幼少期から熱血ドラマオタクというエッセイスト、編集者の小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る“脇役=バイプレイヤー”にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。
第110回はタレントの錦戸亮(にしきど・りょう)さんについて。この方について主役ではなく、バイプレイヤーとしてコラムを書く日が来ようとは。そして主演ではなくても、注目度は抜群。今回『離婚しようよ』(Netflix)で演じた加納恭二役が、各メディアで取り上げられているのを見ると「スター性は隠しても隠しきれないのね」と腹落ちをした次第である。
触れる女すべてがよろめく、稀代の色男を熱演
まずは、絶賛配信中の『離婚しようよ』のあらすじを。
これは一組の夫婦が離婚に向かって進もうとするドラマ。二世で、新人衆議院議員の東海林大志(松坂桃李)と、人気女優の黒澤ゆい(仲里依紗)は、大志の不倫をきっかけに、離婚を決意。冷え切った夫婦関係でも、世間体を守るために選挙活動へ参加、夫婦でのYouTube配信も欠かさない。ゆいも良き妻のイメージによるCM契約も多数……と、周囲は二人の離婚を阻止しようと奮闘。ついにはゆいにも、恋人ができて、離婚への道はさらに混線していく。果たしてラストは、タイトル回収となるのか。
全9話の脚本は、宮藤官九郎と大石静の共作。もうそれだけで視聴欲を十分にそそられる。結論から言うとこの作品、本当に面白い。おかげでもう2回も観てしまった。
出演者もクドカン一門が多く、彼がこれまでの作品で残してきたクドカンワールドを、作品の随所で堪能することができる。そして舞妓、能楽、落語など日本のお家芸をテーマにしてきた作品が目立つクドカン。彼が今回選んだテーマは"選挙活動"だ。もうひとつは恋愛脚本の名士・大石静の筆が光った"離婚"。Netflixの国内ランキングでは1位、世界ランキングでは10位を記録した傑作なのである。もうこれ以上は説明不要、四の五の言わずにまずは観てくれ。
そんな作品で錦戸亮さんが演じているのは、アーティストの加納恭二役。役柄を端的に説明すると……クズなのである。クリエティブ活動では生活は成り立たず、パチンコに精を出す日々。黒澤ゆいが結婚していることもどこ吹く風と、恋にどっぷり落ちる。自宅にはテレビ、Wi-Fiもない俗世から離れて生きる、それが恭二だ。通称・パチアート。
プロフィールだけを読むと、まずは近づかないようにするのが賢明。ただ恭二は全身の毛穴という毛穴から色気が漏れている、超・イケメンなのである。恋に落ちたら最後、この恋は艱難辛苦となることは確定である。
「倫(みち)に不らざる恋なんてあるの?(中略)俺らの心は、自由なんだ」 「俺の空いた時間、ぜんぶ、ゆいのものだよ」
と、深いのか浅いのか分からないセリフで、ゆいの心を翻弄していく。それだけではなく、彼に触れた女性がときめく、よろめく。
パパドルならぬ『パパはパチアート!』はどうだろう?
恭二役が錦戸さんにとてもよく似合っていたのは、アイドル時代から積み上げてきた、弛まぬ演技力もある。ただ個人的には錦戸さんのあの細さが、恭二にドンピシャだったのではないかと推測する。彼がまだグループに所属していた頃、取材をしたことがある。目の前に現れたご本人の細さに、目を丸くした。「大丈夫? ちゃんとご飯食べている?」と、つい言いそうになってしまう細さだった。人前に出るという職業柄、気遣っているタレントさんは多々。役柄に合わせて衣装を着ることを考えると、ふくよかではいられない。そんなタレント勢にいながら、彼の細さが際立っていたのはサイズ感に加えて、ヘビーな色気があったからだ。
今回の恭二役も細さがクズ男ぶりに見事にハマっていたが、実はその前から素養を感じていた。覚えているだろうか。2008年放送『ラスト・フレンズ』(フジテレビ系)で、演じた及川宗佑役。普段は温厚で優しい役所の職員でありながら、自宅では恋人に暴力をふるう、DV男だった。ウエストラインが異常に細い、スーツ姿をよく覚えている。もし彼の体格が良かったら、宗佑役はきっと似合っていなかったと思う。そういう印象を与える細さだった。
ただ当時、アイドルとして人気絶頂だった錦戸さんが、DVの役に踏み切ったのは疑問だった。『1リットルの涙』(フジテレビ系 2005年)をはじめ、映画、舞台、CM、数々の演技賞を受賞と隙間なく活躍をしていたはずなのに、敢えてのDV男役。思い切ったブランディングの背景には何があったのかと。
ただ宗佑役は、今回の恭二役のふさわしさを物語っていたのかもしれないと、かつての錦戸さんをふと思い出した。今後もまた、彼の出演作を見ることができそうな気配が漂っている。楽しみだ。
……と、格好つけたことを書いてみたが、彼の出演した作品で私が好きだったのは『パパドル!』(TBS系 2012年)だった。アイドルが子どものいるシングルマザーと恋に落ち、幾多の困難を超えるという、ベッタベタの内容。私はどうせドラマを見るなら、振り切ってありえない世界を描いているほうが好きだ。
TBSさん、どうだろう、この際『離婚しようよ』のスピンオフとして、『パパはパチアート!』など、恭二の第二の人生を描いてみては。きっとよく似合って、傑作誕生となるはず、とひとりニヤニヤする。
Netflix シリーズ『離婚しようよ』は、Netflixにて独占配信中。