世界にはいろんな缶詰があり、それぞれの国の食文化をよく表しているそうです。中にはとても珍しいものがあって、缶詰博士はそれを「珍缶」と呼んでいます。

今回はそんな珍缶のひとつ、ドイツのサラミ缶の紹介です。博士によれば「世界で一番恐ろしい缶詰」だとか。期待の高まる前フリですが、果たしてその中身はどんなものでしょう?!

  • サラミの缶詰。一見すると美味しそうだが……

血のサラミ

僕はハムソーに目がない。ハムソーとはハム・ソーセージの略で、食品業界で使われる用語であります。だから、友人からこのドイツのサラミ缶詰をもらったときも小躍りした。 ラベルには薄切りにしたサラミが写っている。あらかじめスライスした状態で収まっているということだろう。実に親切な缶詰ではないか。

ROTWURSTと書いてあるので、ドイツ語翻訳サイトで調べてみた。ROTが“赤い”あるいは“血液”。WURSTは“サラミ”だそうな。

つまり血のサラミだ。ヨーロッパの伝統食のひとつであり、一度は食べてみたかったので、僕はもう一度小躍りした。

さて、このあと開缶画像が出るのだが、あらかじめご注意申し上げたい。血とかスプラッター物が苦手な方は、慎重にスクロールしていただきたいのであります。

  • まがまがしい内観

ホラーですか

何ということだ。べとべとしたペーストがぎっしり詰まっている。 これはホラーですか。

てっきりスライスされたサラミが詰まっていると思っていたのに。あろうことか中身だけ詰めてある。

血の色が生々しい。首の後ろの毛がちりちりと逆立つ。あまりのまがまがしさに耐えられず、フタを戻してしまった。さらにラップをかけて冷蔵庫に入れてしまった。

  • 冷蔵後の様子

スパイス&ハーブが頑張る

翌々日。ホラー映画を観たときのようなショックも薄れたので、冷蔵庫から取り出してみた。

冷却されたことでべとべとがかたまって、まがまがしさは消えた。こうしてみるとやはり、サラミの中身だけを詰めたようだ。

あらためて匂ってみると(ちょっと勇気が必要)、肉の匂いよりも前にクローブのようなぴりっとした匂いがある。

ほかにタイムやイタリアンパセリ的な匂いもあるが、ベースにあるのはレバー臭。ちょっと獣っぽく、血の臭いがある。

ひと口食べてみると(ちょっと勇気が必要)、強い塩気とレバーペーストっぽい味がある。肉と脂肪の歯応えもある。

飲み込んだあとで血の匂いがかすかに香るが、それをスパイス&ハーブたちが必至で抑え込んでいる。

  • 付属しているフタ

そこじゃない

見た目はともかくとして、まあこれは肉のペースト缶の一種だと思えば少し安心する。人間は未知の物に対して恐怖を覚えるが、分類してしまえば恐怖はなくなるのだ。

味が強いので、一度に多くは食べられない。と思っていたら、この缶詰にはプラスチック製のフタが付いていた。食べきれなかったときはそれをかぶせて、冷蔵できるようにという配慮であります。

やはり親切な缶詰ではある。いや違う、そこじゃなかった。とにかく世界一恐ろしい缶詰であります。

黒川勇人/缶詰博士

昭和41年福島県生まれ。公益社団法人・日本缶詰協会認定の「缶詰博士」。世界50カ国以上・数千缶を食している世界一の缶詰通。ひとりでも多くの人に缶詰の魅力を伝えたいと精力的に取材・執筆を行っている。テレビやラジオなどメディア出演多数。著書に「旬缶クッキング」(ビーナイス/春風亭昇太氏共著)、「缶詰博士が選ぶ!『レジェンド缶詰』究極の逸品36」(講談社+α新書)、「安い!早い!だけどとてつもなく旨い!缶たん料理100」(講談社)など多数。
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