「膨らんじまった悲しみに、今日も缶汁飛び散りぬ」
中原中也の詩をもじりながらやって来た缶詰博士の黒川氏。ちょっと悲しそうな表情をしています。
「今日は恥ずかしい体験をお話しせねばなりません。それは缶詰の食べ頃にカンするお話しです」
どんな時でも缶ジャレを忘れないのはさすがですが、一体なにがあったのでしょうか?
世界的にも珍しい缶詰
本日紹介するのはバナナの缶詰であります。世界的に見ても非常に珍しいもので、日本ではまず売られていない。製造はタイであります。
大人の指ほどのバナナがシラップ漬け(缶界ではシロップをシラップと呼ぶ)になっていて、甘くてとても美味しい。食感も、普段食べているバナナと同じくらいの柔らかさだ。
本来であれば、この珍しい缶詰を実食・紹介するのだけれど、そうはいかなくなった。なぜか?
賞味期限が切れて8年
お分かりだろうか? フタが盛り上がって、今にもはち切れそうになっている。
実はこの缶詰は、賞味期限が2014年までだったのだ。今年は2022年だから、賞味期限が切れてすでに8年が経過していた。
バナナの缶詰というとっておきのネタを、いつ披露しようかと、大事に取っておいたあげくこの有様。缶顔の至りであります(汗顔の意)。
最悪の場合は炭酸ガス発生
バナナ缶は底まで膨らんでいて、亀裂が生じ、甘いシロップが漏れ出していた。こうなるまで放って置いてはいけませんぞ。
さて、缶詰には食べ頃がある。基本的には製造後半年~1年以上経つと、具と調味料、液汁がなじんでおいしくなるのだ。缶界ではこの状態を「缶熟」と呼んでいる
※スイートコーン缶は別。時間が経つと皮がふやけパリッとした食感が失われる
フルーツ缶も、製造から半年以上経った頃から食べ頃になる。しかし他の缶詰と違って、賞味期限を過ぎると劣化が早い。
腐るわけではないが、糖分とアミノ酸等が結合する「メイラード反応」が起こり、味が悪くなるのだ。最悪の場合は炭酸ガスが発生して、缶が膨らんでくる(今回のバナナ缶がそう)。
僕の経験では、フルーツ缶は買ってきてすぐに食べても十分おいしい。何故なら、店舗に並んでいる多くの缶詰は、製造から数ケ月経っているものが多いのだ。つまり、食べ頃を迎えているということであります。
処分は水中で
さて、膨らんじまった缶詰はどう処分すればいいのか? そのままフタを開けると、中の液汁が飛び出してきて大惨事になる。炭酸ガスによって内圧が高まっているためだ。
もっとも安全なのは、ボウル等に水を張り、水中に缶を沈めて開缶する方法だ。これなら、飛び出した液汁が水中に拡散するので安心であります。
冒頭で紹介したバナナ缶も水中で開けたのだが、バナナはメイラード反応が進んですっかり褐色になっていた。本来の甘い味もシラップに溶け出してしまい、ぜんぜんおいしくなかった。みなさんも賞味期限切れにはご注意くだされ!