エンタメライターのスナイパー小林が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第24回は女優の江口のりこさんについて。現在放送中のドラマ『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)に出演中の江口さん。ここ最近、途切れることなく各所の作品でお見かけすることが多くなりました。今、巷で話題になっている"働き方改革"をザッパりと無視した勢いのある露出ぶり。そしてただ出演するだけではない、視聴者の心へ残すくっきりとした爪痕。彼女の人気が年々加速していく理由とは?

『わた定』の助演女優賞を江口さんに捧げたい

江口のりこ

WEBディレクターとして働く東山結衣(吉高由里子)のモットーは、定時で帰社をすること。18時までに仕事を終えて、タイムサービスの生ビールを飲んで、婚約者の諏訪巧(中丸雄一)と自宅でゆっくり過ごす。これが結衣にとっての幸せだ。が、元・婚約者の種田晃太郎(向井理)が部署に転職してきたことや、責任ある仕事を任されたことで、幸せだったはずのペースが狂っていく……。”

というのが、6月11日(火)に最終回を迎えるドラマ『わたし、定時で帰ります。(以下、わた定)』のあらすじ。"働き方改革"など労働に関する規定が見直されている今、にふさわしい作品だったのだ。

見どころはいくつもあった。上から目線の意見で申し訳ないけれど"普通っぽさ"を醸し出す演技が上手だった吉高さん。心の機微の表現が素晴らしかった。これまで数々の会社員の役を吉高さんは演じていたけれど、その中でも中で一番! と言ってもいいくらい自然にハマっていた。

それから全く劣化していなかった向井理さんのビジュアルには萌えた。毎週、女性視聴者も心が躍っていたはずだ……と楽しいドラマではあったのだが、個人的に並べた見どころをすっ飛ばすシーンが初回放送日に登場した。それが江口さん演じる、王丹の役だ。結衣たちが仕事終わりに立ち寄る中華料理店『上海飯店』の店主、そう中国人の役なのである。

「(中国語で)おまえに食わせるタンメンはねえ!」

「結衣さんを裏切り、傷つけ、ゴミクズのように捨てた男が!」

片言の日本語や中国語で勢いよくセリフを放つシーンは、インパクト大。そしてこれほどのベストキャスティングが他にあっただろうかと考え込んでしまうほど。かつて『ナオミとカナコ』(フジテレビ系・2016年)で高畑淳子さんが中国人の女社長を演じて、人気の一人占めをしたことがある。誰もが立ち入ることをためらうようなポジションに、江口さんはあっさりと足を踏み入れた。

そんな江口さんの演技が毎週楽しみだった『わた定』。途中から主人公が定時で帰ろうが残業しようが、とにかく『上海飯店』に立ち寄って欲しくなっていた。もしあれば彼女に助演女優賞を贈呈したい。

迫力のある声とビジュアルを武器に示す、存在感

江口さんの特徴のひとつに"発声"があると思う。床から天井に向かって、真っ直ぐにスットーンと抜けるような声。勢いがあって「アホちゃうか」の一言も、彼女が言うとだいぶ迫力が増す。でも運がいいことに、耳障りがしない周波数をしているのだ。だから大きめの声でセリフを発しても、決して邪魔にはならない。

それから170センチの高身長に加えて、やや広めの肩幅はその辺の男性よりもたくましさがある。声と身長、彼女の2大特徴に気付かされたのは『恋愛時代』(読売テレビ・日本テレビ系・2015年)だった。満島真之介が完全イケメンキャラで、深夜にラブストーリーに出演していた今思うと奇跡のようなドラマだ。

ヒロインの親友役として、江口さんは出演。女優陣がそれなりに可愛い衣装を着ている中、彼女はいつも体育教師のような、ザ・ジャージ姿で登場する。元レスリングの選手、宅配便を配達する仕事しているという設定にぴったりだった。『マッサン』(NHK総合・2014~15年)で、存在は知られていたけれど個人的にはこの作品での存在が印象深かった。見ているうちに目が離せなくなり「この人、きっとジャージを脱いだらむちゃくちゃ色っぽいんだろうな」とも想像した記憶もある。

江口さんを見ていると"特性を活かす"ことの重要性を改めて感じる。少しオーバーに表現するなら"コンプレックスを良点に変える"だろうか。ほとんどの演者がコンプレックスを消したり、隠したりする。代わりに何か美しい部分を立たせて、目くらましをしようとする。でも江口さんは違う。いつだって彼女はドン、と体当たり勝負だ。それが気持ちいい。このママの勢いで、また私たちを演技で驚かせてほしい。

スナイパー小林

ライター。取材モノから脚本まで書くことなら何でも好きで、ついでに編集者。出版社2社(ぶんか社、講談社『TOKYO★1週間』)を経て現在はフリーランス。"ドラマヲタ"が高じてエンタメコラムを各所で更新しながら年間10冊くらい単行本も制作。静岡県浜松市出身。正々堂々の独身。