エンタメライターのスナイパー小林が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。第23回は中村アンさんについて。

現在放送中のドラマ『集団左遷!!』(TBS系)に出演中の中村さん。令和の現在にはさまざまなタイプのミューズがいるけれど、彼女はどこにも属さないニュータイプ。果てしなく続いていくようなヘルシーさが売りのように見えて、実はめちゃくちゃ意思が強い女性だと数年前から注目しています。女優? モデル? タレント? 一つの枠には止まらなず、そして今年32歳になる中村さん魅力をプレイバック。

美スタイルだけではない、ブレなし! のブランディング

中村アン

三友銀行・蒲田支店の支店長に就任した片岡洋(福山雅治)。ただこれはおめでたい出世ではなくて、本部から「(蒲田支店は)廃店が決まっているから、ノルマ達成に頑張らなくてもいい。廃店になってもあなたの社内身分は保証する」という合点のいかない通達を常務取締役から受ける。熱くなりやすい性格の片岡は、蒲田支店の続投を目標にノルマ達成に乗り出すことに……。

というのが、ドラマ『集団左遷!!!』のあらすじ。中村さんは問題の蒲田支店に勤務する法人営業1課の銀行員・木田美恵子を演じている。ドラマの中では、女性行員とは思えない強気の言動が目立つ。公式ホームページを見ていると、『元ヤンで大検を受けて銀行に就職、曲がったことが嫌い。セクハラで上司を殴ったことがきっかけで蒲田支店に左遷』という木田のキャラ説明があった。「おお! ナイスキャスティング!!」と目を見張る。

モデル業と同時並行で2010年の深夜ドラマで、女優デビューを果たした中村さん。バイプレイヤーとして数作品に出演を重ねて、2018年には『ラブリラン』(読売テレビ・日本テレビ系)で主演を果たしている。その役柄を思い返すと美人で、主人公たちの色粉沙汰にちょっかいを出してくるような"小悪魔"風なタイプが多かった。それも菜々緒のようなサイコパスではなく、あくまでも女らしさをアピールしてくるタイプ。それが今回の役・木田美恵子は元ヤンで、曲がったことをしないという設定からして、ご本人に寄ってきた感じがある。つまり、非常に似合っているということ。

ここで彼女に関する記憶を掘り起こしてみよう。演技の仕事をする前は、ぶっちゃけキャラを売りにしてバラエティ番組のひな壇に座っていた。数年前の流行だったモデルのパターンだ。彼女もまんまとその真ん中にいて、サッカー日本代表選手との交友関係を匂わせていた。キャラに迷走していたのだろうか。

それがトレーニングで体を鍛え始めて、かきあげヘアがトレードマークになった頃からはっきりと発言するように。この頃から私は中村さんが好きだ。

キャラ迷走期を"クリアな訴求"で脱出

2016年に『櫻井・有吉THE夜会』(TBS系)に出演した時のこと。かきあげヘアを始めた理由は、周囲から「色気がない」と言われたことだと話していた。こういうコンプレックスをきっかけにした奮起は、何よりも強い。わざとクセにしたかきあげ仕草やスタイルに対して賛否両論があったものの、中村さんはブレなかったという。それを

「モテたかったからです」

そう、きっぱりと言い切った。

ブログ(2015年『私の体について』)でも、自分のスタイル作りに対して

「変わりたいと思った」

と綴っている。日本国内だけなのだろうか。表舞台に立つ人間なら、水面下の努力や意思を敢えて公表しないことがなんとなく美徳とされている。個人的にはもったいないことだと思うけど。でもそういう風潮の最中で、欲求や願望をクリアに伝えていく姿勢は気持ちがいい。

そして私の中村(勝手に)クラスタぶりに火がついたのは2018年『情熱大陸』(TBS系)の出演時。

「(芸能界の)仕事をするってなったときに"売れたい"って思った」

この"売れたい"という一言が刺さった。売れる自信も気合いもなかったらうかつに発言できないことだ。「友達が勝手にコンテストに応募して〜」なんてよく分からない理由で芸能界を泳いでいる人間に聞かせたい。強欲そうに思われる言動こそが、自分の武器になるのだと。それはどんな仕事にだって通ずる。"強調"と"協調"の使い分けが気持ちの良い結果を作るのだと。

余談だけれど『情熱大陸』で中村さんがひたすらハイボールを飲んでいる様子を見て「あ、これなら太らないのかも」とひらめいた私。ジムのトレーナーに「中村アンが美容のためにハイボールしか飲んでいないんだって。だから私も昨夜ずーっと飲んでいたよ」と勝ち誇ったように報告。が、「それは体の土台ができた中村アンだから通用する話です!」と逆に怒られてしまったことがある。中村アンへの道はむちゃくちゃ遠いのだと実感した。

スナイパー小林

ライター。取材モノから脚本まで書くことなら何でも好きで、ついでに編集者。出版社2社(ぶんか社、講談社『TOKYO★1週間』)を経て現在はフリーランス。"ドラマヲタ"が高じてエンタメコラムを各所で更新しながら年間10冊くらい単行本も制作。静岡県浜松市出身。正々堂々の独身。