幼少期から熱血ドラマオタクというエッセイスト、編集者の小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。
第112回は俳優の鈴鹿央士(すずか・おうじ)さんについて。私の周囲の女性(若手から中高年含む)が、彼の存在にザワついている。皆、口を揃えて「かわいい」と。ほほう。たびたびそう聞かされてしまうと、こちらもザワつく。おそらく分岐点になったであろう『silent』(フジテレビ系 2022年)戸川湊斗役あたりから、世間に溢れ始めた、彼のアトラクティヴについて考えてみた。
邪心のない、優しい青年の役はお手のもの
現在、鈴鹿さんが出演している『18/40~ふたりなら夢も恋も~』(TBS系 以下『18/40』略)のあらすじを。
亡き母の夢を継ぎ、キュレーターを目標にしている大学1年生の仲川有栖(福原遥)。実は現在妊娠中で、ひとりで子どもを育てていこうとしていた。そこへ偶然出会った、成瀬瞳子(深田恭子)、40歳。有栖の目指すアート界で活躍するキャリアウーマン。が、結婚の予定もなく、卵巣疾患が見つかり「妊娠はしづらい」と診断を受けてしまう。そんな共通点のない二人が共に暮らすことになり、有栖はついに男児を出産する。
全体的にまるで、少女漫画を読んでいるような心地になるのは、さすが火曜22時のときめき放送枠。初期設定から有栖と瞳子が暮らす流れに「無理があるかも……」と見ていたけれど、第4話を終えたところで、盛り上がってきた。瞳子と、年下の元プロ野球選手による恋模様、近づく有栖の出産がそうさせたのか。
と、この作品で鈴鹿さんが演じているのは、黒澤佑馬役。有栖と同じ大学に通い、ダンスが趣味。出会った有栖に興味を持ち、やたらちょっかいを出していた。彼女が妊娠していることを知っても、態度は一切変わらない。つまり邪心はなく、優しさのあるステキ男子なのだ。妊娠が大学にバレ始め、落ち込んでいる有栖に
「カピバラって時速50キロで走れるんじゃね?」 「虎の尾を踏むってことわざがあるけど、虎は尻尾を踏んでも怒らないんだって。なぜか! 虎の尻尾には神経が通っていないから!!」
と、和ませていたシーン。余談すぎるけれど『silent』でも、湊斗は「パンダ、スペース、落ちる、で検索して!」と、恋人を励ますシーンがあったことを思い出した。可愛い子には動物がよく似合う。
そんな佑馬は瞳子の勤務する社長の息子と判明。いつもお腹を空かせていた貧乏学生だったはずが、実はお坊ちゃまだった。と、少女漫画ティップスを散りばめた『18/40』だ。
いつか来るであろう、王子様イメージの突破
所属事務所の大先輩・広瀬すずさんに見出されて、芸能界デビューをしたという逸話はあまりにも有名。番宣で出演するバラエティ番組でも、毎回、この件がネタになっている。演技を離れて露出している彼は、とてもおとなしい。セリフのようにうまく話せていない、おぼこさがまた女性の庇護欲をそそるのだろう。
メディアで見かけるだけでも、彼の顔が飛び抜けて小さいのはよくわかる。加えて、最近の若者らしく、重たい前髪を作っているものだから小顔はさらに際立っている。その前髪の隙間からのぞく、愛くるしい瞳。こういう小型犬がよく近所の公園を散歩している。総合すると、鈴鹿さんは可愛いの集合体。
……果たしてそうだろうか? というのは、否定ではなく、まだ自分らしさを出していないだけで、彼はおとなしいわけでも、陰キャでもないような気がする。というのも、このコラムを書くために鈴鹿央士のオフィシャルツイッターを開くと、そこには絵文字を使いこなし、楽しそうな写真をアップする23歳の青年がいた。ふむ。
まだ素をさらけ出していないだけで、きっと彼は今後、世の中に放たれていくであろう、砲弾を持っている。そのうち女性軍の王子様イメージが覆すような役や、私生活を披露するだろう。その布石として『ドラゴン桜』(TBS系 2021年)の屈折した高校生役や、『DAYS』(Netflix)の登場早々に亡くなった桐原役(死体顔が衝撃的)があったのでは……? と睨む、わたくし。
これは疑心ではない、ますますいい男になってくれという、愛を込めたエールだ。