仕事上のコミュニケーションを進める過程は、平たんな道ばかりではありません。時には言い出しづらいことや、相手が望まないことを伝えなければならない場面も訪れます。例えば、価格交渉なんかもその一つ。今年に入ってから、電気・ガスなどの光熱費や原材料の相次ぐ高騰、急速な円安など、企業を取り巻く環境が大きく変化。多くの企業が販売価格の改定、いわゆる値上げの課題に直面しています。
値上げは、自社だけではなく取引先にとっても重大な問題。それゆえ価格改定のお知らせや交渉については、対面で行われることも多いでしょう。しかし、テレワークの普及など、近年のビジネス環境の変化によってメールでやりとりする機会も増えているかもしれません。ただでさえ話しづらい用件。相手の表情や反応が見えないメールでは、ことさらに難しいと感じられるのではないでしょうか。ここでは、メールで価格改定のお知らせや交渉をする際のポイントについて考えてみます。
重大だからこそ簡潔に分かりやすく
「商品価格の改定についてお知らせいたします」
ビジネスメールは、結論から伝えることが基本です。たとえ言い出しづらい内容であっても、遠回しな表現は避けましょう。誤解が生まれないよう簡潔に分かりやすく。重大な内容であればこそ、相手もそれをすぐに認識できることが大切です。最後まで読まないと用件がつかめないようでは、相手の疲労感は増し、より一層、負の感情を抱かせることにもなりかねません。
結論を伝えた上で、次に書くべきは理由です。価格の改定は、その後のビジネスの行方をも左右する大きな要素の一つ。理由もなく値上げを要求されたのであれば、当然、相手も納得できません。原材料費の高騰や円安など外部環境の変化だけではなく、自社でもコスト削減などの企業努力をしていること、それでも価格を改定せざるを得ない苦渋の決断であることなど、値上げに至る背景を丁寧に説明することが必要です。
改定後の価格はもちろんのこと、改定の時期についても明確にすることが求められます。特に値上げであれば、新価格の適用以前にタイミングを前倒して注文したり、まとめて購入したりすることも考えられます。改定を告げられた相手が、次の対応を考えられるだけの時間的な余裕を持てる配慮も必要。最低でも、価格改定の1か月以上前には通知すべきでしょう。
値上げのお知らせは、決して相手も望むものではありません。「結論→理由→詳細」の順で分かりやすく情報を提示しつつ、相手の理解が得られるよう背景なども含めて丁寧に書くことがポイントです。
一律ではない個別の対応が求められる
価格改定のお知らせまでは、多くの取引先に対してほぼ一律の対応で済むこともあります。相手の理解が得られれば、ホッと胸をなで下ろしたくもなるでしょう。ところが、実際には価格の上げ幅や改定の時期について相手から相談されたり、交渉が必要になったりするケースも多いのではないでしょうか。本当に難しいのはここから。相手との関係性や競合先の状況なども考慮すると、一社ごとに個別の対応が求められます。
曖昧さはトラブルのもと
個別の対応をする中で注意すべき点は、結論を曖昧な表現で終わらせないことです。例えば、改定時期の後ろ倒しに応じるようなことがあったとしても、その時期は明確にしておきましょう。交渉が長期化すると、早く終わらせたい気持ちから「できる限り調整します」と、ついつい曖昧な表現に頼りがちです。曖昧な表現は、双方が自分にとって都合の良い解釈をしてしまう危険性があります。2、3か月先まで遅らせられるだろうと期待していた相手に、翌月、再び値上げを申し入れるようなことになれば、かえってマイナスの印象に。曖昧な一時しのぎが、その後の取引に悪い影響を与えかねません。
分かりやすさより優先すべきことも
検討を重ねた上で、それでも相手からの相談を断らなければならないケースもあるでしょう。相手との信頼関係があればこそ、断るのは心苦しいもの。そんなときは、あえて基本を外してみるのも一つの方法です。相談してきた相手にも恐縮する思いがあるはず。その相談に対して「お引き受けできません」と真っ先に結論を伝えてしまったらどうか。あっさり断られてしまったと受け止められ、関係性にひびが入らないとも限りません。社内で検討を重ねてきた背景、それでも引き受けることができない事情を説明し、最後に断りを入れる。多少遠回りになったとしても、これが相手の心情に配慮することにもつながります。
仕事を進める過程で、状況は常に変化していきます。簡潔に分かりやすく伝えることが基本ではあるものの、時には遠回りしてでも相手への配慮を優先すべき場面もあるでしょう。コミュニケーションに絶対的なマニュアルはありません。変化する状況をしっかりと見極めて、より適切な対応を心がけたいものです。