毎日のように新しい缶詰を試食しているという缶詰博士。人によく聞かれるのは「一番おいしい缶詰を教えて!」だそうです。
「困るよねェ。一番おいしい缶詰と言っても、ざっと100缶はあるからね!」
それは一番とは言えないのでは……とも思いますが、相変わらずの缶詰愛、さすがです。 「こないだ食べたいわし缶はすごくおいしかった。紹介しましょう!」
根性メーカー
さば缶人気に寄り添うようにして売上が伸びてきたいわし缶。どっちも青魚だし、健康にいいとされるDHA・EPAも同じく豊富。資源量も今のところさばより豊富なので安心でもあります。
で、先日食べたいわし缶がこれ。岩手県陸前高田市にある「タイム缶詰」が作っているもので、誠にウマかったのでご報告申し上げたい。
陸前高田市といえば、2011年の東日本大震災の津波で生き残った「奇跡の一本松」で知られる土地だ(12年に枯れてしまったが、炭素繊維などを使って保存された)。
タイム缶詰は05年に創業し、その6年後に大震災に遭った。しかし、その年の11月には早くも復興されているから、一本松のように根性のある缶詰メーカーなのであります。
まるで菊の花
開缶! 筒切りのいわしの断面が、まるで菊の花のように見える。これは缶界で「菊詰め」と呼ばれる技術で、ていねいな手作業のおかげだ。皮がフタの裏側に貼りつかないから、開けたときに皮が身からはがれるのを防げるんであります。今では菊詰めを行うメーカーは少なくなったなァ。
血抜きの技
切り身はこのサイズ。脂の乗ったいわしで身が柔らかく、こうして箸でつまむと、箸の跡がくっきり残る。
タイム缶詰の製造法で面白いのは、魚をさばき、筒切りにしたあと、冷水に一晩浸けて血抜きをすること。おかげで青魚特有の臭みが抜けるが、その分、時間と手間が掛かる。だから大量生産はできないそうだ。
缶汁を活用すべし!
それにしても、いわしが美しい。皮がはがれていないからであります。
缶汁を舐めてみると、しょう油の風味をきりっと立たせた味付けだ。すなわち甘さ控えめ。なので、この缶汁を活用したいと思う。約70mlの分量があるから(計ってみた)、煮汁に使えるはずだ。
豆腐1丁をさいの目に切って鍋に入れ、缶汁を注いで弱火にかけた。フタをせずにふつふつと7分間煮立て、途中で豆腐の上下を返して、缶汁がまんべんなく染みるようにした。火を止めてからいわしの身を投入。フタをして、いわしを余熱で温めて……。
かくのごとし。熱々になった豆腐&いわしを盛りつけ、白すりごまと青ねぎをトッピング。ちなみに、鍋にはまだ半量残っております。
味が足りなかったらしょう油をかけようと思いつつ、ひと口いただけば……。
むっ、味は充分。すなわち缶汁だけで、ほかには塩もしょう油も必要なし。
いわしがウマい。特有の臭みがないのは、やはり血抜きの技のおかげでありましょう。白すりごまと青ねぎも風味を添えるが、あくまで脇役であります。
あっという間に平らげておかわりし、けっきょく缶食(完食)いたしました。
缶詰情報
タイム缶詰/いわし煮付け 175g 参考価格410円(税込)
ネットショッピングで購入可