自分は好き嫌いがない方ですが、それでも食べたことのない物はたくさんあります。その代表はホヤ。見た目は宇宙生物っぽいし、好きな人に聞いても「ほんのり苦い」とか「海の風味がすごい」とか、味の想像がまったくできません。
そんな珍味がまさか缶詰になってないだろうなと思いつつ、缶詰博士にたずねると「ホヤ缶ですね。もちろんあります!」と驚きの返答。しかも初心者が食べやすい味付けになっているそうです。ちょっとだけ興味が湧いてきました。
バター醤油の魅惑
ほぼほぼ酒飲みしか食べない珍味、それがホヤだ。マラカスみたいな形をしていて、表面はごつごつしてて、全体は鮮やかな赤。鮮度が何より大事で、獲ったその日に刺身で食べるのが鉄則といわれている。
僕はホヤの一大産地の宮城県で育ったのだけど、子供の頃はおいしいと思えなかった。大人になった今でも刺身はちょっと苦手だ。でも加熱したものはけっこう好きで、缶詰になっているホヤは食べやすくていいと思う。
宮城県の小さな缶詰メーカー「魚市場キッチン」は、地元で獲れるホヤを缶詰にしている。水揚げ直後の新鮮なうちに加工するのが最大のウリで、おかげで臭みがないのだ。
中でも「ホヤのバター醤油煮」は、にんにくを利かせたバター醤油でホヤを煮るという、これまで誰も思いつかなかった独創的な缶詰であります。
湯せんで温める
パッケージに「温め推奨」と書いてあるので、素直に温めることにする。小鍋に湯を沸かして火を止め、フタを開ける前の缶詰をぼちゃんと投入。3分放置してからトングで引き上げれば、熱湯の余熱だけで中まで熱々になるのですぞ。
缶自体もかなり熱くなるので、触れるくらいまで冷めてからフタを開けること。それでも中の熱々状態はしばらく保たれるのだ。
他にない香り
温めが終わったところで、本日もご唱和ください。開缶(声に出してね)!
熱でとけたバターの香りに、にんにくと潮の香りが混ざっております。ちょっと汁をすすってみると、バター&塩気のほかにほんのりとした苦みがある。この苦みがホヤの特徴なのだ。
清酒に合う
かくのごとし。これで1缶の半分くらいの量なので、2人で食べても充分な量がある。ほかには彩りのために温野菜を添えて、きりっと冷やした清酒もぬかりなく配置して。では、いただきます!
刺身と違った柔らかい食感は、例えば鶏皮をじっくり煮たような感覚。内側にある赤いところや黒っぽいところは歯触りが違い、味が濃くなっている。食べていると舌の上にじわーっと苦みが広がっていき、のみ込んだあとでは空気すら甘く感じられるのが面白い。だから清酒もまた、いつもより甘く感じられる。
珍味中の珍味、ホヤが缶詰で食べられるという幸せ。一度も食べたことがない人はぜひどうぞ!
缶詰情報
魚市場キッチン/ホヤのバター醤油煮(85g)
希望小売価格640円(税別)
ネットショップなどで購入可
黒川勇人/缶詰博士
昭和41年福島県生まれ。公益社団法人・日本缶詰協会認定の「缶詰博士」。世界50カ国以上・数千缶を食している世界一の缶詰通。ひとりでも多くの人に缶詰の魅力を伝えたいと精力的に取材・執筆を行っている。テレビやラジオなどメディア出演多数。著書に「旬缶クッキング」(ビーナイス/春風亭昇太氏共著)、「缶詰博士が選ぶ!『レジェンド缶詰』究極の逸品36」(講談社+α新書)、「安い!早い!だけどとてつもなく旨い!缶たん料理100」(講談社)など多数。
公式ブログ「缶詰blog」とFacebookファンページも公開中。