エンタメライターのスナイパー小林が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第8回は女優の徳永えりさんのことを書いていきます。今クールは2作品を掛け持ちで出演中の徳永さん。『健康で文化的な最低限度の生活』(関西テレビ系、フジテレビ系・毎週火曜22:00~ ※以下、ケンカツ)では定食屋の女店主、青柳まどか役。そして31歳と高校一年生の恋愛を描く、初主演の『恋のツキ』(テレビ東京系・毎週木曜25:00~)。

どちらも楽しみにしている視聴中の作品です。が、妙齢女性世代と年下男子好きを代表して『恋のツキ』に関するネタを多く書いてしまう気配が満々なので悪しからず。

けして多くは語らず、演技で大胆に攻め込んでくる

徳永えり

映画館でバイト中、31歳の平ワコ(徳永)は結婚を意識しながら、3年間彼氏ふうくん(渡辺大知)と同棲中。最初はワコのことを好きで仕方なかった彼氏も倦怠期という名前を利用してか知らずか、上から目線のフッツーのクズ男に。そんなところに現れた顔がめちゃくちゃタイプの王子様は、高校一年生だった……。

というのが『恋のツキ』のあらすじ。年下男子との恋愛ドラマと聞いて放送前から期待が止まらなかった。なんせ私は『ロングバケーション』(フジテレビ系・1996年)、『魔女の条件』(1999年)や『きみはペット』(2003年・ともにTBS系)で毎週大騒ぎしていたドラマ世代である。そして男女の年齢差は31歳と15歳で16歳の最長差をマーク。時代は進化し続けているのだろうか。このままだと20歳差のドラマも生まれそうな勢いだ。

さてこの作品で一見、おとなしそうな31歳を演じているのが徳永さん。でもその中身は彼氏とのセックスに満足感が持てない、タイプの男子高生にはいきなり自分から股間に触れるような大胆さを持つ。

作品自体がまるで映画になりそうな質感とは反するように、原作に忠実でセリフもラブシーンもかなりエグい。口淫シーンなんてそのへんのAVよりもだいぶ生々しい。医療ドラマ並みに、食事をしながら見るのが不可の域。地上波放送ではギリギリのラインだし、そろそろ倫理委員会からテレ東に連絡が入っているのではないかと心配になる。

徳永さんといえばNHK御用達の女優さんで、すでに20作近くのドラマに出演。中でも『わろてんか』(NHK総合・2017年)でヒロインを支える女中・トキ役が話題になった。女優としてのブランディングを考えると、朝ドラでブレイクした人気を担保するためにも、守りに入ることが処世術だと思うのだけどそこを捨てて、敢えての濡れ場シーンへトライ。それも近年のドラマ作品では第1位に輝きそうなほどの過激さだ。

その守りに入らない強い姿勢の徳永さんがたくましくて好きだ。SNSをチェックすると、出演作のPRがほとんど。それも本人の言葉で綴られていて可愛らしいのだけれど、けしてマウンティング投稿はない。余分なことは語らず、演技で自分の強さを語る。そんな頑固一徹九州親父のようなたくましさを彼女からじわじわと感じるのは私だけだろうか。

濁りのない"ふつうっぽさ"こそが徳永えりの妙味

徳永さんの存在が離れなくなったのは『いつかティファニーで朝食を』(日本テレビ系・2015年)の那須栞役。女友達4人の中で唯一の既婚者、独身で自由に遊ぶ友達たちにコンプレックスがあったり……というよくある役柄。でも徳永さんの演技は鮮明に記憶に残った。主役のトリンドル玲奈の可愛さを喰うほど強さがあったのを覚えている。

『デイジー・ラック』(NHK総合・2018年)の岩代えみ役もそうだった。女友達4人の中で専業主婦。各々に自分の目標や仕事に向かって邁進する友達に囲まれて一人だけ出産問題に悩んでいる、ごくふつうの女性。『恋のツキ』のワコ役に近いものがある。でも改めてこうして並べてみるとふつうっぽいのに、強さがある女性の役が多い。そしてそれらにするりと自分を投下させてくるのが徳永さんの魅力なのだと思う。

朝ドラから始まったいわゆる快進撃。自分が求められることには迷わずに飛び込んでいく姿勢が、ワンクール2作品の掛け持ちは当たり前というポジションを生んだ。

ちなみに今年の1月1日、彼女のスタッフツイッターに徳永さんからのこんなメッセージが書かれていた。

「あけましておめでとうございます。 今年もわたしらしく、怖れずに。 30歳になるこの年が、 実りあるものになりますように」

やっぱり徳永えりは有言実行の男前な女優だ。

スナイパー小林

ライター。取材モノから脚本まで書くことなら何でも好きで、ついでに編集者。出版社2社(ぶんか社、講談社『TOKYO★1週間』)を経て現在はフリーランス。"ドラマヲタ"が高じてエンタメコラムを各所で更新しながら年間10冊くらい単行本も制作。静岡県浜松市出身。正々堂々の独身。