コラムニストの小林久乃が、ドラマや映画などで活躍する俳優たちについて考えていく、連載企画『バイプレイヤーの泉』。
第147回は女優の中村ゆりさんについて。私のように四六時中、連続ドラマを見張っているようなオタクにとっては、ずっとお見かけしていたきれいなお姉さん。最近観た『さよならのつづき』(Netflix)で、中村さんが演じた成瀬ミキ役の演技がとても良かった。そのことをおばさんの井戸端会議風に広めたくなったので、筆を取る。
変わりゆく夫を見つめるミキ
全8話の『さよならのつづき』は切ないドラマだ。
プロポーズされたその場で最愛の人を失った、コーヒー製造会社に勤務する菅原さえ子(有村架純)が主人公。失意の底で日々を送るなか、出会ったのは婚約者の中町雄介(生田斗真)の心臓を移植した大学職員の成瀬和正(坂口健太郎)。通常、ドナーとは手紙がコンタクトを取ることができない。ここで偶然が重なって、ふたりは出会ってしまう。
亡くなったと思っていた恋人の心臓が、目の前の人間の中で動いていると知ったら……そりゃ愛おしくなる。
ただ成瀬はミキ(中村)という名前の妻がいる。妻の実家で同居をして、ミキは農園業を手伝う。妻を裏切るつもりは毛頭ないけれど、さえ子を放置しておくこともできない成瀬。
主役のふたりが軸となって、ラブストーリーが進んでいくのは当たり前。ただ中村さんの「わかっているんだけど……」と思いながらも行動が止められなくなってしまう、ミキの成瀬を見守る演技が非常に良かった。いくつか挙げていく。
夫は移植後、急に明るい人間になり、性格も行動も食の好みも変わってしまう。移植相手を深く知ろうとする夫に、
「(事実を)聞きたくない。カズが(移植相手のことを)知りたい気持ちは分かるけれど、知りたくない」
本音が漏れるミキ。好きだった夫が移植で変わってしまいました、じゃあ離婚しましょうというわけにもいかない。病気で衰弱していた時期を支えたぶん、愛情は濃くなる。
繊細さを求められる演技にグッと
さえ子との対峙するシーンも強烈だった。もう夫と会わないでほしいと、さえ子に詰め寄るミキ。我慢が限界だったんだろう。
「あなたの恋人の心臓で生きていると思いますけど、成瀬は成瀬です」 「不倫のほうがよっぽど良かった!」
セリフが重かった。そうだよなあ、不倫ならもう三行半を突きつけることができるし、相手に呆れることだって、誰かを恨むことだってできる。でもミキにはその矛先がない。
そして第8話でも、ミキは妻の威厳を見せる。ハワイへとある理由でさえ子に会いに出かけた、成瀬。ミキはさえ子に直接電話をして、夫の行動に気をつけてほしいと言う。ここはクライマックスなので、具体的なセリフは避けるけれど、見た人には女の覚悟とプライドが集結したセリフが伝わるはずだ。
と、いつの間にか『さよならのつづき』、成瀬ミキ応援文になってしまった。ただ私も各所でレビューを書くときに、主役寄りの文章にならざると得ないことがある。いくら書きたくでも文字数と原稿料との戦いだってある。でもこの連載は『バイプレイヤーの泉』。主役以外の見どころをたっぷりと触れても、企画意図とはずれることがない。
直情的な表現をする演技は、観る側へストレートに伝わる。でも本音をどうしてもさらけ出せず、意としていない行動に出てしまう、人間のジレンマみたいな感情の演技はどうだろう。おそらく難儀で、繊細さを求められる演技ではないか。それらすべてを感じさせる演技を、劇中で中村ゆりさんがしていた。年末年始にかけてこれから『さよならのつづき』を観る人へ情報共有できたなら幸いだ。
今回、改めて年齢を見ると42歳と表記されていた。とても私と同じく中年ゾーンに位置するとは思い難いけれど、これからもどんな演技を見せてくれるのか心の底から楽しみだ。
『さよならのつづき』は、Netflixにて世界独占配信中。