世の中の大半の仕事は、人がいることによって成り立つ。そもそも取引先がいなければ仕事の受注がないわけだし、上司や先輩のサポートもなくいきなりバリバリと業務はこなせない。

多くの他人が関係してくる以上、相手に対する敬意やマナーが必要となってくる。だが、職場で使用するツールの使い方や業務上必要なタスクを先輩社員からレクチャーされることはあっても、ビジネスマナーをイチから教えてもらった機会がある社会人は少ないはずだ。そのような人は、無自覚のうちに礼節を欠いた態度をとってしまい、ビジネスチャンスを逸してしまう恐れがある。

そこで本連載では、筑波大学および札幌国際大学の客員教授を務めながら、大学や官公庁などで「職場に活かすおもてなしの心」をテーマとした講演や研修を手掛ける江上いずみ氏に、社会人として知っておくべきビジネスマナーを解説してもらう。

  • メールのマナー、理解していますか?

    メールのマナー、理解していますか?

メールはビジネス上の大切なコミュニケーションツール

第6回第7回では、社会人になったばかりの新卒社員が入社後すぐに直面することになる仕事「電話応対」について記してきましたが、もう1つ、すぐに関わることになるのが「メールの送受信」です。

「学生時代にもメールのやり取りは数多くしていたし、慣れているから大丈夫」と思う人もいるかもしれませんが、就職活動をする学生が希望する先にアプローチする最初の手段はメールになりますから、その人の印象を決めるメールの出し方には十分な配慮と心づかいが必要です。

ビジネス上の大切なコミュニケーションツールであるメールのマナーを知り、新社会人として洗練されたメール送受信ができるよう、第8回では「新社会人としてのメールマナー」についてお話ししたいと思います。

メール送受信時の5つの基本マナー

就職活動をする際の説明会への参加や面接の依頼に当たって、希望する会社にメールを送る機会は必ずあります。また、ひとたび社会人になれば、ビジネスメールを利用する機会はかなり多くあります。

メールは便利なツールでもありますが、顔が見えないコミュニケーション手段であるために、気がつかないうちに相手を不快にさせてしまうケースもあります。メールを有効に活用するための基本的なマナーとして、まずは以下の5つに留意しましょう。

1.アドレス作成時の配慮

自身のアドレスを作る際、変わったアドレスを使用するのはNGです。基本的には大学や会社で指定されたアドレスを使うのが無難です。自分で作成する場合には、xxx.comやxxx.jpなどドメインは各々利便性のあるものを使えばよいかと思いますが、「@」前の文字は、自分の名前や誕生日などで構成するようにし、決して変わった言葉を入れないようにしましょう。それ以外の特徴的な言葉を入れると相手に奇異な印象を与えかねず、ビジネスマナーとしては不適切です。

そして、その連絡先アドレスが明記される「署名」をあらかじめ送信メールに設定しておくと便利です。「署名」には、社名(大学名)、部署名、肩書き、氏名、住所、電話(FAX)番号、メールアドレスが正確に表示されるよう設定しましょう。

2.宛名を書く際の配慮

メールでは本文の冒頭に必ず相手の名前を書きます。その際には、相手の企業名・部署名・担当者名の順に、改行を入れて記載しますが、会社名は省略しないことが大切です。「株式会社」も「(株)」などとしないようにしましょう。

3.冒頭の挨拶文の配慮

メール本文の最初に入れる挨拶文と名乗りは、本題に入る前に必ず必要です。最後に署名を入れるものの、相手が文章の最後まで見なければ、誰からのメールかわからないのでは配慮に欠けます。署名を見なくてもわかるように、所属・名前(フルネーム)を最初に名乗ることがマナーになります。 冒頭の挨拶文としては、以下のようなものがあります。

何回かメールのやり取りをしている相手に対しては

「いつもお世話になっております。
株式会社○○の△△でございます。」

初めてメールを送る相手に対しては

「はじめまして。
〇〇大学〇〇学部に在籍しております〇〇〇〇と申します。」

久しぶりに連絡をする場合は

「ご無沙汰しております。」

から始めるなど、そのときに合った挨拶文を書きましょう。なお、手紙とは違って、簡潔に記すことが相手への配慮になるビジネスメールにおいては、時候の挨拶などは特に必要ありません。

4.本文での配慮

ビジネスメールは、読みやすさや情報を正しく伝える工夫をすることが、相手の時間を大切にし、尊重する気持ちを表すことになります。そのため、以下の点に注意しながら読みやすさと配慮を心がけましょう。

・伝わりやすい文章を書くことが必須なので、一行は長くても25~35文字程度にする
・メールの文章が見やすいように、5行程度のまとまりで1段落とする
・読みやすくするため、段落と段落の間は1行空ける
・1メールにつき1用件が原則。複数用件がある場合には、別件で〇〇についてもメールさせていただきますのでご確認をお願いいたします」などと文末に入れるとスマート
・日時など、箇条書きにできる項目は箇条書きにする
・友人に送るものではないので、「ありがとうございます(^_^)!」などと顔文字を使ったり、「(笑)」「(泣)」などの表現を使ったりするのは避ける
・質問に対する回答を得たときなどはお礼の返信をする。感謝の気持ちを伝えることで、「きちんとした人だ」という印象を持たれる
・文章上では相手の会社のことを「貴社」と書く(面接など口頭では「御社」)

5.締めの言葉の配慮

メール本文の最後に書く締めの言葉は、場面に適した言葉を選ぶようにします。

一般的には、

「今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます」
「引き続きどうぞよろしくお願いいたします」

の言葉で締めることが多くなりますが、他に、状況や場面に応じて、締めの言葉も工夫しましょう。

●依頼をするメール

お忙しいところ大変恐縮ですが、ご連絡をいただければ幸いです。
お手数をおかけいたしますが、何卒よろしくお願い申し上げます。

●返信の連絡をお願いするメール

お忙しいところ恐縮ですが、ご連絡をいただければ幸いです。
何卒、よろしくお願い申し上げます。

●書類や提出物を添付する際のメール

お忙しいところ恐縮ですが、ご査証いただければ幸いです。
何卒、よろしくお願い申し上げます。

●面接、打ち合わせの御礼など簡単な謝意を表す際のメール

業務ご多忙の折、貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。
お忙しいと存じますので、ご返信にはおよびません。
取り急ぎ、御礼申し上げます。

返信不要の一文を入れることは、多忙な相手への気遣いを伝えることになります。

●内定辞退、取り引きのお断りなど、お詫びの気持ちを含めたメール

ご担当の〇〇様にはたいへんお世話になりました。
ご迷惑をおかけし、申し訳なく思っております。
末筆ながら、貴社のさらなるご発展をお祈り申し上げます。

いかがでしょうか。こういった例を頭に入れながらたくさんのメールを書いていくうちに、次第に自分の言葉で書けるようになっていきます。

メールマナーの基本を身につけておくことにより、相手に配慮した心地よいメールを送ることができるだけではなく、メールの送受信にかかる時間を効率化することもできます。挨拶、用件に応じたお礼、お詫び、結びの言葉に至るまで、よく使う言葉を含めた文は定型文にして準備しておきましょう。