一緒に乗務するクルーって毎回フライトのたびに変わるんだけど、その日のチーフパーサーはおかまで有名なメルちゃん。まつ毛が長くて端正な顔だち、話すときになぜか小指を立てるからしなやかさを感じるやさしい男性チーフパーサーよ。

その日は福岡に向かうフライトで、お客様のほとんどが日本人。外国人のお客様に比べて日本人のお客さまはお行儀が良く(連載第7回「桃事件」のようなキレるお客さまはほんのひとにぎり)、ドリンク・ミールサービス共にとても穏やかに終わったわ。

やがて機体は着陸態勢へ。お客様のテーブルやフットレスト、シートベルトや座席が元の位置に戻っているかなど客室を確認し、私たちもCA席に座って、着陸を待つだけの態勢をとってたときよ。

通常だとそのまま何事もなくスムーズにランディング、のはずが、席を立っているお客さまがいるとの情報が入ってきたのね。日本人男性のお客様が通路に立って、自分の座席の上にある棚から荷物をとりだそうとしているとのこと。もう着陸間際なので、気の早いお客さまが着離前に荷物を取り出そうとしていたのかしら。それともなにか大事なものを取り出そうとしていたの??

保安要員としての責務もある私たち。すぐさまメルちゃんチーフが「お客さま、危ないですから、シートベルトをしてお座りください」とアナウンスをしたのよ。だけどそのお客さまには全然耳をかさず……というか英語のアナウンスだったんでその日本人のお客さまには全然通じてない様子。私たちの席にはマイクがなくて、日本語のアナウンスができないまま心配しながら見守るしかない状態。

何度もアナウンスで座るよういっても聞かないお客さま。とうとうメルちゃんチーフは突然立ちあがって、そのお客に向かって走っていったじゃない! 普段の穏やかさとは一変、鬼の形相で「座れ」とジェスチャーしながら通路を走ってくるメルちゃんをみて、ようやくお客さまも座ってくれて一安心。着陸寸前だったから、メルちゃんもジェットコースターに立って臨むような感じよね、自分の身の安全も顧みず、そのお客さまの安全を案じ、果敢に席を立ってお客さまを座らせたメルちゃん……。普段のおかまちゃんとしての様子とは一変して頼もしかったわ。クルーの間で一気におかま、いえいえ男の株をあげたメルちゃんでした。

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著者プロフィール

pこ
今から、ん年前、外資系某エアラインに客室乗務員として入社し、5年間国際線勤務。月のうち2/3はフライトのために海外へ。ロングステイのフライトでは、観光やグルメ、ショッピングにいそしむ日々。
ファーストフライトとラストフライトで、コックピットのジャンプシート(補助席)からみた着陸の光景は忘れられませぬ。

イラスト: 伊東ぢゅん子