サラリーマンの普段着といえばビジネススーツ。黒・ネイビー・グレーという「定番色」が限られているからこそ、日々のローテーションはそれほど難しくないでしょう。ところが、この数年、ビジネススーツのデザイン・素材・色の選択肢が増え、着こなしの正解もひとつではなくなりました。もはや、ネクタイの色を選ぶだけでは済まない時代なのです。
職場で、短い丈のスラックスをはいた若手を見かけませんか。業種・職種にもよりますが、これまで絶対にあり得なかったスーツの着こなしが増えています。スーパークールビズ・カジュアルフライデー・スニーカー通勤など、ビジネスファッションの幅が広がった結果、ビジネススーツも影響を受けていたのです。
とはいえ、フレッシュな20代ならまだしも、30代のサラリーマンはどこまでこの流れに乗ればよいのでしょうか。今回は、「新時代のビジネスファッション」について服のコンサルタントがお伝えします。
通り一辺倒なスーツが通用しない時代
20代に比べビジネス経験が豊富な30代だからこそ、スーツのみならず「ジャケパン」も用意しておきたいのです。IT企業のサラリーマンにこんな逸話を聞きました。
あるゲーム会社にスーツで出向いたところ、冗談交じりに「もっとフランクな恰好で来て!」と言われることがあったそうです。これは極端な事例ですが、「『堅い』ことがビジネスに相応しい!」という考え方自体が変わってしまったのではないでしょうか?
これまで業界問わず、「ビジネス=スーツ」という考えが主流だったので、どんな場面でもスーツがあれば十分でした。ところが、最近はドレスコードの幅が広がっています。IT・クリエイティブ業界のみならず、都市銀行の一部部署さえもジャケパンが許容される時代なのです。
2017年夏、アメリカのモルガン・チェース銀行が一部部署のドレスコード緩和という発表をしました。同時期に日本では、総合商社の伊藤忠商事が「脱スーツ・デー」を打ち出しました。毎週金曜はジーンズさえも許容するというカジュアルフライデーの一環です。そして、1年後「脱スーツ・デー」は週2日に増えています。
ただし、職場のドレスコード緩和が意味するところは、カジュアル化ではなく、その本質は「ビジネスファッションの多様化」にあります。取引先企業のドレスコードに合わせビジネスファッションを変えるといった視点が求められます。ですが、まだスーツが義務付けられている職場もあるかもしれません。そこで、新時代のスーツ選びを教えます。
30代が知るべきスーツ選び方の新基準
同じように見えるスーツも時代に合わせ、選び方の基準は徐々に変化しています。ダボッとしていた90年代のスーツに比べ、00年代は短めの着丈に細身のスーツが定番化しました。一方、10年代からいちばん大きく変わったポイントは「裾上げ」です。
これまで定番のパンツ丈といえば、「座っている状態でソックスが見えない程度」でした。ところが、最近では若手を中心に、「立っていてもソックスが見える程度」のアンクル丈をみかけます。さすがに30代はここまで短いパンツ丈にする必要はありません。それでも、「座っている状態でソックスが見え隠れする程度」をおすすめしています。
なぜなら、靴に覆いかぶさっている余ったスラックス生地は、野暮ったい印象にみえるからです。ぐにゃっと弛んだ生地布がだらしない雰囲気になります。会社のドレスコードでスニーカー通勤をしている方は、とくに気をつけましょう!
昨今、オンオフ問わずスニーカーブームが続いていますが、これに合うパンツ丈は短めです。スニーカーに覆いかぶさった生地は革靴で合わせる以上にだらしなさを助長します。
変化はこれだけではありません。丈に加え、「スーツ生地」の常識も変わりました。
スーツ素材の常識が変わる
スーツの王道といえば、ウール糸で織られた滑らかな生地が主流でした。だからこそ、ポリエステルで織られた「洗えるスーツ」が発売された当時、「見た目の印象が安っぽく邪道だ!」と捉えるサラリーマンがまだ多かったようです。この常識が変わる事態になっています。
化学繊維の技術革新は想像以上に進み、「スーツ素材の価値」が大きく変わったのです。先端繊維と名を変えたポリエステルのスーツは、天然素材に見間違えるほど上品な微光沢を発する物も増えてきました。
これらのスーツはセレクトショップ・百貨店で扱われていますし、手が届きやすいTHE SUIT COMPANY、SUIT SELECT、P.S.FA、オリヒカ、ONLYというツープライススーツ量販ブランドにおいても定番です。
機能的でシワになりづらく、見た目の印象も洗練された先端繊維ポリエステルのスーツ。その印象は、従来のウール糸のスーツに比べ、「印象の堅さ」も軽減されます。素材の先入観を捨て、新時代のスーツを選択肢に加えてみてはいかがでしょうか? パンツ丈と素材を変えるだけで、ジャケパン同様、堅すぎないスーツスタイルに仕上がりますから。
著者プロフィール: 森井良行(もりい・よしゆき)
エレガントカジュアル 代表取締役
20代後半から40代の男性のファッションを「エレガントカジュアル」でワンランクアップさせる「服のコンサルタント」。 街のセレクトショップを歩き、顧客に試着を繰り返してもらいながら、その人に最も似合う服を探していく独自の「買い物同行」は9割以上の高い満足度を誇る。著書『毎朝、迷わない! ユニクロ&ツープライススーツの上手な使い方』 (WAVE出版)