エンタメライターのスナイパー小林が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。第33回は俳優の小手伸也さんについて。

ドラマ『モトカレマニア』(フジテレビ系)に出演中の小手さん。月9出演以来、もう細かな説明は不要なほど、毎クールドラマに出演を果たす人気者です。その背景には40代でブレイクをしたことなどが挙げられていますが、それ以外にも私が気づいた彼の魅力や諸々を綴ります。今回は真っ直ぐな女目線でお届けいたしましょう。

  • 小手伸也

CM王の座に君臨する日も遠くはないはず

どうしても、元カレ・マコチ(高良健吾)のことを忘れることができない、難波ユリカ(新木優子)。元カレと妄想で会話、SNS検索など、その迷走ぶりはまるでアイドルを神格化させたオタクのよう。自覚はあるものの、どうしても現実ではうまく恋愛をすることができない、ユリカ……。

というのが『モトカレマニア』のあらすじ。小手さんはマコチこと斉藤真の勤務する不動産会社の社長役。社員の白井忠文(関口メンディー)、大沢将(森田甘路)の3人で、女性とは飲まないと公言する『ハラミ会』の一員だという。この3人の出演陣の名前を聞いただけで、何やら芳ばしい香りが漂ってくるではないか。きっと今回もラブコメディーにふさわしい、お茶目な演技を披露してくれると期待している。

小手さんといえば、ふと思いつくのがちょうどいい中年感をキープしている俳優であること。数年前のブレイクからテレビドラマには主役を立たせるためには必要な存在になった。同じラインで言うと、俳優の佐藤二朗さんが挙げられる。ビジュアルから推測されて、いわゆる"個性派"として活躍を見せる人たちだ。

そんな視点で小手さんを見ていても、どうもしっくり来ない。何だろうと違和感を感じて考えて、彼の名前を検索すると画像が出てきた。これがご本人はかっこよく決めていると思うのだけど、今の演技と重ならず、つい笑ってしまった。でもそこで小手さんをよく見直して気づいた。彼はイケメンなのである。

もし時間があればネット検索してもらうと『小手伸也 若い頃』というキーワードが出てくる。そこには若かりし頃の彼が並んでいる。今よりもふた回りはスリムで、くっきりとした目鼻立ちがわかる甘顔だ。それも絶世の美形というわけではなく、7人くらいのアイドルグループで目立ちづらい陰の存在という雰囲気。だから"個性派"にカテゴライズするのは「?」だったことが納得。

かと言って、彼が今からダイエットに励んだら魅力のベクトルが行き先不明になると思うので、お勧めはできない。何よりあんな幸せそうな体型はシチューのCMあたりで眺めたい。広告代理店の友人が

「あの人、美味しそうにものを食べそうだし、太っているけど不潔感がないんだよな」

と言っていたことを思い出した。目立たないイケメンという武器が、不潔感を差し引いてくれたのだと思う。

本当のシンデレラとは、自宅で帰りを待つ奥様では?

2018年に出演した『コンフィデンスマンJP』の詐欺師役で話題をかっさらった。主演の長澤まさみ、東出昌大、小日向文世らに近い存在で、メインの舞台になったスイートルームに度々出没。インパクトのある見た目と、声でSNSを

「あのおっさん、誰??」

と、騒つかせた。月9に突然出演する俳優さんたちはいるけれど、爪痕を残す人はやはり極小。小手さんはこの作品に出演してブレイクした自分のことを

「シンデレラおじさん」

と呼んだ。その名前の通り、出演作は留まることなく続き、自身がよくネタにしているコールセンターのバイトもままならないほどになった。確かにこれは夢のある話だし、現実だ。運も実力のうちという言葉を体現した。

ただ個人的には売れなかった時代の彼を愛して、支えた奥様こそがシンデレラなのだと思う。ご家族に関する詳細状況は分からないけれど、売れるか売れないか検討のつかない40歳過ぎの夢追い人のために、博打のような賭ける愛に出た奥様。その苦労の末に掴んだ夫のステイタス。そちらの方が泣ける話だと、女性目線で考えた。

ひょっとしたら奥様はバリキャリ、いやドチャクソお嬢様と言った経歴をお持ちで、経済的には困窮していなかったかもしれない。それでも不安定な状況の人間が家族というのは存在するだけで、不安が募るもの。よく支えた、万歳!

そう思ったところで、奇しくもタイミングよく不倫報道が出てしまった。他所様の家庭だ、真相を詰めるつもりもない。せめて『小手先だけの男』だなんて、揶揄されぬように彼を案じながら、『モトカレマニア』の演技に期待したい。

小林久乃

ライター。取材モノから脚本まで書くことなら何でも好きで、ついでに編集者。出版社2社(ぶんか社、講談社『TOKYO★1週間』)を経て現在はフリーランス。"ドラマヲタ"が高じてエンタメコラムを各所で更新しながら年間10冊くらい単行本も制作。静岡県浜松市出身。正々堂々の独身。