幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。
第77回は女優の倉科カナさんについて。現在『婚姻届に判を捺しただけですが)』(以下、ハンオシ)(TBS系)、『らせんの迷宮~DNA科学捜査~』(テレビ東京系)に出演中の倉科さん。実はここ数年、個人的にとても気になる存在でした。今、彼女の演技に対して感じることをコラムにしたいと申し出たところ、担当さんから「……小林さんが書く文章が目に見えるようですね……(笑)」。これはお褒めの言葉なのか、失笑なのかどちらかは分かりませんが、読み応えのある文章にしようと思います。
第1話のラストに恋敵で登場する姿は、まさしく"降臨"
今クールは2作品の連続ドラマに出演している倉科さん。どちらもバイプレイヤーらしからぬ存在感をアピールしている。でも今回は厚みを持たせたい『ハンオシ』あらすじをピックアップ。
デザイン事務所に勤務する大加戸明葉(清野菜名)。病に倒れた祖母の店を守るため、500万円の借金と引き換えに百瀬柊(坂口健太郎)と偽装結婚をすることにした。柊にはどうしても忘れられない人がいて、自分の恋心を守るために体裁だけの既婚者になりたかっただけと言う。複雑な事情を抱えた二人の結婚生活が始まった。
火10枠は中盤あたりから異様に盛り上がってくるので、第1話はあきらかに気を緩ませて見ていた。「清野菜名っやっぱり可愛いな……、でも生田斗真の嫁だもんな……そこもいいんだよね」などくだらないことを考えていた記憶がある。が、終盤に差し掛かったところで突然、倉科さんが登場してきたのだ。これには全視聴者が度肝を抜かれたはず……。個人的には登場の途端、ダースベーダーのテーマがBGMとして流れてきた。
倉科さんが演じるのは、百瀬美晴。柊の義姉であり、(おそらく)片想いの相手だ。これはいずれ偽装結婚がバレた時点で、明葉と一騎討ち勝負になるはずの恋の相手役……いや、火10恒例の当て馬になるのかもしれない。第1話の終盤で、期待値は200%まで上昇している。それほど倉科さんの存在は大きい。
"あざとい"を褒め言葉へとのし上げた1人では?
思い出して欲しい。上白石萌音さん主演『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』(TBS系)では、ヴァイオリニストの蓮見理緒役として同じ火10放送枠で出演。主人公の恋のライバル役としてあざとさを遺憾なく発揮していた。今回は2021年内で、堂々の2回目の出演だ。どれだけ"何かやってくれるだろう"という期待感が倉科さんに集まっているのかがわかる。
さり気なく、前出の文章内で"あざとい"と使ってしまったが、これは決して揶揄ではなく褒め言葉だ。それまであざとい女王の代表格といえば、民法各局の女子アナだった。会社員という強靭なヴェールに包まれながら、あざとさを下界に振りまき、何人ものスポーツ選手が倒れていった。女の敵として呼ぶにふさわしかった。でもその事実も過去のことであり、あざとさはいつの間にか生きていくうえでの武器になったのだ。
その変換を証明したのが、私が勝手に四天王と呼んでいる田中みな実さん、吉岡里帆さん、松本まりかさん、倉科カナさんだ。
そんな倉科さんの魅力がじわじわと伝わってきたのが『カインとアベル』(フジテレビ系・2016年)の矢作梓役で、兄弟から愛される役を見事に演じ切ったあたりから。そして『刑事7人』(テレビ朝日系・2015年~)の、水田環役で紅一点のポジションをがっちりとキープ。1度は『奪い愛、冬』(テレビ朝日系・2017年)の池内光役で大映系の路線にいくかと思いきや、『ミラー・ツインズ』(東海テレビ・フジテレビ系・2019年)白石里美役で、彼女らしさが発揮できる役へと返り咲いた。こうして並べてみると、ご本人同様、役名もいちいち可愛らしい。
最近では雑誌『anan』で、手ブラ姿の笑顔で表紙を飾っていた。強く、あざとく、美しい女性の特徴に"隠れ巨乳"があるが、倉科さんは隠すことなく潔く見せた。その強さは男性ファンではなく、女性ファンが軽く興奮を覚えたところで、今回の『ハンオシ』へと繋がっていく。自己論を確立した女優の活躍と、戦いはまだまだ続く。わたしたちはその様子をニヤニヤしながら待ち侘びているのである。