幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る“脇役=バイプレイヤー”にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。
第74回は女優の石田ゆり子さんについて。現在『TOKYO MER~走る緊急救命室~(以下、TOKYO MER略)』(TBS系)に出演中の石田さん。この連載を始めてだいぶ時間が経つけれど、バイプレイヤー界の大物の存在を失念していました。1988年のデビュー以来、絶えることなく作品に出演をし続けて、そしていつの間にか全女性の憧れの存在に立っていた石田ゆり子さんのことです。
"可愛い叔母さん"の代表格となった2016年
現在石田さんが出演する『TOKYO MER』も最終回を控えている。この辺であらすじを振り返っておこう。
「死亡者を出さない救命医療を」という東京都知事・赤塚梓(石田ゆり子)のもと結成された『TOKYO MER』の医療スペシャリストたち。事故現場に医療チームが駆けつけて、その場で手術も含めた医療処置を行い、命を救う。チーフに任命されたのは喜多見幸太(鈴木亮平)だ。さまざまな企みがチームの周囲を行手を阻む中、喜多見は死亡者ゼロの記録を継続することができるのか。
鈴木亮平さんの演技が大河主演超えと言われるほど、人気の『TOKYO MER』。フジテレビが『救命病棟24時』(1999年)『コード・ブルー』(2008年)で寡黙で孤高の救命医で人気を稼ぐのなら、TBSの救命医はひたすらしゃべっている。『病室で念仏を唱えないでください』(2020年)など、重症患者を前にして良いテンポで、無駄に感情を露出することなく何かを発している。そこが面白い。
その医療チームの背後で、毎回司令室に立っているのが東京都知事の赤塚だ。今回は石田ゆり子さんのイチファンとしてこの原稿を書いているけれど、どうもこの配役は消化不良である。できれば石田さんには医療チームのベテラン看護師役か、医者役でスタメン入りを……とどうしても欲深くなってしまう。
ではどんな演技が見たいのか? と言われれば、やはり彼女が多くの人に知られることになった『逃げるは恥だが役に立つ』(以下、逃げ恥)(TBS系 2016年)の、百合ちゃん役。キャリアウーマンなのに、叔母の前では可愛らしい本音全開のただの叔母バカ。アラフォーでも恋はする、悩む。全女性が待っていた理想像を百合ちゃんが果たしてくれた瞬間、石田さんは中年女性の星になった。
センスの良い生き方に我々のハートは奪われた
とても理想的な生き方をされている一人の女性だと思う。
一般的な社会的ポジションを辿ると、トップに立つ者、そのサイドに立つ二番手とピラミッドが形成されていく。その中でも二番手がかっこいいと称されることがある。私もこれはずっと頷く。一番手になれば不恰好なところもつい出てしまうし、下からは嫌われてしまうこともある。愛され一番手は簡単には存在しない。この二番手が、演じる人たちの間ではバイプレイヤーに当たる。
『逃げ恥』以降で彼女の存在を注目した人に伝えたいのだが、石田さんはとんでもない数の作品に出演をしている。ただ彼女に関する情報が少ない。妹さんも女優であること、『不機嫌な果実』(TBS系 1997年)では過激なシーンが多くて、厳格なお父さんが激おこしたこと。水泳が得意であること。ドラマオタクの私にもその程度の情報しか知らなかった。
それでも主役を殺すことのない安定感のある美しさを携えて、彼女は"ずっとテレビで目にしている人"だった。この流れを変えたのがインスタグラムだ。今まで秘密のヴェールに包まれていたような私生活が一気に見えたのである。
インスタの中にはペットの前ではデレデレ、住まいの中に香るセンスの良さ、読書家ならでは、の社会に対する造詣ぶり。待っていた"ゆりちゃん"が見えたのである。
女性が働く世界はまだ完全完璧に確立されたわけではない。定年まで働き遂げる会社員も、私のような個人事業主も少ない。どの背中を見て進めばいいのか不安に駆られる時がある。そんな時に良バランスでふんわりと登場したのが、石田ゆり子さん。淡々黙々、という雰囲気で働き続けて、その影で温めてきたセンスの良さをSNSで開花させた。それが45歳前後のことだ。"何歳になっても輝ける"とはいうけれど、どこか絵空事のような言葉だった。でもキッチリと体現してくれた彼女なら、人気が上がって当然だ。
だから私たちは華奢な石田ゆり子の背中について行きたくなるのだ。色々思い返すと、その理由が分かった。次回に出演される作品はできれば可愛くお願いしたい。お待ちしております。