幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第45回は俳優の磯村勇斗さんについて。周囲の時間と金を持て余した独身女性に大変人気です、彼。自粛を求められている今でさえも、ちょくちょくテレビで見かけるのは、やはりこの世が彼を求めている証拠なのでしょうね。ビジュアルの良さはもう周知のものとして、ではどこが彼の魅力なのかその秘密を私なりに抽出してみることにしました。絞り出したその魅力はすごく美味しいかもしれません(ゴクリ)。

敢えて"こじらせ路線"に足を踏み入れた勇しさ

磯村勇斗

磯村勇斗

磯村さんを見ていると一番に思いつくのが、多忙そうなイメージ。思いつく限りで、彼が昨今演じた役柄をピックアップしてみよう。まず彼といえば、出世作になった『ひよっこ』(NHK総合・2017年)の前田秀俊役。ヒロイン・谷田部みね子の旦那さんになったヒデさん役である。ドラマ内ではみね子が島谷(純一郎・竹内涼真)くんとは格差を理由に別れることになってしまい、全視聴者が心を痛めていた。あまりにもみね子がかわいそうではないかと。そこへ現れた王子様が磯村さん演じる、救世主のようなヒデさんだった。

そしてこの後に彼の忙しさは増していく。例えば世代を超えて視聴されたドラマ『今日から俺は!!』(日本テレビ系・2018年)では、ヤンキーの相良猛役に。薄グレーの制服でケンカをしながら、血塗れになっていたことを思い出す。

ヒデさんのイメージはここで良い意味で一層され、次に印象づいたのがゲイの役だ。『きのう何食べた?』(テレビ東京系・2019年)では、ジルベールと名乗り、おじさんたちのイチャイチャに巻き込まれる青年を演じていた。そして最近では『サ道』(テレビ東京系・2019年)で、よくサウナに入っている。ああ、新人刑事として頑張っていた『ケイジとケンジ~所轄と地検の24時~』(テレビ朝日系・2020年)もあった。それから、それから……。

これがたった3~4年間で磯村勇斗さんにおきた出来事である。

後ろ姿からも漂いそうな、いいひとの香り

コック、ヤンキー、ゲイ、サウナ、刑事……と(多分若いので実際には回らないと思うが)目が回るような忙しさである。中でも『きのう何食べた?』のジルベール役に踏み込んだことは、彼とマネジメントの強さを感じてしまった。

朝ドラで王子として世の中に君臨したのなら、王道路線から外れない選択肢を選ぶ人が多い中、敢えてゲイ役へ道を外れたのは、ちょっとした勇気が必要だったと思う。西島秀俊さん、内野聖陽さんのような地位も実力も兼ね備えた俳優ならまだしも、これからを嘱望される立場の新人さんなら賭けに近かったのでは? と思う。でも磯村さんはその役を自分のモノにして無事、帰還。

それから上記に挙げた役をクリアするのは、同時にビジュアルの変化も求められるので、金髪にしたり、身体を鍛えたりと確実にストレスを与える。それが仕事だと言われればそれまでかもしれないけど、変化を見せることでくじけそうになっている俳優さんをチラホラ見かけた。でも磯村さんのことは聞こえてこない。

「この人、ひょっとしたらめちゃくちゃいい人?」

そう思った。そしてこんなことを思い出した。

記憶が薄らなのだけど、去年、撮影時のエキストラ募集の広告に『俳優の磯村勇斗さん出演!』と書かれていて驚いたことがある。通常はイメージを考慮して、ブランド=俳優をエキストラ募集に使うのは積極的ではなく『有名俳優が参加!』と匂わせているだけだ。でも番組のためならと、事務所もご本人も承諾したのだと思うと、細かな事情はさておき、いい人なのだろうなあ……と納得。彼の魅力はここにあった。(たぶん)いい人だ。こういう人と一緒に仕事をしたいです。

そんな彼が来年公開の映画版『きのう何食べた?』に出演すると聞いた。いい人の彼はきっとこんな最中でも、ゲイ役を楽しみ、そして冒頭に書いたアラフォーたちの夢を背負ってカッコよくいてくれるのだと思う。

小林久乃

エッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター。エンタメやカルチャー分野に強く、ウェブや雑誌媒体にて連載記事を多数持つ。企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊を超え、中には15万部を超えるベストセラーも。静岡県浜松市出身、正々堂々の独身。女性の意識改革をライトに提案したエッセイ『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)が好評発売中。