悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、テレワーク(在宅勤務)で飲み会も減り、部下との関係に溝ができたと悩んでいる人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「会社の飲み会が減ったので、部下との溝ができている気がします」(49歳男性/管理職)

  • 飲み会"自粛"のいま、部下との距離が遠くなったと感じる方へ(写真:マイナビニュース)

    飲み会"自粛"のいま、部下との距離が遠くなったと感じる方へ


前回、前々回と、テレワークやそれに付随するコミュニケーションに関するお悩みをご紹介してきました。新型コロナウイルスが与える影響は大きく、働き方について改めて思い悩む方は、やはり少なくないようです。

今回もまた、コロナ禍による環境変化に関連したご相談。テレワークが導入されたことによって飲み会が減り、コミュニケーション不足に直面しているというのです。

なお最初に申し上げておくと、僕もいわゆる「飲みニケーション」肯定派です。飲み会がコミュニケーションに与えるメリットは多いと実感していますし、実際、飲み会の席での話題が書籍の発売に結びついたというケースもいくつかあります。

ですから、このお悩みも基本的には「わかる」のです。が、同時に少しばかり違和感もあります。

たしかに飲み会は、部下との距離を縮めるかもしれません。けれども、飲み会がなければ部下と意思疎通できないということでもないはず。もし部下とのコミュニケーションにおいて飲み会が必須であるなら、お酒の飲めない上司は部下と交流できないということになってしまいます。

そんなこと、ありえませんよね。

飲み会以前に、"コミュニケーション"そのものが重要だということです。そこで今回は、部下とのコミュニケーションに役立ちそうな3冊を選んでみました。

上手な「雑談」でコミュニケーションを図る

コミュニケーションについて考えるとき、決して無視できないのが「雑談」です。とはいえ現実問題として、雑談に苦手意識をお持ちの方も少なくないかもしれません。雑談には、テクニックや才能が求められるようにも思えるからです。

しかし、その点について、『雑談がおもしろい人、つまらない人』(渡辺龍太著、PHP研究所)の著者は異論を唱えています。

雑談のおもしろさは、話の内容でも、頭の回転でも、口のうまさでもなく、「相手と楽しく無理なく会話できるかどうか」で決まるというのです。

雑談は相手との共同作業だからこそ、相手と自分が心地よく、自然と会話できることがなにより大切なのだという考え方。したがって本書では、さまざまな雑談のコツを、「おもしろい人」と「つまらない人」を比較しながら紹介しているわけです。

第1章「インプロ雑談術『7つの公式』」のなかから、「時間」についての考え方をピックアップしてみましょう。

おもしろい人は 話す時間は短くてもいいと思っている
つまらない人は 話す時間は長くても印象に残らない
(50ページより)

  • 『雑談がおもしろい人、つまらない人』(渡辺龍太著、PHP研究所)

飲み会の席では、何時間でも雑談できてしまうものです。そのため、「雑談には時間をかけるべきだ」と考えてしまいがちかもしれません。でも著者によれば、お互いのキャラクターをつかむためなら、30秒あれば雑談は成立するのだそうです。

雑談は、お互いのキャラクターを把握できればよいだけなので、時間を気にする必要はまったくなく、むしろ、短ければ短いほど、質の高い雑談といえます。(51ページより)

そう考えれば、必ずしも長時間の飲み会が必要ではないということがわかるのではないでしょうか? 日常のちょっとした会話を通じてでも、密度の濃いコミュニケーションは可能なのです。

ちなみに著者は放送作家であり、「インプロ」というアドリブトーク術の専門家。インプロとは、日本語で「即興力」「即興演劇」という意味で、つまりはその場の状況に応じ、即興で場を盛り上げる会話を行うためのコミュニケーションメソッドなのだそうです。

そんなインプロのコツを凝縮した本書を参考にすれば、"飲み会なしの雑談"を活用できるようになるかもしれません。

「相手への敬意」を忘れない

『仕事で必要な「本当のコミュニケーション能力」はどう身につければいいのか?』(安達裕哉 著、日本実業出版社)の著者は、仕事やマネジメントに関するメディア「Books & Apps」を運営している人物。

自身も同メディアで、「働く人たちのコミュニケーション不全」を改善すべく、多くのコラムを書いてきたのだといいます。本書は、そのなかでもとくに評判のよかった記事をもとに加筆修正をし、編集したもの。著者の考える「コミュニケーション能力」の身につけ方を凝縮しているわけです。

ところで相手とのコミュニケーションにおける重要なポイントは、「話を聞く」ということ。しかし、それは難しいことでもあります。では、「聞く」ためにはなにが重要なのでしょうか?

