幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。
第70回は俳優の板垣李光人さんについて。現在『カラフラブル~ジェンダーレス男子に愛されています。~』(以下、カラフラブル)(読売テレビ・日本テレビ系)に出演中の板垣さん。ユニセックス、中性的など彼の美しさに溢れたビジュアルが、各所で話題になっています。うん、確かにかわいい。でも一言だけでは表現できない、確固たる姿勢を持っていると思うのです。
板垣李光人による、板垣李光人のための『カラフラブル』
まずは物語が後半戦へ突入した『カラフラブル』のあらすじを紹介しよう。
町田和子(吉川愛)は出版社に勤務する、漫画編集者。高校時代の後輩・相馬周(板垣)と再会するやいなや、告白をされる。周の人並み外れた美しさに、好意をなかなか受け入れることができなかった和子。でも自分の気持ちも次第に膨らんでいくことを感じて、つき合うことになる。そして周は芸能事務所からオファーを受けて、タレントとして活動することに……
美しさゆえ、という言葉が正しいのだろうか。周は学生時代から何度かいじめられる経験を持っている。そのうちの1回を和子に救われて、恋心が芽生えているという過去がある。美しさが前に進む弊害になってしまうなんて、なんと寂しい展開なのだろうか。
スタイリストの周、モデル、子ども番組のお兄さんの3人でユニットを組んだことも、今までの(大小はあるけれど)悔しさを晴らすため。世間に自分のような中性的と言われる存在や趣味が普通であり、個性だと記者会見のシーンで話していた。その様子を見ながら「あ、これご本人のこと……?」とひらめく。
美しい容姿や、女性的と言われる趣味が引っかかってなかなか進まなかった恋に、コンプレックス。でも周は前進している。『カラフラブル』は板垣さんという話題の存在ありきで作られたドラマだ。
あざとさを感じさせない、令和版のメンズビューティー
板垣さんの存在をしっかりとこの目で確認できたのは、やはり『ここは今から倫理です。』(NHK総合 2020年)。この作品そのものが、優等生のNHKで制作されているとは思い難いセンセーショナルな内容だった。高校生活の中に『セフレ』という言葉も飛び交っていたといえば、分かってもらえるだろうか。板垣さんは生徒役で出演していたのだが、可愛すぎる顔がイケメンスナイパー(私)の目に引っかかっていたことを思い出す。
おそらく彼はこの頃から、板垣李光人という名前を知られるようになったジェンダーレスなスタイルをしていたはずだ。
芸能界で「可愛い!」と呼ばれる男性タレントといえば、ジャニーズを筆頭に過去には成宮寛貴さんがいた。此処数年の記憶では、振る舞いもあざとさもトップクラスだった。それらを引き継ぐように千葉雄大さんがいて、現在へ繋がっている。
ただ板垣さんは今までの流れのどこにも属していない。特にブランディングのひとつとしてメイクやファッションを嗜んでいるわけではない。雑誌やSNSをチェックすると、女性ファッション雑誌に掲載されているようなコーディネートや、美容が本当に好きなのだというのが伝わってくる。まったくあざとくない。ただ人としてきれいにしたいからそうしている、という意思の強さがクリアなのだ。スカートもアクセも何もかも、審美眼に適ったものを身につけているだけ。そして彼にはこんなふうに言ってほしい。「好きで何が悪いの?」
並べたような意思の強さが、今後演技でも見られるといいなあと思う。『カラフラブル』はパブリックイメージを1ミリも裏切ることはなかったけれど、今度はズッタズタに裏切ってほしい。女ったらしのクズ男や、恋の当て馬役、希望。
余談だけど、あのつるんとしたおでこは見ていて幸せな気持ちになるのは私だけでしょうか?