幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る“脇役=バイプレイヤー”にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第98回はタレントの目黒蓮(めぐろ れん・Snow Man)さんについて。現在、『silent』(フジテレビ系)出演中の目黒さん。言わずもがな、毎週木曜の22時から多くの視聴者の涙を回収しています。彼のファンになる寸前の人を、苗字の"目黒"から連想して「今、(JR)恵比寿(駅)」と言われているそう。それなら今の恵比寿駅は、朝のラッシュ並みの大混雑と予想します。

純度の高いラブストーリー、こんなドラマが観たかった

この世の女性はほぼ知っているのかもしれない『silent』のあらすじを。

高校時代に交際をしていた青葉紬(あおば・つむぎ/川口春奈)と、佐倉想(さくら・そう/目黒)。卒業後、紬に突然別れを切り出し、高校の仲間の前からも姿を消した想。実は難聴を患ってしまい、音が完全に聞こえなくなっていた。紬は新しい恋をしていた。同級生の戸川湊斗(とがわ・みなと/鈴鹿央士)の優しさに包まれて幸せだった。ある日、偶然想と再会。耳が聞こえなくなったことを知り、ショックを受けるものの、手話を習って、昔と同じようにしようとする紬。そんな様子を見て、湊斗は別れを切り出した。

どこから切り取っても100点満点のドラマだ。40代の私が一言でまとめるのなら「こういう純粋なラブストーリーが観たかった!」。昨今のドラマ事情、常に物語の伏線回収へ躍起になっている印象が否めない。これも楽しいけれど、時には「このふたり、くっつくよね? いや分かっている、分かっているだけどさあ!」と物語の分かりやすさに飛び込みたくなるときだってある。それを叶えてくれたのが『silent』なのだ。

放送終了後は、地元の幼なじみと電話をして、ああでもない、こうでもないと話している。こんなことは久しぶりだ。「湊斗さー、コンポタ、最初から出しても良くない?」「ショックだよな……元彼がこんなことって……」と、広がっていく他愛もない会話。これぞ、平成が戻ったようなドラマ視聴の醍醐味だ。昔は火曜日になると学校で、職場で、月9の話題が持ちきりだったじゃないか。

そんな全世代を巻き込んでいる人気作。目黒さんが演じているのは、耳が聞こえなくなった佐倉想だ。『愛していると言ってくれ』(TBS系・1995年)世代としては、彼の存在は"憧憬"なのである。

働く男の広い背中は無条件にカッコイイ

聴覚障害によって、日常の機微が表現しづらくなることもあるはず。"のそっとした雰囲気"とでも言おうか。朴訥とした青年の様子がバランス良く表現している、目黒さん。時に女優とバランスが取りづらくなってしまうと言われる長身。それらが存分に活かされているのだ。

目黒さんの演技を認識したのは、『教場II』(2021年)の杣利希人(そま・りきと)役。銀縁メガネでとことん真面目な生徒……だったのに、芽生えてしまった恋心と新しい命。そんな背景を持った役柄だった。主演は事務所の大先輩である木村拓哉さん。観ているこちらにも緊張感がビシバシと伝わってきた。思い返すと『教場』(2020年・ともにフジテレビ系)では川口春奈さんも出演していたことがある。恐るべし、『教場』。

同年『消えた初恋』(テレビ朝日系・2021年)では男子生徒同士の勘違いが可愛らしい、高校生を好演。ここでも真面目さがきっちりと際立っている役柄だった。そして『silent』と続き、今年は朝ドラ『舞いあがれ!』(NHK総合)が控えている。加えてグループ活動もあるのだから、メディアでも騒がれているように「働きすぎでは」と心配されることも頷ける。

でもひたすら働く背中を観ている(つもりになる)と、少し長く生きている立場としては、なんだか羨ましくなる。体力のある今しかできないことを、彼は広い背中と、活躍を持って披露しているのだと思うと、やっぱり羨ましくなる。「ああ、自分も三日間、不眠不休で働いたこともあったなあ」と。あ、この感覚、上述の『silent』を観た後に友人とワイワイしている様子とかぶる。ありがとう、目黒さん。生活や仕事に疲れた私たちを、うるわしき懐古に浸らせてくれて……と、思いを巡らせる。そんな私もやっぱり「今、恵比寿駅」に立っている1人なのかもしれない。