日産自動車が正式発表した新型クロスオーバーEV(電気自動車)「アリア」。その姿は、2019年の東京モーターショーに登場したコンセプトカーがほぼそのまま市販車となったようで、斬新なデザインを評価する声も多い。アリアが美しいといわれる理由を分析してみよう。
スリーク、シック、シームレス
アリアは同じく日産のEVである「リーフ」とは異なり、クロスオーバーというスタイルをとる。日産が次期EVにクロスオーバーを選んだのは、売れ筋だからということもあるだろうが、走行性能を考えれば、大きくて重い駆動用バッテリーはフロアに積むのが自然であり、そのうえで居住空間を確保するとなると、クルマの背を高くすることが必要になるからだ。
ジャガー「I-PACE」やメルセデス・ベンツ「EQC」など、欧州プレミアムブランドのEV第1号車がSUVとなったのも、それが理由だ。車高を低くできない中で自動車らしいダイナミズムを表現するのに、SUVは最適なパッケージングと考えるデザイナーが多いのだろう。
日産はアリアのエクステリアデザインのテーマとして「タイムレス・ジャパニーズ・フューチャリズム」を掲げる。「スリーク」「シック」「シームレス」というキーワードを用い、シンプルでありながら力強く、モダンな表現にしたとの説明だ。
シームレスという言葉は、やはり昨年の東京モーターショーでアジア初公開となったメルセデス・ベンツのコンセプトEV「ビジョンEQS」のデザイナーも口にしていた。立体的なグリルやキャラクターラインで自己主張するという方向性は、たしかにデジタル的ではない。
それでも、アリアのフロントマスクにはグリルらしき表現がある。思えば2010年に発売した初代リーフは、エンジンを積んでいないことをアピールすべくグリルのない顔となっていたものの、デザインの評判が今ひとつだったことから、現行型ではグリルを用意している。その経験が、アリアのフロントマスクにもいかされているのだろう。ボディ全体がシームレスな形になるからこそ、商品として顔で自己主張することは重要だ。
アリアではグリルの部分にスモーク仕上げのパネルを使い、中には日本の伝統的な組子パターンを立体的に表現している。近年のクルマは、運転自動化のための各種センサーをグリルに仕込んでいることが多いが、アリアでも、内部に高度な運転支援システムである「プロパイロット2.0」などのセンサーを組み込んでいる。よって、日産ではこの部分を「グリル」ではなく「シールド」と呼んでいる。
ヘッドランプは片側4個ずつのLEDを使用。白く光る「Vモーショングリル」の両側は、シーケンシャルウインカーとしても機能するようになっている。その代わり、多くの日産車が当然のように備えるクロームメッキのVモーションはない。これだけで、他の日産車とはひと味違うという感じを受ける。
「シームレス」というキーワードを強く体現しているのはボディサイドだ。いわゆる光り物は、サイドウインドー上辺のモールや19インチと20インチがあるアルミホイールに見られるぐらいで、多くはブラックやガンメタリック 。
よく見ると、サイドウインドーのラインとルーフラインが異なっており、きれいな弧を描く前者に対して、後者は水平に近い。他車にも用いられるテクニックではあるが、プロポーションの美しさにこだわりつつ、パッケージングにも気を遣っていることが伝わってくる。
リアは水平方向に伸びるコンビランプがアクセントになっている。消灯時はシンプルな黒い帯で、点灯時に赤い光が浮き出るというのは、トヨタ自動車「ヤリス」やプジョー「208」などにも見られる処理で、最近のトレンドだ。
その中で目立つのは、フロントと同じ新デザインのロゴマークではなく、NISSANの文字を離して置いていること。今後登場してくる日産車にもこの表現が使われることになるのか注目だ。
アリアのボディサイズは全長4,595mm、全幅1,850mm、全高1,655mm、ホイールベース2,775mm。幅や高さは6月に発売されたトヨタの新型「ハリアー」に近いが、長さはそれより145mmも短く、逆にホイールベースは85mm長い。写真を見比べると、エンジンがない分、フロントがハリアーに比べてかなり短いことがわかる。
ボディカラーは9種類の2トーンと5種類のモノトーンを用意する。イメージカラーは「暁」(あかつき)と呼ばれるカッパー(銅)とブラックの2トーン。カッパーについては電気を流す銅の色を表現したそうで、コンセプトカーのサイドウインドーやアルミホイールのアクセントにも使っていた。
木目調パネルがスイッチに?
アリアは室内もまたシンプルかつシームレスだ。インパネは横に2つ並んだ12.3インチディスプレイ以外に目立ったインターフェイスはなく、エアコンスイッチなどはその下の木目調パネルに浮かび上がる斬新な仕掛けを盛り込んでいる。加えて大型のフルカラーヘッドアップディスプレイも装備する。
センターコンソールも物理的なスイッチはセレクターレバーぐらいで、ここもフラットなパネルに光でスイッチが浮かび上がる。もちろん、スマートフォンの非接触充電は装備しており、後方のアームレストは電動で前後にスライド可能だ。
アリアは新開発のEV専用プラットフォームを採用する。特徴のひとつは、従来はキャビンに配置していた空調ユニットをフロントに移設したことだ。エンジンを積むことを想定しないからこそできた配置といえる。
おかげでキャビンはフラットで広々としたフロアを実現。ボディサイズから想像するよりも広い室内空間を確保したという。荷室も4WDで408リッター、2WDでは466リッターと十分な容量だ。
単にモダンでシームレスなデザインを与えただけでは、アリアはここまで新鮮に見えなかったはずだ。やはり新開発のEV専用プラットフォームを使い、ゼロからEVに最適化したパッケージングを採用したことは大きい。リーフの10年間の経験をいかした渾身の一作ということができる。