナルを忠実に再現するためにGA-Lプラットフォームを新たに用意した。
今のレクサスを築いたラグジュアリークーペ「LC」
LCの特筆すべき点はエクステリアデザインで、豊かに張り出した前後のフェンダーを含め、キャラクターラインはほとんどなく、複雑な曲面でフォルムを構築するという、それまでの日本車にはあまり見ない造形を実現していた。前後のランプも形状は個性的でありながら控えめで、必要以上に威圧感を与えることはなかった。
LCはインテリアも一新していた。クーペというと、どうしても躍動的なデザインになりがちなところ、LCは水平基調のインパネに小ぶりなメーターパネルで落ち着いた世界観を表現。ドアトリムを走るラインもゆったりした曲線で、大人っぽさを印象づけていた。
2017年10月に登場した現行LSも、同じGA-Lプラットフォームを採用している。フラッグシップセダンだけあってインテリアは凝った意匠で、例えばドアトリムのオーナメントは、切子細工をモチーフとした繊細な造形が特徴的だった。一方、エクステリアはプレスラインを最小限に抑え、「6ライト」(前後ドアとリアウインドーの間にも窓がある)のサイドウインドーによるエレガントなシルエットを強調していて、LCからの流れを感じさせた。
優雅なルーフラインの「ES」
そして、2018年10月に発売となった「ES」もまた、スピンドルグリルやヘッドランプで個性的な表情を出しつつ、ボディサイドについては無駄な装飾に頼らず、ゆったりしたカーブを描くクーペのようなルーフラインで優雅さを強調している。インテリアについても同じで、水平基調のインパネと小ぶりなメーターパネル、柔らかいラインのドアトリムなどは、LC以来の流れを受け継いでいる。
ところで、このESは、市販車としては世界で初めて「デジタルアウターミラー」を採用したことでも話題を呼んだ。サイドミラーの形状を一変させるので、当然ながらクルマのデザインにも影響を与える装備だ。筆者は先日、試乗会で実際に体験してきたので、印象を簡単に報告する。
2016年の保安基準改定により、サイドミラーに鏡以外を用いることが可能になったことを受けて開発が始まったデジタルアウターミラー。ESのデビューが近づくタイミングで実用化のめどがたったので、初めて搭載したのだという。
後付け感のある左右のディスプレイは、こうした経緯を象徴したものである。今後は設計当初から採用が決まるので、一体感が高まっていくだろう。ディスプレイの場所についても、現在はミラーに近い場所に置いているが、二輪車にも乗る筆者の感覚としては、メーターパネルの左右でもいいのではないかと思った。
実際に使ってみると、ディスプレイの解像度をもう少し高めて、遠近感が分かるような3D的な表現を盛り込んでほしいという要望を抱いたものの、天候や周囲の明るさに関わらず、クリアな画像が見られるところはありがたかった。
さらにデジタルアウターミラーは、状況に合わせてズームしてくれる。例えば右左折時、ウインカーを出すとカメラは望遠から広角になり、周囲の状況をより広く映し出す。デジタルならではの機能で安全性も高まりそうだ。
「UX」のカタチが第三世代のデザインとは異なる理由
そんな体験をもたらしてくれた試乗会から2週間後、今度はコンパクトクロスオーバーSUVの「UX」が発表となった。発表会場で見たUXは、LCからESにかけての流れとは少し異なるデザインを身にまとっていた。
顔つきは他のレクサスと共通しているものの、前後のフェンダーは力強く張り出し、ボディサイドは2本のキャラクターモールがリアに向けて跳ね上がる。黒いフェンダーアーチモールやリアコンビランプが、空力特性を考えた形状である点も目立つ。
でも、レクサスのデザインがここから再び変わっていくわけではないと筆者は思った。UXのコンセプトは「Creative Urban Explorer」。新たなライフスタイルを探求する「きっかけ」(英語ではcue、コンセプトの頭文字とかかっている)となることを目指すクルマだとレクサスは位置づける。その大胆なデザインは、コンセプトに合わせたものなのではないだろうか。
輸入車でも、似たような考えのもとに生まれたクルマがある。ボルボのコンパクトSUV「XC40」だ。デザインの基本的なフォーマットは上級SUVの「XC90」と「XC60」から受け継ぎながら、2トーンカラーや台形を強調したキャラクターライン、プレーンなリアパネルなど、兄貴分にはない斬新なディテールを取り入れている。
少し前にも紹介したが、BMW本社で唯一の日本人デザイナーである永島譲二氏も、SUVはデザイン面で「冒険しやすい」クルマだと話していた。ドイツ車が中心になって築いてきた、上から下まで同一のデザインでそろえるというブランディングに飽きがきているからこそ、BMWやボルボは多様化を認める路線にシフトしつつあるのだろう。
この予想が正しければ、最近登場したレクサスの2台、セダンのESとクロスオーバーSUVのUXが、異なるテイストのデザインをまとっているのは当然だ。多様な見せ方を試みるレクサスは、最新のトレンドをよく理解していると感じる。次のレクサスはどんな方向で攻めてくるのか。カーデザインには想定外の驚きがあったほうが楽しい。