幼少期から熱血ドラマオタクというエッセイスト、編集者の小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第123回は女優の仁村紗和さんについて。ここ数年で認知度が高まっている女優さんといえば、彼女のことだろう。昨年は約6本のドラマに出演、さらに2本の出演映画が公開された快挙を持つ。

強い瞳に、太い眉。気の強そうな印象を残す仁村さん。でも実はすごく取っつきやすい親近感の塊なのでは、と思った。本年、ますますのブレイクを願って、彼女のために文章を紡ぎたい。

若者を取り巻く、現実と問題を赤裸々に

  • 仁村紗和

まずは現在、仁村さんが出演する『SHUT UP』(テレビ東京系 毎週月曜 23:06~)のあらすじを。

田島由希(仁村紗和)、川田恵(莉子)、工藤しおり(片山友希)、浅井紗奈(渡邉美穂)の4人は、同じ大学寮に住む仲間同士。アルバイトをいくつも掛け持ち、生理用品の購入もままならない貧困大学生だ。ある日、恵が名門大学の学生・鈴木悠馬(一ノ瀬颯)の子どもを妊娠。自分に責任はないという悠馬。迫る中絶期日。3人は恵のために苦渋の選択としてパパ活を行うことに。そして復讐として悠馬から100万円を奪い、警察で事情聴取を受けることになってしまう。4人の運命は果たして……?

この作品、まず「思い切った内容だ」という所感を抱く。オブラートに包まずに描写されているのは、若者の貧困、格差、それから今も著名人が世間を騒がせている性加害問題。私たちが直面しつつも、どこかに目を背けている事案であり、現実。10代に教材として見せたい作品に仕上がっていた。

私が気になったのは資産家に生まれた、悠馬の身勝手な振る舞い。あきらかに由希たちを見下している態度も、その勘違いから行う性行為も、すべてが圧倒的にクズだった。女性を孕ませてトンズラする男性は、どんなに時代が変遷しようと必ず存在するのだと、腹が立った。女性の皆様、ご注意を。

そんな作品で仁村さんが演じているのは、田島由希。ふだんは弁当屋と本屋のバイトを掛け持ちしながら、大学に通い、宅地建物取引士に憧れている。友人のためなら、体を売ることも辞さない。どこかに芯の強さを感じさせる女性である。由希を見ていると、ドラマ終盤では周囲の権力に屈することなく、自分を貫いて欲しい。そんなふうに見る側が願ってしまう。

中野区好きな女性に悪い人はいない?

仁村さんの認知度がグッと上がったのは『あなたのブツが、ここに』(NHK総合・2022年)だろう。コロナ禍で職を失った元キャバ嬢の山崎亜子(仁村)が、一人娘を養うために宅配便の配達員となり、奮闘する物語。私たちが数年間、ふつうの生活を侵食されたパンデミックを扱う作品という斬新さ、それから仁村さんの強勢さ。すべてがタイミングよく、合致していた。

軽い興奮を覚えたので、SNSに「あの人(仁村さん)、これから引っ張りだこになる匂いがする」とアップ。それを見た彼女の所属事務所のマネジャーから、お礼とともに「これから頑張って売り出すから!」と、DMをもらった。このやり取りから、仁村さんがいかに期待されている存在なのかを知る。

その後の活躍は、皆が知る通りだ。ただ強い印象から、どこか近寄りがたい雰囲気があることが引っかかる。SNSで検索しても、同じような意見がちらほら。良くも悪くも、あの太い眉は牢固たるムードを醸し出すらしい。ふむ。

ここからはあくまで私の見解として読んでほしい。彼女ひょっとしたら、パブリックイメージとは裏腹に、実はあっけらかん、庶民的な女性ではないだろうか。

そう思ったのは、ご本人のインスタグラム。時折、文章に転がっている関西弁がとても愛らしい。さらにファッションブランドのインタビューで、中野が自分のスタート地点であり、高円寺が好きだとも語っていた。

「女優が中央線のことを好きだと……?」

同じような質問で渋谷区、港区を答えている女優はよく見るけれど、中央線沿いの街を推す人物はなかなかいない。しかも(噂では)ダメ人間の巣窟といわれる中野を愛するなんて、とんでもない親近感がわく。実は私も中野と同じような街の雰囲気の三軒茶屋を、第二の地元であり、スタート地点としてこよなく愛している。昼間から酔っ払いが転がっていても事故のない下町に、悪い奴はいないと思い込んでいる。きっと仁村さんは親近感の塊だ。そう信じて来週の『SHUT UP』の放送を待つ。