幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第43回は俳優の安藤政信さんについて。現在、ドラマ『テセウスの船』(TBS系)に出演中の安藤さん。おそらくこのコラムを読んでくださっている20~30代の読者のみなさんは、彼の存在を深く知らないと思います。最近よくテレビで見る人という印象しか残っていないでしょう。でも安藤さんと同世代にとって、彼は女性にとってアイドルであり、そしてヒーローなのです。

平成の銀幕スターがテレビドラマに君臨……!

ドラマ『テセウスの船』(TBS系)に出演中の安藤政信

安藤政信

1989年に起こった「音臼小無差別殺人事件」。その犯人と言われるのが、田村心(竹内涼真)の父、佐野文吾(鈴木亮平)だ。凶悪殺人犯の息子と言われて、日陰の人生を歩んできた心。苦難を乗り越え、由紀(上野樹里)と結婚。そして子供が生まれるものの、由紀は出産時のトラブルで死亡してしまう。その直後、心はタイムスリップを繰り返し、父の無実を証明するため、そして歴史を変えようと懸命に動き出す。

というのが『テセウスの船』のあらすじ。よく考えると、主人公がタイムスリップを繰り返すというのはとても壮大なファンタジーではないかと、試聴しながら感じるようになった。そして心は、いつもタイミングが悪い。あと一歩で父親の無実にたどり着く……! という局面で、チャンスが手から逃れていく。そしてジリジリする。あれ、結果、私はこの作品にハマっているということか。

この作品で安藤さんが演じているのは、木村みきお役。幼少期は音臼小学校に通い、佐野文吾が起こしたと言われている殺人事件に巻き込まれて、両親を失い、車椅子生活を余儀なくされた。そして当時の小学校担任だった、木村さつき(麻生祐未)に引き取られて育つ。なんと、みきおは心の姉の夫になっていた。またこの設定だけで状況はややこしくなってくるのだが、みきおは「音臼小無差別殺人事件」の真相に大きく関わってくる存在だ。

先週の放送では、みきおが犯人であると自白。そして車椅子を使用していることも虚言、自分の母親を含めて事件に関わる人間を殺害したのも自分だと言う。そして、心はまた事件当時へタイプスリップ。凄惨な事件の主犯は小学生のみきお……? と、ドラマはだいぶ煮詰まってきた。

さて、安藤さん。恐らく若手視聴者にとっては「最近、よくドラマに出ているかっこいいおじさん」というイメージしかないかもしれない。でも安藤さんは、今から約20年前、女性人気を席巻したトップ俳優だった。男性の心もさらっていたかもしれない。彼のデビュー作、映画『キッズ・リターン』(1996年)はいわゆる男の生き様、友情をまるっと映し出したような作品で、男性ファンも多かった。宣伝用のポスターの主演2名が、自転車に二人乗りしているシーンは記憶している人も多いと思う。

デビュー作以降も安藤さんは、映画出演にこだわっていた。ひょっとしたらマネジメントサイドのブランディングだったかもしれない。ドラマが全盛期だった当時、映画出演に露出を狭める方向性はとても珍しかった。なんてたって、あの爽やかさも、悪そうな雰囲気もたずさえたハンサムである。女性ファンが追いかけないわけがない。少ない情報を頼りに、私たちは安藤さんに見惚れていた。というか、彼のことがタイプだと公言するのは、ちょっとお洒落っぽい感じで良かったのだ。そう、彼は平成版の銀幕スターだった。

イケてる中年枠のトップ3にランクインする日も近い

それが安藤さんは2012年ごろ、忽然と姿を消す。引退したのかと視聴側が思うほど、メディアで見なくなった。

それが、だ。

2016年放送の『校閲ガール』(日本テレビ系)にゲスト出演した付近から、彼のことをテレビで見かけることが多くなった。

「あれ? 安藤くん?」

老けても安藤政信は安藤政信。あの精悍な顔立ちはそのままだ。そしてその後は『コード・ブルー -ドクター ヘリ緊急救命』(フジテレビ系 2017年)、『あなたの番です』(日本テレビ系 2019年)と立て続けにドラマへ出演している。その背景には事務所移籍、結婚と身辺に変化はあったらしい。でもその状況が功を奏したのか、彼を見る機会は確実に増えている。

同時に彼の実力は揺るぎないものだと証明された。映画だけではなく、テレビでもバイプレイヤーとして出演が途切れないのは、彼のビジュアルも含めた実力そのものであると。

話は変わるけれど、最近Twitterで女子の"おじさん好き"のおじさんは竹野内豊、堤真一、田辺誠一、江口洋介……だと表現されていて、笑った。確かにそうだ。でも令和に蘇った、最強おじさん俳優・安藤さんもこのラインナップに参入してくる日も近いだろうなと思う。あの見た目で44歳だぜ?

小林久乃

ライター、編集者、クリエイティブディレクター、撮影コーディネーターなど。地元タウン誌から始まり、女性誌、情報誌の編集部員を経てフリーランスへ。エンタメやカルチャー分野に強く、ウエブや雑誌媒体にて連載記事も持つ。企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊を超え、中には10万部を超えるベストセラーも。最新刊は『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)。静岡県浜松市出身。正々堂々の独身。