着陸までにミールサービスが終わらなかったら――。普通はありえないような出来事だけど、今回はそのときのエピソードを紹介するわ。その日のフライトは北京便、機内はパンパンの満席状態。そして私の担当はエコノミークラスだったの。
食事の時間帯をはさんだお昼のフライトだったから、通常通りドリンクサービスに引き続いて、お食事サービスがあるのだけど、飛行時間がとても短いのね。フルのミールサービスを満席のお客様に振舞っていたら、ミールサービスが終わらない! あっという間に着地の時間になってしまったのよ。
ミールトレイはお客様テーブル。でも機体は着陸態勢
コックピットに「サービスが終わっていない」との連絡が入っているにも関わらず、管制塔からの指示なのか、旋回して時間稼ぎする余裕はなく着陸せざるを得ない状況。そうなれば、何が何でも機内を着地できる状態にしなければいけないわけよ。その使命感にクルー一丸となって、「ミールトレイ回収」にあたったわよ。ファーストクラスやビジネスクラスの担当CAもヘルプにきてくれ、とにかくお客様のテーブルからミールトレイを回収。次から次へと必死でカートに納めたわ。でも、無情にも機体はどんどん高度を下げて最終着陸態勢に入ってしまい……。
そのときエコノミー担当パーサーが何を思ったのか、一旦カートをギャレーに戻しに行ったの。そして大きなゴミ袋を取り出して、ミールトレイを入れ始めたじゃないの! カートに1つずつトレイを収納していたら時間が足りないと判断したのね。パーサーが咄嗟の機転で生みだした技よ。
でも、次はトレイでいっぱいになった袋をどこに収納するかが問題に。ギャレー内に一旦置いたとしても、ロックがかかってない状態では機体が下がっていくと同時にスルスルスルーとキャビンに滑り出してしまうわ。悩んだ末に、苦肉の策でトレイで一杯の袋をトイレに押し込んで避難させたのよ。そして無事着陸。クルー全員、ホッと胸をなでおろしたわ。
イラスト: 伊東ぢゅん子
著者プロフィール
pこ
今から、ん年前、外資系某エアラインに客室乗務員として入社し、5年間国際線勤務。月のうち2/3はフライトのために海外へ。ロングステイのフライトでは、観光やグルメ、ショッピングにいそしむ日々。ファーストフライトとラストフライトで、コックピットのジャンプシート(補助席)からみた着陸の光景は忘れられませぬ。