幼少期から熱血ドラマオタクというエッセイスト、編集者の小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。
第137回は俳優の八嶋智人(やしま・のりと)さんについて。平成からずっとテレビを愛している人たち(私含む)にとって、絶えず見かける存在だ。日本にはたくさんの俳優がいるけれど、眺めているだけで"ニヤリ"が漏れてしまう人は少ない。八嶋さんは53歳のおじさんでありながら、その代表格にいると思う。なぜこの人は令和6年の今、強烈に元気なのだろうか。
彼の登場だけで視聴者、ニヤリ
まずは現在、八嶋さんが出演されているドラマ『マウンテンドクター』(関西テレビ、フジテレビ系)のあらすじを。
信濃総合病院に新設された山岳医療チーム『MMT(マウンテン・メディカル・チーム)』。山で起きる事故を専門に対応している。チームのメインに属するのが、国際山岳医の資格を取得した宮本歩(杉野遥亮)。自らも幼い頃、兄が自分をかばって山での事故に巻き込まれてしまった過去がある。日々勃発する山での医療に歩は向き合い、救命の現場に立つ。
杉野遥亮が昨年の『ばらかもん』(フジテレビ系)で見せたような、ちょっと抜けた感じの主役なのかと思いきや、スタートしてみるとそうではなかった。きっちりとシリアスな内容だ。
医療ドラマといえばフジテレビの十八番。その系列局であるカンテレが制作しているとあって、BGMや手術シーンなど、緊迫感の演出がかなり秀逸。医療ドラマの醍醐味だと思うけれど、やたら主要キャストが多いので、毎回どんな過去が披露されていくのか? が面白い。病院内で常に歩と対峙している医師・江森岳人(大森南朋)の関係性も気になるところ。
そんな『マウンテンドクター』にMMTの救命救急医、小宮山太役として出演している八嶋さん。メスを握ったら完璧なのに、山小屋での医療当番には面倒なのか、行きたがらない。ただ院長の松澤周子(檀れい)にはめっぽう弱い。先述通りシリアスな物語でありながら、彼の演技だけはコミカルな雰囲気を漂わせている。これぞ、八嶋だ。
とにかく八嶋はブランディング上手
2000年代から今に至るまで、彼の活躍は全く止まらない。『HERO』(フジテレビ系 2001年)、『新選組!』(NHK総合 2004年)、『怪物くん』(日本テレビ系 2010年)など、いつ休んでいるのか不思議になるほど動いている。それだけオファーがあるということだ。
彼の名前が世に知られるようになったのは『トリビアの泉』(フジテレビ系 2002年)の司会の影響が大きい。番組そのものも人気があったけれど、高橋克己とコンビの司会2人はやたら視界に入ってくる。とりわけ、夜なのに絶妙に元気な小さいおじさんは「あの人誰?」と、視聴者の興味をそそった。バラエティー番組において、司会者の力は大きい。実際、番組はローカルからゴールデンに進出、その後もスペシャル番組として何度も放送された。
当時の司会ぶりを見ていて思ったのが「この人、俳優以外の仕事でもうまくやっていけるんだろうなあ」。パッと思いつくのが、ショッピングセンターの実演販売。家電量販店で法被を羽織っている販売員、保険の営業マン。とにかく何かを売らせたら上手なはず。そう思わせる何かを持っている。本人が売り込み上手だからこそ、着実に人気を重ねてきた。彼は日本唯一のセールスアクターかもしれない。
それを決定的にしたのが『不適切にもほどがある!』(TBS系)の本人役。全てアドリブのような芝居で、「仕事のためなら、なんでもやっちゃう八嶋智人」を手中にしていた。同時に敢えて書いているはずの"絵文字乱発おじさん構文" SNS発信も面白かった。ご本人が長年に渡って頑張ってきたイメージも、私の勘も間違いではなかったらしい。
彼の面白いところだけは抽出していると“チャラ八嶋”に思われそうだが、そうでは終わらない。実は彼、大学在学中に立ち上げた劇団『劇団カムカムミニキーナ』を、現在も続けている。自らを「眼鏡王子」と名乗り、役者と物販を担当しているという。八嶋さんほど芸能界で仕事が増えたら、華やかな世界一本だけに絞りそうなのに、役者としての原点を捨てないところが漢だなあと思う。
次に彼は何を見せてくれるのだろうか。