仕事をする上で、多くの人にとって欠かせないコミュニケーションツールとなっているメール。一日の送受信数が数十通に及ぶ人も、それほど珍しくはないでしょう。報告・連絡・相談はもちろんのこと、依頼であったり、催促であったり。日常的にメールを使用していると、やりとりの内容も多岐にわたります。日々、多くのメールが行き交う中で、自分のメールが読まれているか不安になることもありますよね。

重要な用件や急ぐ用件ともなればなおさら。他の数多くのメールに埋もれてほしくないという思いは強くなります。「必ず読んでほしい」「早めに開封してほしい」と願う気持ちから、自分が送るメールに工夫を凝らす人も。しかし、その気持ちの表れが、かえって相手の優先順位を下げることにつながってしまう。そんな皮肉なこともあるのです。

分かりやすく伝える配慮のつもりが

メールソフトには、送信するメールの重要度を示す機能を持つものがあります。「重要度の設定」がそれで、例えばOutlookで重要度を「高」に設定すると、そのメールには赤い!(エクスクラメーションマーク)が表示されます。目立つ記号を表示させることで他のメールと差別化を図り、相手の目に留まりやすくすることができます。

相手の目を引くものとしては、隅付きかっこ【】もよく使用されます。他のかっこに比べて黒い部分が多いため、くくられたワードが強調されて見える効果があります。件名の冒頭に【重要】や【緊急】などの記載があるとついつい目が行ってしまいますよね。

  • メールの重要度を設定する
  • 件名に【重要】や【緊急】と記載する

こうした工夫に心当たりがあれば注意が必要です。送信者にとっては、いずれも意図を分かりやすく伝えるための配慮だったのでしょう。これによって相手が早く対応してくれたと感じた経験があるかもしれません。しかしながら、そう感じられるのも、多くの場合は一過性のもの。いつしか対応を後回しにされてしまう恐れのある危険な行為といえます。

受信トレイは、独自の作業空間

皆さんは、受信メールの管理で工夫していることはありますか。相手によってフォルダを別にしたり、対応状況によってフォルダを分けたりしている人もいるでしょう。Outlookであればフラグを使用したり、Gmailであればスターを付けてみたり。人により手法はさまざまでも、目的はきっと同じはず。優先順位を付けやすくするためや、大切なメールを見失わないようにするため。全ては管理しやすい受信トレイにすることが目的です。受信トレイは、メールを使用している人にとって独自の作業空間。そこに赤い!や、【重要】【緊急】といった送信者の意思を割り込ませるのは考えものです。

そもそも、送信者が重要だと思っているメールであっても、受信者が同じく重要と捉えるとは限りません。相手の受信トレイには他にも複数のメールが届いているはず。送信者にとっては重大と感じる内容も、受信者にとっては普通のことかもしれません。緊急と書かれたメールよりも優先して対応すべき用件があったとしても不思議ではありませんよね。送信者の都合を押し付けるような表現は避けるべきです。

知らず知らずのうちに悪化の一途

メールの重要度を設定したり、件名に【重要】や【緊急】と記載したりする行為は、インパクトがあるため一時的には効果があるかもしれません。しかし、それが繰り返されれば次第に効力は落ちていきます。その上、【重要】と記載されたメールを開封して、一度でも重要な用件ではなかったという認識を持たれてしまったら……。この人の重要は、実は重要ではないというレッテルを貼られてしまうかもしれません。こうなると完全に逆効果で、優先度はさらに落ちてしまうことに。その後、どれだけ重要な用件をメールで送ったとしても、優先的に開封されることはなくなってしまいます。

送信者の都合を押し付けるようなメールは、相手の不快感を生むことも少なくありません。問題は、その不快感を指摘されることがまれだということです。メールの内容に誤りがあれば、業務に支障をきたす可能性もあり、相手が指摘をしてくれるかもしれません。しかし不快感は心理的な問題であり、業務の進行に直接的には関与しない場合がほとんど。指摘をしない代わりに、同様のメールを目にするたびに不快感は募るばかり。徐々に優先順位が下がってしまい、最終的には返信が得られないという事態にまで悪化する可能性が考えられるのです。

一見、意図を伝えやすいと感じる機能や表現も、相手は抵抗感を覚える可能性があります。本当に重要な用件や急ぐ内容なのであれば、メールを送った上で電話をする、身近な相手であれば直接声をかけるといった細やかな対応が、その意図を誤解なく伝えることにもつながります。件名については、相手の目を引くよりも具体的に伝えることこそが鍵。具体的な件名からはそれが大切な用件なのか、急を要する用件なのか、相手は容易に判断することができます。自分本位の機能や表現は、時に円滑なコミュニケーションの妨げにもなることを理解しておきましょう。知らず知らずのうちにメールの対応が後回しにされてしまわないために。