この問いに対して著者は、本当に重要なのは、話を聞くときの「姿勢」だと断言しています。たとえば、いちばん未熟なのが「否定してやろうと思って聞くこと」。相手の話にケチをつけてやろうと思って聞くということで、それでは「自分が勝った気になる」ことが目的となってしまうわけです。

「解決してやろうと思って聞く」としたらまだマシかもしれませんが、そこには「教えてやろう」という姿勢が垣間見えます。

一方、「ただ聞くだけでいいと思って聞く」のだとしたら、それは大人の態度。聞くことだけで、相手のためになることを知っているということ。そしてその根底には、「話し手へのやさしさ」があるわけです。

しかし、著者はそれ以上の得策として「自分のなかに取り込もうと思って聞く」ことを重要視しています。

根底にあるのが「相手への敬意」なので、相手も自分の話が非常にしやすい。そして「聞いてもらっている」という感覚ではなく、おそらくは「話し合っている」という感覚になるだろう。(76ページより)

  • 『仕事で必要な「本当のコミュニケーション能力」はどう身につければいいのか?』(安達裕哉 著、日本実業出版社)

たしかに「相手への敬意」があれば、必然的にコミュニケーションは円滑なものになるでしょう。つまり、本質は人格の問題だということ。テクニックよりも大切なものが、そこにあるということです。

相手との「共通点」を見つけるための戦略とは

最後にご紹介する『ハーバード・CIA・FBIで学んだ 人の心をつかむ最高の法則』(REINA 著、リベラル社)の著者は、ハーバード大学院卒業、ビル・クリントン事務所およびインターポールにインターンシップとして勤務したという実績の持ち主。2014年の来日後はお笑いコンビを結成するなど活動の幅を広げたようですが、現在はベンチャー企業Spark Dojo取締役を務めています。

そんなキャリアを軸としながら本書で訴えているのは、ずばりコミュニケーションのための戦略。さまざまな考察がなされているなか、今回のご相談については「狙った相手との距離を縮める7つのテクニック」内の「絶対に盛り上がる共通点を見つけるコツ」という項目が役立ちそうです。

著者はここで、コミュニケーションの基本は共通の話題や経験、趣味を見つけること。そして共通点を見つけるためには、次の2点を準備することが必要だと主張しています。

・訊ねる質問の準備→質問のレパートリーをつくる。
・話せる内容の準備→共通する可能性が高いトピックについて、話せる内容を準備する。
(257ページより)

  • 『ハーバード・CIA・FBIで学んだ 人の心をつかむ最高の法則』(REINA 著、リベラル社)

質問のレパートリーとは、いつでも誰にでも使えるように用意している質問集のことで、8~10問が目安だとか。それらを準備して憶えておき、相手との距離を縮めたいときに活用するわけです。たとえば部下が相手なら、趣味などについての質問を準備しておけば役に立ちそうです。

また、質問に対する答えを予測し、共通点をつくれるように事前準備をしておくことも大切。たとえば「出身地」は誰からでも簡単に引き出せる情報であり、答えの種類も限られています。つまり、出身地ほど共通点をつくりやすいカテゴリーはないわけです。

「相手が自分と同じ出身地だったらラッキー、違ったらしょうがない」。
このような考え方ではなく、
「相手が自分と同じ出身地だったらラッキー、違っていても共通点になるようにネタを準備しておく」
このように考えて、戦略的に共通点になるネタを用意しておきましょう。
(259~260ページより)

趣味や出身地だけではなく、「仕事」に関する情報を聞き出すことも可能かもしれません。


繰り返しになりますが、飲み会がなくても部下とのコミュニケーションを図ることは充分に可能です。逆にいえば、飲み会がなければ成り立たないようであれば、それは本当の意味でのコミュニケーションとは言えないわけです

しかも「飲み会なしのコミュニケーション」は、決して難しくありません。ちょっとした発想の転換やアイデアによって、関係はいくらでも好転させることができるのです。これら3冊を参考にしながら、そのための方法を見つけてみてはいかがでしょうか?