世の中の大半の仕事は、人がいることによって成り立つ。そもそも取引先がいなければ仕事の受注がないわけだし、上司や先輩のサポートもなくいきなりバリバリと業務はこなせない。
多くの他人が関係してくる以上、相手に対する敬意やマナーが必要となってくる。だが、職場で使用するツールの使い方や業務上必要なタスクを先輩社員からレクチャーされることはあっても、ビジネスマナーをイチから教えてもらった機会がある社会人は少ないはずだ。そのような人は、無自覚のうちに礼節を欠いた態度をとってしまい、ビジネスチャンスを逸してしまう恐れがある。
そこで本連載では、筑波大学および札幌国際大学の客員教授を務めながら、大学や官公庁などで「職場に活かすおもてなしの心」をテーマとした講演や研修を手掛ける江上いずみ氏に、社会人として知っておくべきビジネスマナーを解説してもらう。
第1回ではスーツ選びとその着こなしを中心にお話し、たくさんの反響をいただきました。「身だしなみ」の必要性と正確な知識に多くの方が興味をもっていることがわかりました。そこで、第2回は「身だしなみ PartⅡ」として、スーツに付随するシャツやネクタイ、靴選びなどについて考えていきたいと思います。
採用担当や新入社員を迎える上司・先輩が見ているのは「常識の有無」と「清潔感」です。男性も女性も「この人を採用したい」「この人と共に仕事をしたい」と思ってもらえるような「好印象を与える服装」を考える必要があります。では、そういったスーツの奥に見え隠れするアイテムには、どのような気配りが必要でしょうか。まずは男性用アイテムから見ていきましょう。
ワイシャツ
ワイシャツは「清潔感」を表す最も重要なポイントです。連日の就活により汗で黄ばんだり「汚れの首輪」ができていたりしたら、それだけで印象が台無しになってしまいます。
就活生・新社会人として爽やかで若々しい印象を与えるワイシャツの色は白の無地! それ以外は好ましくありません。ストライプなどの柄物や、薄いブルーやグレーのワイシャツはおしゃれではありますが、仕事に慣れるまでは我慢して、白い無地のワイシャツを着用しましょう。
気をつけるのは色だけではありません。ワイシャツには襟のタイプも様々あります。タブカラーやワイドカラータイプのものは生意気な印象を与えかねませんので、オーソドックスなレギュラーカラーを選ぶのが無難です。
ところで、就活の面接時に「私服でお越しください」「服装自由」と連絡を受けて、「どのような服装で行けばよいのか」と戸惑う方が多くいらっしゃるのではないでしょうか。
「私服でお越しください」という指定は、その企業が皆さんの「本来の姿を見たい」という意図で指定しているわけですが、私服だからといってどんな服装でもよいわけではありません。ここでもTPOに合わせた私服を選ぶことが大切です。
あるいは入社して「クールビズ」と指定された時期に、ノーネクタイで出社する際には、どのようなシャツで行けばよいでしょうか。そこで活躍するのがいわゆる「ボタンダウン」です。
そもそもボタンダウンシャツは1900年頃に、ニューヨークの紳士服の老舗「ブルックス・ブラザーズ」の創業者、ジョン・ブルックスによって開発されました。ジョン・ブルックスがポロ競技の観戦中にユニフォームの襟が風でパタパタするのを嫌い、それを動かないようにボタンで留めたのが発祥といわれています。伝統よりも、実用性を求めるアメリカらしい発想で生まれたもので、カジュアルな印象になりますが、シャツ1枚で魅せるクールビズには最適のアイテムです。
しかし、その着用にもマナーがあります。ボタンダウンは「ボタン留め」という意味ですから、ネクタイを締めて着るときも、ノーネクタイで着るときも、襟先のボタンは必ず留めます。
一方、ノーネクタイのときはシャツ本体の一番上のボタンは外して着用しますが、ネクタイを締めたときは必ず一番上のボタンは留めなければなりません。ネクタイを締めていたら見えないかと思いきや、一番上のボタンを外していることは意外とわかってしまうものです。これはボタンダウンのみならずワイシャツ着用時のマナーでも同じです。首回りのサイズに合ったものを選び、ネクタイ着用時、一番上のボタンはきちんと留めましょう。
ネクタイ
ネクタイの色は、白のワイシャツ、ダークスーツとの相性により決めます。この色でなければダメという決まりはありませんが、フレッシュさをアピールするのであればネイビーやブルー(水色)、エンジ色がスーツには合わせやすいのでおすすめです。ネイビーは誠実で知的な印象、清涼感のあるブルーや水色は爽やかな印象を与えます。暖色系のエンジ色はポジティブな印象を与えます。いずれにしても悪目立ちしない派手すぎない色を選んでいただきたいと思います。
ネクタイの柄はストライプ、ドット(水玉)、チェック(格子柄)などが無難です。もちろん無地でも構いませんが、シミや汚れが目立つので注意が必要です。
そのほか避けたいのがキャラクターや動物柄、花柄、ペイズリー柄です。ストライプは細いもの、ドットは小さめにして、主張しすぎず、雰囲気に相応しいネクタイを選んでください。「自分がどう思うか」ではなく「他の人から見てどう見えるか」を意識して、着用していただきたいと思います。
靴下
靴下の長さは、いすに座ったときに地肌が見えない長さのものを選ぶのが適切です。いわゆるくるぶしソックスやノーソックスは避けなければなりません。スラックスの色に合わせて靴下の色を選ぶのがポイントですので、同系色の紺・グレー・黒の靴下を選びましょう。白いソックスはビジネスマナーとしては絶対にNGです。