エンタメライターのスナイパー小林が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。第12回は女優の伊藤沙莉さんのことを書いていきます。現在ドラマ『獣になれない私たち』(日本テレビ系)に松任谷夢子役で出演中の伊藤さん。朝ドラ出演から途切れることなくドラマでお見かけしますが、独特の存在感を放っていて好きなんですよね。つい目が行ってしまう。なぜ注目してしまうのかについて自分の記憶をゴン、と掘り下げてみました。
全身からあふれる "じゃりん子チエ"感
『獣になれない私たち』は仕事もできて、いつも笑顔で誰からも好かれる深海晶(新垣結衣)が主人公。無理をしている自分に疑問を感じ、脱皮願望がフツフツと湧いた頃に出会った根元恒星(松田龍平)。彼もまたいい人キャラの自分の殻を破りたいと感じていた……というのがあらすじ。
この二人が果たしてくっつくのかどうかが見どころだと思うけど、第4話までみると晶がどんなに落ち込んでいても彼氏(田中圭)も根元も現れず、ひとりで泣く。そんなリアル感のある内容がいい。常に自我を押さえ込んで生きる晶。対峙するような橘呉羽(菊地凛子)という本能のままに生きているキャラがブッ込まれてくるのも、物語をわかりやすくしているので自分がどっちキャラなのかなぞらえるとおもしろいのかもしれない。
そこで伊藤さんが演じているのは、が勤務する会社の営業マン・松任谷夢子。ただ仕事のやる気はゼロ。ひたすら晶に頼ってめんどくさいことはしない主義だ。役名だけを聞いてもなんだかファンタジックでいいじゃないか。
伊藤さんの存在が知られるようになったのは朝ドラ『ひよっこ』(2017年 NHK総合)の安部さおり(米子)役だ。実家が経営する米屋に集団就職で上京してきた三男に恋をして猛アタック。何度か振られるもののめげずにトライし続けた愛が実り、ふたりは結ばれた。
時代背景から察すると女性からの求愛がまだまだ珍しかったはず。そんなときに脇目もふらずに力強く想いをアピールする米子が可愛かった。突然、三男にキスをして「ごちそうさまでした!」と大きな声で言うシーンを思い出す。
そんな伊藤さんの演技はマンガ『じゃりん子チエ』の主人公・チエを彷彿とさせた。持て余しているパワーを全身で表現してくるようなイメージ……とでも言おうか。
ハスキーボイスも魅力にシフトチェンジさせた訴求力
誤解のないように先に伝えておくが、私は伊藤沙莉さんの演技が好きだし、彼女の出演する作品はチェックするファンだ。だからこそ言いたいのだけれど、絶世の美女ではないビジュアルで存在感を示すことができる女優は貴重だと思っている。世の中に"きれいな女優"は数多いるけれど、泉ピン子さんに価する存在はなかなかいない。
役にもよるけれど、万全な美しさという武器がないのなら残されるのは、強烈な演技力のみ。伊藤さんにはそれが確実にある。加えて彼女はハスキーボイスだ。女優としては一歩外すと致命傷になりかねないものを伊藤さんは武器に変えているように見える。実際、聞く側からするとまったく気にならないし、むしろ演技には好影響。
そんな女優の存在に気づいた制作側は、彼女を離すはずがなく朝ドラ出演以来、ドラマへの出演が絶えることはない。『隣の家族は青く見える』(フジテレビ系 2018年)では主人公の妹でおめでた婚を。『いつまでも白い羽根』(東海テレビ・フジテレビ系 2018年)では主人公の友人役として10代の看護学生。『この世界の片隅に』(TBS系 2018年)では主人公に片思いする戦時中の女性……とさまざまな年代を演じているのも彼女の特徴だ。きっと演じることにどこまでも貪欲な人なんだろうな、と想像。
伊藤さんの魅力はきっとこれからも続く。最終回はなく、どこまでも見る側を楽しませて元気をくれる。ああ、そうか。彼女の演技は見ていると元気が出てくる。だから目が離せなくなるのか。
スナイパー小林
ライター。取材モノから脚本まで書くことなら何でも好きで、ついでに編集者。出版社2社(ぶんか社、講談社『TOKYO★1週間』)を経て現在はフリーランス。"ドラマヲタ"が高じてエンタメコラムを各所で更新しながら年間10冊くらい単行本も制作。静岡県浜松市出身。正々堂々の独身。