幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。
第97回は女優の奈緒(なお)さんについて。現在、『ファーストペンギン!』(日本テレビ系)に初の連続ドラマ主演中。ずっと思っていたけれど、この人には明るいネオンカラーのスタイリングがとても似合いますよね。昔流行って、今も再流行中のネオンカラー。日本人で似合う人は多くはない。そこには見た目だけではない、吸引力があるのです。
終盤のブチ切れ、鬼形相の演技の残り香に「来週も見る!」
第1話を終えた『ファーストペンギン!』のあらすじを。
岩崎和佳(いわさき・のどか/演:奈緒)は東京から寂れた港町へ、一人息子と移住をしてきたシングルマザー。旅館で仲居をしながら、仕事を探している。ある日漁船に乗る片岡洋(かたおか・ひろし/演:堤真一)から、地元漁業の立て直しの依頼を受けた。仲介業者をなくして、消費者に安く魚介類を販売するシステムを思いついた和佳。ただその前には、柔軟性ゼロの親父たちが立ちはだかる。
第1話、とても面白かった。絵本から始まるところに「?」と、思ったけれど見どころは終盤に詰まっていた。和佳が魚介の直販ビジネスを思いつき、謎の相談相手・琴平祐介(ことひら・ゆうすけ/演:渡辺大知)のアドバイスも受けて、実務に乗り出す。そこにストップをかけてくるのは、ナイスキャスティングの杉浦久光(すぎうら・ひさみつ/演:梅沢富美男)。依頼をしてきたはずの片岡まで、杉浦側に回ってしまう……。ついさっきまでヒーローだったのに、お代官様の登場で悪者になってしまう和佳。こりゃおかしい。そこで名前の「のどか」とは裏腹に、ブチ切れ出す和佳。
「イカれてんのは、てめえだ タコ! とち狂ったタコは自分の足を食って、うっかり死ぬんだってね?(あんたも)笑われればいいわ、てめえの足を食い尽くして、日本中の笑い者になればいいわ! このイカれドタコ!!」
般若のような怒り狂った形相で、おっさんたちに楯突く和佳。わかっている、頭ではわかっているのだ。長い物には巻かれたほうが楽だって。でも正論が通じない面々にはこのブチ切れ方式は最適だと、私も賛同する。何よりもドラマとして、女優が予想外の演技で終わるのはすばらしい余韻。「来週も見よう」となる。それまでどんなダラダラしたシーンが続こうとも、終わりよければすべてよしなのだ。
この人の"そこはかとない親近感"はかぐわしい……
兎にも角にも、ひさびさに第一話からスカッとした『ファーストペンギン!』。あんまり良すぎたので、たった1話しか視聴をしていないが、まだ書きたい。
このドラマ、実話を元にして制作をしている。なんの根回しもなく、次から次へと稼ぐために体当たりしていく和佳の様子。モヤモヤする人も多いと思うが、この体当たりがないと世の中は進化をしないし、経済も回らないと個人事業主として働いていて、ひしひしと感じる。前例がなければ動かせない、金は出せない、今のひからびたシステムを担保したまま、さらに儲けたい。そんなことを言う輩はドラマだけはなく、実在するのですよ、皆様。
特に漁業は男社会。昔気質の方式を1ミリも崩さない、戦後の昭和のような商売が多々ある。なぜその土地にたどり着いたのかも、これからドラマの中で明かされていくだろう。これも縁だと、和佳には本当に頑張ってほしい。なんなら血管が切れない程度に、毎週怒鳴って終わってもらうのもいいじゃないですか。
今回、視聴者の心を本当に鷲掴んでしまった奈緒さん。今回は連続ドラマ初主演ということで、本当にめでたい。朝ドラ『半分、青い。』(NHK総合・2018年)にヒロインの幼なじみ役で見かけたときには「ほんわかした人」と思っていた。でも惹かれるのである。杉咲花ちゃんと見かけたときのような感覚に似ていた。「絶世の美女!」「手脚が死ぬほど長い!」といった、具体的な理由に紐づくのではなく、なんとなく見たい。
見たいと思った理由は『あなたの番です』(日本テレビ系 2019年)の尾野幹葉役で判明。これは私の主観だけど、あの犯人探しの面々の中で、一番狂気に満ちていたのが奈緒さんだったと思っている。だから今回のブチ切れシーンも納得。そこはかとない親近感の向こうにある、確かな憑依力とでも言おうか。『ファーストペンギン!』、彼女の魅力がもっと世に伝わる作品になりますように。