全国の缶詰メーカーと、毎日のように情報交換をしている黒川博士。おかげでこの連載もいち早く新商品を紹介できるわけですが、ときどき驚くような情報が飛び込んでくるそうです。
「髙木商店さんから聞いた話は、にわかに信じられなかった。マイワシの旬は6月頃だと思っていたけど、今年は1月に水揚げされたマイワシが絶品だったっていうんです。本当かねェ?」
マイワシの旬のことは知りませんでしたが、ようするに今回はメーカーさんと博士とのバトル、ということでよろしいでしょうか!
限定で缶詰にしちゃいました
豊富に獲れて味も良し。それが魚の旬というものだけど、その概念が変わるかもしれない。
例えばマイワシは、6月頃から暑い時期にかけてが旬と言われていた。まとまった量が獲れるし、サイズが大きくなって脂が乗るのだ。少なくとも東日本の太平洋側では、それが常識だったはずである。
ところが先日、銚子港(千葉県)近くにある髙木商店のT氏から電話があった。
「近年は6月頃でもマイワシの水揚げ量が少ないです。水揚げがあったとしても脂が乗っていない。その代わり今年1月は豊漁で、脂も乗ってて良かった。もともと銚子港は真冬でも良いマイワシが揚がるんですが、こんなに豊漁だったのは珍しい」
(いやいや、そうは言っても味は旬のほうが上でしょ!)と突っ込もうとしたら、T氏は続けてこうおっしゃる。
「あまりにもおいしいから、限定で缶詰にしちゃいました。送りますのでご賞味ください」
寒という字が冠されている
そんな電話があってから数日後、5種類の缶詰が届いた。どれも品名には“寒”という字が冠されている。かつてのマイワシの旬は蒸し暑い時期だったから、とても不思議な気がする。
今回はその中の「寒いわし蒲焼」をチョイス。本当に絶品か検証してみよう。
いたって普通サイズ
フタを開けるとマイワシがぎっちぎちに詰まっていた。どのくらいぎっちぎちかというと、蒲焼きのタレが入る隙間がないくらいぎっちぎち。オトクで嬉しいので、そこは素直に評価したい。
さて、一体どんなマイワシが使われているのか? タレを切ってバットに並べると、魚体はいたって普通サイズだ。かつて「入梅イワシ」と呼ばれた6月以降のマイワシはもっと太っていた気がするが、気のせいか。
博士の完敗
かくのごとし。茹でた春キャベツと炒り卵を合わせ、菜の花畑をイメージしたイワシ蒲焼き丼にした。先ほど撮影のために除いたタレも、残さず上から掛けておく。
では、ひと口。まず蒲焼きのタレの甘辛さがしっかりある。よーく味わうと、甘さの中に醤油の風味が立っているのが分かる。醤油の名産地の銚子近くにある髙木商店らしい味付けだ。
そのままふた口、み口と噛んでいると、タレの味のあいだから甘い脂がふわふわと湧き上がってきた。入梅イワシの場合、ひと口目から脂がちゅるりと溶けるが、寒いわしは後追いでやってくる。
しかもこの脂、クセがなく澄明なのだ。イワシの脂の匂いが苦手な人でも、これならいけるのではないか。
寒いわしは本当にウマかった。この勝負、缶詰博士の完敗であります。
缶詰情報
髙木商店/寒いわし蒲焼 100g 281円
都内の一部スーパーなどで入手可。