幼少期から熱血ドラマオタクというエッセイスト、編集者の小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。
第109回はタレントのめるること、生見愛瑠(ぬくみ・める)さんについて。春ドラマは、めるるが大活躍だったことだけは間違いない。それまでは彼女に何の興味がない人でも「1日1回はテレビで見るお姉さん」だっただけに、演技の道へ進んだことは意外だった。さらに意外は続き、めるるがドラマで見せた演技は(上から目線で恐縮ですが)非常にうまかった。現在放送中の作品のことも含めて、この春を振り返ってみたい。
『日曜の夜ぐらいは…』が描いた、友情論の変化
まずは最終章を迎えた『日曜の夜ぐらいは…』(テレビ朝日系)のあらすじを。
ラジオ番組主催のバスツアーで知り合った、岸田サチ(清野菜名)、野田翔子(岸井ゆきの)、樋口若葉(生見)の3人。独身でありながら、各々の家庭に問題を抱えていた。が、サチの宝くじ高額当選により、3人の生き方が変わっていく。3人は友人として連絡を取り合うようになり、心を通わせて、最終的にはカフェの共同経営も始めることになる。そこに市川みね(岡山天音)も加わって、4人の新しく、輝きを目指した人生が再スタートした。
昭和から平成、令和へと脈々と続く女の友情とは、非常に薄っぺらいものだと定義されていた。まだどこかで消えぬ男性主義の日本、結婚することで女性の価値が位置付けられていたからだ。そんな女同士のマウンティングやバトルは、ドラマや映画にも使われている。
それが『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系 2023年)あたりから、結婚、出産、出世も取り上げられなくなった。人生は我が手で切り開くものと、定義が進化したからだ。そして今回の『日曜の夜ぐらいは…』。これも世相が反映されている。毒親の呪縛、実の両親との確執、ルッキズムによる職場での偏見。七面倒なマウントが終わったかと思えば、次々に飛び出る問題。これらが表現されている。
不遇だった境遇から脱出しようとする3人娘たち。その様子が可愛くて仕方がない。宝くじで当たった3,000万円を元手に幸せになってほしいと、心から願う。そんな気持ちが湧き出てくる作品なのだ。要は夢中。
バラエティ雛壇と、女優業の両立が可能に?
『日曜の夜ぐらいは…』で、めるるが演じる樋口若葉は「大映ドラマか!」と突っ込みたくなるほど不幸だった。元々は北関東に祖母と住み、ちくわ工場に勤めていた。可愛さゆえ、ボンクラ息子に惚れられてしまうが、交際を断ると社内いじめが始まってしまう。こういうクズ男……いるんだよなあ(しみじみ)。
さらに不幸は若葉の周囲にはびこる。実の母親(なんと矢田亜希子!)は、若葉を捨てて、男の元に行ってしまった阿婆擦れ女。それだけならまだしも、たまに実家へ現れては、娘に金をせびる始末。田舎町ではそんな素行の噂も一気に広まり、祖母と若葉は暮らしにくくなっていた。そんな環境から脱却すべく、カフェ経営を目標に東京へ上京する。そんな様子を「幸せになってくれ」と口角を上げながら、ドラマを見守っている。
めるるがこの春演じたのは他にもある。
『風間公親―教場0―』(フジテレビ系)にゲスト出演、早々に月9デビューをクリアした。予想外の妊娠、出産をしてしまった19歳の大学生、萱場千寿留役。好きな男だった男性に捨てられて、子供ができないパートナーのために妊娠中の子供の親権を渡せ、とまで脅される。我が子を守りたい一心で、男を殺害してしまう千寿留。ここでも若葉と同じく"不"を演じためるるだった。
統括すると、この春のめるるから女優・生見愛瑠への転換は成功だった。普段、バラエティ番組で見る彼女は、明るかった。まさにCM「ぷるんと蒟蒻ゼリー」のパブリックイメージそのもの。が、演技へ向かうときはこの世の不幸をすべて背負ったような役柄。このギャップは功を奏したのか、SNS上でも彼女の演技は高く評価されていた。さて、次はどんな役柄でお目見えするのか……?