少年期を東北地方で過ごしたという缶詰博士の黒川氏。ふだん何気なく食べていたものが、実はその地方の郷土料理だったということを「大人になって初めて分かった!」という経験が多いそうです。
「玉こんもそう。しょう油が染みた丸いこんにゃくは少年時代の思い出です」
山形県ならではの食文化
木の屋石巻水産の鈴木氏が、嬉しい知らせを届けてくれた。かつて販売していた玉こんにゃくの缶詰が、12年ぶりに復活したというのだ。
玉こんにゃくは「玉こん」の名で親しまれている山形県特有のこんにゃく、もしくは料理名であります。糸こんや板こんは全国にあるけど、丸い玉こんは「山形県ならではの食文化」と、農水省のサイト「うちの郷土料理」でも紹介されている。
玉こんをスルメイカと供にしょう油で煮込むと、イカのうまみが加わったしょう油が中まで染みこんで、しみじみとウマい。僕が育ったのは宮城県だが、隣の山形県の食文化もたっぷり入り込んでいた。
宮城県にある木の屋石巻水産でも、その玉こんを缶詰にしていたが、原料のスルメイカの価格高騰や東日本大震災の影響などで、しばらく製造をやめていたのだ。それがこの9月、とうとう復活したのであります。
しょう油を立たせた匂い
フタを開けた瞬缶(瞬間)、ひどく懐かしい匂いが立ち昇った。イカをしょう油で煮た匂い、ではあるけど、いわゆる砂糖しょう油の甘い匂いとはまったく違う。しょう油をキリッと立たせた匂いなのだ。
イカはゲソと身の両方が入っていて、思ったよりも量が多い。その下には主役の玉こんが、ころりころりと見えている。
生の玉こんを使用
玉こんを箸上げしてみる。玉とはいえ真円ではなく、あちこち歪んでいるところがまた愛らしい。鼻に寄せてスンスンすると、やはりイカをしょう油で煮た匂いがする。こんにゃく特有の、あの匂いがしないのだ。
ちなみに、玉こんというのは山形県にある平野屋の登録商標であります。この缶詰の玉こんも同社製で、しかも生の状態で仕入れて使っている。味の染みこみ方や、こんにゃくらしいぷるぷるした食感を引き出すためのこだわりだ。
みずみずしく柔らかい
かくのごとし。玉こんを取り出してわざわざ串に刺したのは、少年時代に食べたときの姿を再現したかったから。初詣などに行くと、玉こんはこうして串に刺さった状態で、鍋の中に入ったまま売られていたのだ。
手が凍えるような寒さの中、熱い玉こんは歯に染みた。そんなことを思い出しながら、ひと口。
むっ。食感がぷるっぷるだ。みずみずしさも感じる。これが生の玉こんを使った効果なのか。とても柔らかく、あまりかまないうちに細かくなってしまう。
口いっぱいに広がるイカのうまみとしょう油の香り。中心まで味が染みているのが見事。さっきも書いたけど、こんにゃく特有の匂い(臭み)がまったくない。これぞ紛うかたなき玉こんであります。
缶詰情報
木の屋石巻水産/いか入り玉こん 170g 460円(直販サイト価格)
同社の直販サイトなどで購入可