幼少期から熱血ドラマオタクというエッセイスト、編集者の小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。
第133回は俳優の木戸大聖(きど たいせい)さんについて。街中の清涼感を集めたような、爽やかさを振りまいている木戸さん。最近は各媒体で見かけない日がないほど、活躍ぶりが続いています。現在出演中の『9(ナイン)ボーダー』(TBS系)でも、どうやら最終的な恋の駆け引きが続いている様子。そんな彼の魅力について掘り下げてみたいと思います。
20代女性のコウタロウ支持VSおばさんの陽太支持
まずは最終回を間近に控えた『9ボーダー』のあらすじについて。
銭湯の『おおば湯』には三姉妹がいる。会計事務所を経営する、バツイチほやほやの長女・大庭六月(木南晴夏)は39歳。会社員を辞めて実家の銭湯を建て直そうとしている、記憶障害の恋人がいる次女の七苗(川口春奈)は29歳。幼なじみに恋する、浪人生で末っ子の八海(畑芽育)は19歳。それぞれが人生の分岐点に立つ。最近、亡くなった母親が家で直後に出産した、九吾(斎藤潤)も加わった。仕事、恋愛、家族。悩みながらも進もうとする、三姉妹の未来はどのように動いていくのか?
大変久しぶりにスッと胃で溶けていくような、ラブストーリーの『9ボーダー』。伏線だ、人間関係が煩雑だと視聴者の脳を動かすドラマもいいけれど、やっぱり女性は、スタンダードなドラマが観たい。その声に応えてくれたなあと思う。
ただ周囲の反応が全く違うのは面白い。20~30代の女性視聴者は七苗の恋人である、記憶障害を抱えたコウタロウ(松下洸平)の優しさが、ヤヴァイと言う声が多数聞こえてくる。一体彼はどんな人なのかというと……まずは路上で「僕は知ってるよ ちゃんと見てるよ 頑張ってる君のこと」とアコギで女のために歌う。他にも
「俺のこと、好きになっていいよ」 「俺がいるから大丈夫だよ」
と、呼吸多めに甘いセリフを日常的に連打。おまけに料理も上手という、疲労気味の週末夜にふさわしい、女性に滋養強壮効果のある役だ。役の魔力に若い女性は虜になっているという。気持ちは非常に分かるけれど、コウタロウのような男性に散々振り回されてきた、おばさん世代の視点は違う。
私を含めた、おばさんチームが『9ボーダー』のどこを注目して観ているのかといえば、今回の本題である木戸大聖だと、皆が口を揃える。
ぶっきらぼうに見せつつも優しい青年役
今回、木戸さんが演じているのは『おおば湯』の近所に住む、酒屋の息子・高木陽太役。三姉妹とは幼なじみであり、七苗に片想いしているものの、八海に突然の告白を受けてしまった。陽太が恋のゲッターチャンスをどこで使うのか、先述のおばさんチームが固唾を呑んで見守っている。
ちなみにチームがどこで彼を知ったのかと聞いていると、ほとんどが『ゆりあ先生の赤い糸』(テレビ朝日系 2023年)の伴優弥役。20代、授かり婚、一人息子を育てる便利屋で、金髪爽やか笑顔で、人妻と恋に落ちる……というシチュエーションに心を狂わされてしまった。危険、危険。
ちなみに私が彼の存在を知ったのは『First Love 初恋』(Netflix)の、並木晴道役の少年期役だ。あまり見かけない姿に一瞬は「どなた?」と迷子になったけれど、真っ直ぐな演技に吸い込まれた。ちょっとぶっきらぼうに見せながらも、底抜けに優しい青年を演じている様子がとても良くフィットしていた。今回の陽太役に少し似ている。
この作品の会見にたまたま居合わせたのだが、同じく並木晴道役の佐藤健が「大聖、いいよね!」と強く褒めていたことを思い出す。彼の予感はどうも当たったらしい。
新"バイトの先輩顔"イケメン理論
おばさんチームがなぜ、木戸大聖を推すのかと続けて考えてみると……あくまで個人的な見解として、昭和生まれの女性が大好物の"バイトの先輩顔"がいいのかなあと脳裏に浮かぶ。
特にガイドラインのない事象だけど、高校の先輩でもなく、会社の後輩でもなく、バイト先の先輩。それもバイト先は、マクドナルド。ポテトを揚げすぎても、笑って許してくれそうなイメージがある。
この勝手な"バイトの先輩顔"理想論。もし気になった人がいたら、一緒に連想トークをしてみたい。そんなことを考えつつ、今週末も呑みには行かず、『9ボーダー』に酔うのだ。