幼少期から熱血ドラマオタクというエッセイスト、編集者の小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。
第134回はタレントの岡部大(おかべ・だい/ハナコ)さんについて。坊主頭に大柄な体格、そして純度の高そうな顔つき。日本のドラマ、映画では物語を柔和するポジションのバイプレイヤーとして、欠落させたくない風貌だ。ただ世の中に多くはいないので、見つかった瞬間「これだ!」と制作陣は震えてしまう。その一説のおかげなのか、近頃は彼の姿をよくメディアで見かける。でもそれだけではない、私たちがどうしても彼を視界に入れてしまう理由など。
映画、ドラマには欠かせないバイプレイヤーに
まずは現在、岡部さんが出演する『ブルーモーメント』(フジテレビ系)のあらすじをどうぞ。
年々国内で増加する気象災害から人命を守るため、エキスパートが集められた、SDM(特別災害対策本部)。チーム内で司令塔となっているのは気象庁気象研究所の研究官、ハルカンこと晴原柑九朗(山下智久)。いくつもの災害を超えてきたSDMではあるが、気象予測というまだ認知の少ない分野のため、何度も活動停止に危ぶまれている。
フジテレビ連ドラの帝王、いや覇者であった山Pこと、山下智久さん。彼が久々に民放ドラマに君臨するとあって、放送前から夕方の再放送は全て彼の主演作が放送されるなど、一足早い、夏祭りを開催したドラマ『ブルーモーメント』。放送直後は「晴原が藍沢先生(ドラマ『コード・ブルー』の主役)にしか見えない」「SDMはMER(TBSで放送された『TOKYO MER~走る緊急救命室~』)ににている」などSNSが大騒ぎ。それだけ注目されるドラマだ。
この作品で岡部さんが演じているのは、SDMのメンバー・山形広暉役。国土地理院官僚の地理オタクだ。同じくSDEのメンバーである丸山ひかる(仁村紗和)とは喧嘩をしながらも仲が良く、お互いを尊重しあっているのが分かる。人間の生死に関わる緊迫した現場において、彼の存在は安らぎに見えるのは私だけろうか。
3代目『裸の大将放浪記』をぜひ
ドラマで彼の印象が決定的になったのは、朝ドラ『エール』(NHK総合・2020年)で見せた、茨城弁の田ノ上五郎役だ。小山裕一(窪田正孝)の演奏に憧れて、弟子入りを志願するものの、最初は認められない。が、お笑い芸人の世界でもよく見かける「弟子にしてもらえるまでここを離れません!」戦法で、住み込みの弟子を認めてもらう。
『アトムの童』(TBS系・2022年)でも姿は見かけていたけれど、前述した坊主頭に大柄な体格、そして純度の高そうな顔つき……とはやはり目を引く。それが日本古来の少年の姿という説も一理ある。ただ昭和生まれ、平成育ちにとっては、岡部さんを見ていると主題歌と共に『裸の大将放浪記』を彷彿しないだろうか。ちなみに私はする。
芦屋雁之助が演じた山下清役は、坊主頭に白のタンクトップとリュックサックに下駄ばきで全国を歩いていた。季節の風物詩のように放送されていたスペシャルドラマは、両親と見られる数少ない作品だったように記憶している。芦屋さんの没後、ドランクドラゴンの塚地さんが主役を継承。私たちはあの姿に癒されていた。
いつか岡部さんが『裸の大将放浪記』を演じたら、とても面白い作品ができるだろう。その頃、たとえ彼が売れっ子になっても今、私たちが演技や『なりゆき街道旅』(フジテレビ系)で見せるような優しさは変わらないはずだ。
そう確信できるのは、実は彼が家族と食事をしている様子をたまたま見かけたことがある。驚くほどにそのまんま、ハナコの岡部さんだった。お子さんをあやしながら、奥様と交代で食事をする様子が微笑ましく、パパの姿は他人でも分かる優しさに溢れていた。芸能人だと騒ぐことのない店内で(あの感じは山下清役にぴったりだ……)と考えていたのは、私だけだったはず。いつの日かお待ちしております。