マイナビニュース読者のみなさん、初めまして。ライターのスナイパー小林です。各所でドラマを始めとするエンタメのコラムを書いていたら、縁あってこちらでコラムを書かせてもらうことになりました。記念すべき初連載のタイトルは『バイプレイヤーの泉』。2017年から放送されたドラマ『バイプレイヤーズ』シリーズで、この言葉も一躍メジャーになりましたが、いわゆる"脇役の俳優"さんたちにフィーチャーしていこうという企画です。
作品において主役は最重要人物キャラですから、もちろん目立っているし、光っている。でも一方で主役を支えるはずのポジションにいたはずがいつの間にか『主役食い』と言われて輝いてしまったりもする。もっと言えば主役の座に君臨するのは至難の技ですけど、脇役のほうが演じる場所は多いし、キャスティングで重宝されたりもします。総じて露出も多くなって顔や名前を一般知されることが主役よりも早い現象も……。
社会の仕組みでもその傾向は見られます。「一番手で頑張って偉そうにしている社長よりも、副社長とか専務のほうが良くね?」と、縁の下の力持ちに人気が動いてしまうことも。それは仕方ないんですよ、「だってここ日本だから」。
ちょっと控えめにしている風が美徳とされてしまう風潮。再来年に二回目のオリンピックを控えているほど時代は進化。男女同権と言われながらも古式ゆかしきものを求めてしまう大和魂……と、そこまで言ってしまうとオーバーかもしれませんが、とにかく今回のこの連載の主役は"脇役"。
では記念すべき第一回目に誰を取り上げようと、編集部とさんざん迷った結果、広瀬アリスさんについて書かせてもらうことになりました。現在放送中のドラマ『正義のセ』(日本テレビ系 毎週水曜 22:00~)で、主演の吉高由里子さんの妹・竹村温子役で出演中の広瀬さん。見ていれば見るほどクセになっていく、旬の女優さんについて。
23歳とは思い難い、渋谷のスナックの若ママ感
広瀬アリスさんはもう見ての通りだけど、むちゃくちゃ美しい。ちょっと男を寄せ付けないのではないかと、圧さえ感じるほどだ。
彼女が広く知られるようになったのは、連続テレビ小説『わろてんか』(2017年 NHK総合)の秦野リリコ役だ。関西の芸人、女優役として出演。主演の恋敵になったり、突然東京へ上京。最終的にはブサイク芸人の相方と夫婦になるといういわゆるお騒がせキャラ。
主演は子役からスタートしたけれど、広瀬さんは初回からご本人が登場。そこから白髪交じりの老婆になるまで演じきった約6カ月間。たったわずかの期間で本当にきれいになったと思う。肌ツヤが良くなったとか、痩せたとかいう一般的なことではなくて、内面からジュン、と滲み出くるような美しさの成長。「老婆心ながらひとつだけ(『正義のセ』相原勉の口癖)」、あれはいい恋をしているとしか思えない、文春砲がダダ漏れだった状態だったのではないかと。
当初はたどたどしかった関西弁も、いつの間にか大阪のおばちゃんそのものになり、一癖のあるリリコ役が完全にアリスのものになっていた。そこには、若さだけが理由にならない、驚異的な彼女の吸収力があるのだと思う。
よく銀ホス(銀座のホステス)は目配り、気配り、心配りに加えて様々な会話ができるようなインプット力を要求されると聞く。広瀬さんが銀座……というと23歳という年齢もあってリンクしづらいのだけれど、奥渋谷にでもありそうなスナックの若ママをしていると言われればどうだろう。聞き上手で、よく笑うカウンター越しの彼女の姿が浮かんでくるじゃないか。そして四十路を迎えたころに、スポンサーをつけて銀座に店オープン、とつい長い話を妄想してしまった。
そんな彼女が今クールは主演の良き相談相手という、妹役。普通の役で彼女は事足りるのだろうか。放送を見ながらけしてこのままでは終わらない、終わって欲しくはないと思っているのは私だけではないはずだ。
将来的には石田姉妹と同じく妹越えかも?
広瀬さんがバラエティ番組で見せる、ぶっちゃけトークもいい。
『ダウンタウンなう』(フジテレビ系 毎週金曜 21:55~)では、バイオレンス漫画好きの特殊な趣向を小島瑠璃子さんから、妹のすずさんからは極度の気分屋であることを暴露された。笑ってしまうけれど、不思議なことはない。
『今夜くらべてみました』(日本テレビ系 毎週水曜 21:00~)では、お見合いをし続けた阿川佐和子さんと隣に並びながら「私、お見合いをするくらいなら一生独身でいい。人に(結婚相手を)決められるのなんて嫌じゃないですか」と、悪気なくざっぱり。これもなんだか許してしまうのはアリスゆえ。
今は同じく女優の妹、すずのほうが主演作品も多い。口数が少なくて控えめ、姉と対峙するような清純派の印象だ。でもアリスさんを見ているといつの日か妹越えをしてしまう予感がしてならない。かつては妹が月9主演というスター女優だったのに、時を経て姉が中年女性の星になった石田ゆり子・ひかり姉妹のように。でも仲違いをするのではなくて、できれば仲良しのままでいてほしと、小さく願う。
広瀬アリス。こんなファンタジーな名前が似合う純正の日本人女優もなかないない。美しくて、天真爛漫で、そして女っぽくて。またちょっと豪快さを感じさせる役どころの彼女が見たいと思う。
スナイパー小林/小林久乃
ライター。取材モノから脚本まで書くことなら何でも好きで、ついでに編集者。出版社2社(ぶんか社、講談社『TOKYO★1週間』)を経て現在はフリーランス。"ドラマヲタ"が高じてエンタメコラムを各所で更新しながら年間10冊くらい単行本も制作。静岡県浜松市出身。正々堂々の独身。