コラムニストの小林久乃が、ドラマや映画などで活躍する俳優たちやについて考えていく、連載企画『バイプレイヤーの泉』。第143回は俳優の古田新太さんの変身ぶりについて、振り返りたい。2024年もあと2カ月ほどで終わろうとしているが、古田さんは今年も猛烈な勢いで働いていた。ドラマ5本放送、映画1本公開、舞台2本。これは現役アイドルではなく、還暦を控えた俳優のスケジュールである。
あっと驚く、真逆に人物へ変身
今年、彼の演技で視聴者がざわついたのは『不適切にもほどがある!』(TBS系)の犬島ゆずる役。犬島渚(仲里依紗)の父親役で登場した。ゆずるの若い頃を演じたのは、錦戸亮。脚本家の宮藤官九郎氏と、当時のプロデューサーの磯山晶氏が思いつきそうな演出である。見た目のギャップにこちらは「変身にもほどがある」と大爆笑。
古田新太が変身……? ふと脳内で類察していくと、脳裏に浮かぶのは映画『仮面ライダー ビヨンド・ジェネレーションズ』(2021年)の仮面ライダー役。もちろんお決まりの変身もバッチリで、現物は見ていないがこの玩具も売られたらしい。50代のライダー、視聴者もさぞ胸熱だっただろう。
さらに私の海馬は働く。ほとんどの人は知らないと思うが、2003年に放送された『ぼくの魔法使い』(日本テレビ系)というドラマがあった。脚本はおなじみ宮藤官九郎、主演は伊藤英明。ものすごく簡単に説明すると、猛烈バカップルの物語で、最高に楽しかった。マニアックすぎる設定だったのか、視聴率は(当時としては)低かったけれど、推しドラマの一作だ。
この作品で古田新太は篠原涼子に変身している。夫(伊藤)のために何かを思い出そうとすると、妻(篠原)が自転車でぶつかったことのあるおじさん、田町浩二(古田)に変身してしまう。
こうして思い返すと古田新太は視聴者が予想だにしない、素っ頓狂な方向へ変身する役がよーく似合う。確固たる返信ではないけれど、『俺のスカート、どこいった?』(日本テレビ系・2019年)で、女装をする原田のぶお役も楽しかった。
ただの役もすべて不自然さはなく、イタくなることはなく、大変よく似合っているのが彼の凄みだ。
三茶で見かける姿はドッペルゲンガーなのか
役で七変化を見せるなら、私生活でも色々な顔を持っている。というのが、ご本人がさまざまな取材で話しているけれど、彼は東京の三軒茶屋という街でほぼ毎日酒を飲んでいる。こんな情報過多な時代になろうとも、頑なに携帯電話は持たず、気ままに飲んでいるらしい。
実は私も数年前までは三茶こと、三軒茶屋に住んでおり、飲みに出かける主戦場の街だった。そのおかげで三茶界隈では、古田さんを10回以上お見かけしている。
時には真っ赤な顔で片手に缶ビールを持ち、牛歩のごとくゆっくり歩いている古田さん。はちきれんばかりの笑顔で、とんでもないイケメンや、美女を引き連れて歩いていることもあるし、カウンターで静かにしていることもある。道端で酔って、苦しそうにうずくまっていた時には、さすがに「大丈夫でしょうか」と声をかけた。
ひとつの街で、1人の芸能人を見かけているのに、印象が毎回違うおじさん。まるでドッペルゲンガー現象が起きているのか、多重人格なのか、都度、変身しているのか。ただ微笑ましいなと思うのは、街全体が彼を「あ、古田さんだねえ」と、見守っていること。芸能人だと騒ぐ輩は見かけたことがない。こんなことが許される有名人は、古田新太だけだ。
並べてみると公私ともども、変身というのか、さまざまな顔を見せてくれるというのか。ただともに、ご本人がキャラブレしていることはない。古田新太は古田新太のまま。側から見ているだけで、ものすごく憧れるけれど、彼のように、生きられそうにはない。だからつい視線が追ってしまうのだ。
現在、出演中の『モンスター』(フジテレビ系)のコメントでも「あんなきれいな男の子(ジェシー)と、どう付き合えばいいの。あ、そうか、趣里とジェシーを三茶に連れて行けばいいのか。天ぷら屋、もつ焼き屋か。ぜひ、3人で飲みたいですね!」と古田談。その様子、ぜひ三茶で拝みたい。