ライフジャケットのデモを始めると…
今回は目が点になったお客様のエピソード第2弾を紹介するわ。飛行機が離陸する前に緊急時用のライフジャケットのデモンストレーションがあるんだけど、通常はビデオでの案内なのね。
だけどその日はビデオ設備の映像の調子が悪く、急遽CAが実際にチーフパーサーのアナウンスにあわせて、お客様の前でデモンストレーションを行わなければいけなくなったのよ。
デモ用のシートベルトを見せての使用方法から始まって、ライフジャケットの着用の仕方になり「胸の前でしっかりと紐を結びます。ライフジャケットは赤いタグを勢いよく引っ張って膨らせてください。膨らみが足りないとマウスピースから空気を入れて膨らませることもできます。電灯とホイッスルがライフジャケットについています」。チーフからのアナウンスに合わせて順にデモを行っていったわ。
でも、なんか様子が変。前方に座っていた5歳くらのお子さんを連れた女性のお客様が、私たちのデモンストレーションが始まったと同時に、座席の下からライフジャケットを取り出して、なんと自分の子供に実際に着せ始めていたのよ。そして着せるだけならまだしも、「赤いタグを引っ張って」のアナウンスが流れたとき、一緒に赤いタグを引っ張ってしまい、機内でライフジャケットを膨らませてしまったの。着せられた子供も急に膨らんだんでびっくりしてたわ。
デモでは引っ張るふりだけで実際は膨らませないし、デモ用のライフジャケットだから膨らまないようになっているけど、そのお客さま、赤いタグを引っ張って膨らむのか半信半疑だった様子。だけどまさか本当に子供に着せて膨らませるなんて、目が点よ!
飛行機は離陸前だったので、デモンストレーションが終わるやいなや、すぐそのお客さまのところに駆けつけ、とりあえず子供から膨らんだライフジャケットを脱がせたわ。そして予備のライフジャケットを座席の下にいれたの。「しでかしてしまったー」という雰囲気が周りに漂う中、バツが悪そうにされていたお客様。そして何事もなかったようにすぐに飛行機は飛び立っていったわ。
イラスト: 伊東ぢゅん子
著者プロフィール
pこ
今から、ん年前、外資系某エアラインに客室乗務員として入社し、5年間国際線勤務。月のうち2/3はフライトのために海外へ。ロングステイのフライトでは、観光やグルメ、ショッピングにいそしむ日々。ファーストフライトとラストフライトで、コックピットのジャンプシート(補助席)からみた着陸の光景は忘れられませぬ。