幼少期から熱血ドラマオタクというエッセイスト、編集者の小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第130回は女優の黒木瞳さんについて。年齢が63歳と聞いてぶっ飛びました。1985年宝塚歌劇団を卒業以降、見た目も、いつも前を向いて凛としているイメージもまったく変わりません。約40年間トップの座を譲らず、第一線を直走り続ける理由は何なのでしょうか。

祖母役と言われても解せない絵面

  • 黒木瞳

まずは現在、黒木さんが出演中のドラマ『JKと六法全書』(テレビ朝日系)のあらすじを。

17歳、女子高生の桜木みやび(幸澤沙良)は、高校一年生で司法試験に合格した弁護士だ。地元の青森県を離れて、東京で弁護士事務所を営む桜木華(黒木瞳)の元にやってきた。みやびはあらゆる案件に携わり、見習いの新人弁護士として働くことになる

作品そのものは1話完結のコメディードラマ。毎回みやびが難事件を独自の視点で解決していくことが、物語のキモになりそうだ。みやびと毎回タッグを組むことになる、弁護士・早見新一郎(大東俊介)の存在もちょっとダメ男な雰囲気がしていい。深夜に観る作品としては興奮しすぎない、適温ドラマだと言える。

その主役の背後に控えているのが黒木さん演じる、華。なんと今回は、女子高生の孫を持つ祖母役を演じているのだ。『JKと六法全書』内では「おばあちゃんと呼ばせない」という華の持論のもと、「はなはな」と呼ばせているものの、見た目はどう見てもお母さん。百歩譲っても親戚のおばさん。黒木さんの実年齢から考えるとキャスティングは正解ではあるけれど、どうにも納得できない絵面だ。これも作品における見どころの一部なのだろうか。

それにしても黒木さんがおばあちゃん……(いけない、怒られる)。彼女のブレイクのきっかけになった、映画『失楽園』(1997年)はいつの間にか、古き良き映画に分類されていた。

毒母役が増えても人気は衰えず、増すばかり

私がドラマで黒木さんを見ていて気づいたのは、毒母役が多いことだ。毒母とは現代用語の1つであり、多様な意味がある。我が子を異常なまでに過保護にすることもそうだし、存在を見下す、育児放棄をすることも毒母の意味に含まれる。いずれにしても子どもにとって悪影響を及ぼす存在だ。

黒木さんが出演した作品を全網羅できているわけではないので、私が見かけた毒母役としては以下になる。

  • 『魔女の条件』(TBS系 1993年)――担任の教師と恋に落ちる高校生の息子を、どこまでも追いかける母

  • 『恋を何年休んでますか』(TBS系 2001年)――20代の娘とは友達のような関係(だと思っている)で、どこまでも干渉してくる母

  • 『過保護のカホコ』(日本テレビ系 2017年)――大学生の娘の徹底的な世話焼きをする母

  • 『ファーストラヴ』(NHK総合 2020年)――自分の思い通りにならないと娘に嫌悪感を感じる身勝手な母

視聴者の反感を買いそうな役柄を演じ続けていられるのは、彼女の美しさだけが理由ではない。それよりも圧倒的な強さが影響している。宝塚歌劇団を経てもなお、トップスターでいられるのは並大抵の努力ではどうにもならなかったはず。辛酸を舐めるようなこともあったかもしれない。視聴者の脳裏にも彼女のこれまでのキャリアがうっすらと見え隠れをするから、面倒な母親役でも許容できる。

加えて日本の映像作品には、時代の変化なのか"姑役"というものが通用しなくなった経緯も、長く毒母役を続けている理由になる。女優の故・野際陽子さんが長年に渡って鎮座し、お茶の間を楽しませていた姑役。もう姑が嫁をいびる様な縮図も一般家庭では見られなくなってしまった。義母があまりにも気に入らないのなら、経済力を持った女性は離婚の道を選べるようになったのだから、仕方がない。

そんな時代の渦中にありながら、年齢を重ねたの女優の新ジャンル・毒母をみごとに手中にした黒木さん。今回の祖母役を経て、彼女は次にどんな役を選ぶのか今から楽しみにしている。