悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、急遽コロナの影響でテレワーク(在宅勤務)を余儀なくされ、悩んでいる人のためのビジネス書です。
■今回のお悩み
「在宅勤務になったものの、家ではなかなか仕事がはかどりません」(35歳男性/営業職)
新型コロナウイルスが猛威を振るい続けていますが、そんななか、会社からテレワーク(在宅勤務)を命じられた方も多いようです。実際、僕のところにもここ数日の間に、「自宅で仕事しております」「明日からテレワークです」というようなたくさんの連絡が届いています。
こんな状況なのですから、当然の話ではあるでしょう。しかしその一方、一気にテレワークが浸透したことにはいささか驚きを感じてもいます。なにしろこんなことは、いまだかつてなかったからのですから。
それに実際のところ、僕のように家で仕事をしている人間とは違って、ビジネスパーソンの大半は、本来であれば通勤すること自体が「日常」です。つまりテレワークへ移行することは、日常が歪むことだと考えることもできるわけです。
ですから、少なからず戸惑いを感じていらっしゃる方もいるのではないかと推測できますし、今回のようなご相談をいただいたことにも充分納得できるのです。そこで今回は、テレワークに関連する3冊のビジネス書をチョイスしてみました。
テレワークは企業にとってメリット?
まず最初にご紹介したいのは、『在宅勤務が会社を救う: 社員が元気に働く企業の新戦略』(田澤由利 著、東洋経済新報社)。
著者は、在宅でもしっかり働ける会社を目指して設立されたというワイズスタッフ、そして日本初のテレワーク専門コンサルティング会社であるテレワークマネジメントの代表取締役です。つまり、テレワークの最前線で活躍していらっしゃるわけです。
「テレワーク」という働き方は、多く休んだり、労働時間を短くしたりして、「ワークライフバランス」や「ダイバーシティ」を実現するのではありません。優秀な人材がその能力を発揮し、働き続けられるようにすることで、実現するのです。また、同時に、コスト削減、生産性向上、危機管理といった、企業のさまざまな課題を解決できる「企業戦略」でもあるのです。(「はじめにーーこの本を手にした方へ」より)
もしそれを"危機"と捕らえられるならば、今回のコロナ禍を前提としたテレワークは"危機管理"の一環であると言えるでしょう。とはいえ、在宅勤務にはどのようなメリットがあるのでしょうか? どんなことができるのでしょうか?
こうした純粋な疑問に対するひとつの答えとして、本書で紹介されている営業マンのあり方をご紹介しましょう。営業職に在宅勤務など無関係のようにも思えますが、必ずしもそうではないというのです。
営業職に適切な在宅勤務制度を取り入れると、企業にも大きなメリットをもたらします。会社の売上に直結する、営業活動。通常は、新しい地域に進出するには、支社や拠点を作ることから始まります。しかし、在宅勤務での営業を可能にすることで、新しく拠点(支社)を作らなくても、営業エリアを拡大できます。(213ページより)
たとえば著者の会社では、福岡県の「在宅勤務(テレワーク)制度普及・啓発事業」を実施したことがあるのだそうです。2,000社の県内企業テレワークの説明をし、会社への導入を支援するというもの。
その際、営業職の4名は、福岡県内の主要都市に在住する人を在宅勤務で採用したのだとか。自宅を拠点として近隣の企業を直行で訪問し、直帰するというスタイル。
通常、福岡から地方の企業に訪問すると移動に時間がかかるため、1日に2社か3社しか訪問できません。しかし、この体制だと3社は確実に、効率良く回れば4社を訪問することができます。営業職が在宅勤務することで、訪問件数を増やすことができるのです。(214ページより)
大切なのは、離れていても営業のモチベーションを維持し、マネジメントできる体制や仕組みをつくること。それさえできれば、在宅勤務は企業の営業活動に大きく寄与すると著者は主張しています。
テレワークという「制度」について解説した書籍ではありますが、この機会に基本的なことを学んでおけば、テレワークをより有効に活用できるようになるかもしれません。
テレワーク中の会議を有用なものにするには?
ところでテレワークによって改善できそうなものといえば、すぐに思いつくのが「会議」ではないでしょうか? なにか重要なことを決めるときには「みんなで部屋に集まって話し合う」ことが当然とされてきましたが、スマートフォンの普及に伴い、その必然性は薄れているわけです。
また注目すべきポイントは、SNSが「文字」によるコミュニケーションを浸透させたこと。
つまりインターネット環境さえあれば、いる場所に関係なく全員が同じ「場所」に集まることができるということ。しかも相手から見えないため服装などを気にする必要もなく、だからこそ文字によるコミュニケーションが急速に普及したということです。
そこで注目したいのが、『もう会議室はいらない「テキスト会議」の運用ルール』(宮野清隆 著、あさ出版)。文字コミュニケーションを「会議」に導入し、対面での会議に代わる新たな意思決定方法の確立を目指した書籍です。
本書は、「文字によるコミュニケーション」を会議に適用し、実際に会議室に集まることなく、インターネットを利用した文字だけの会議を実現することを目指しました。この「インターネットを利用した文字だけによる会議」を『テキスト会議』と呼んでいます。(14ページより)
具体的には、テキスト会議が持つさまざまな利点の活かし方と欠点の補い方をまとめ、「議事法」として成文化しているのだそうです。そしてその基本理念は、次の5つ。
(1)整備された規則があれば、会議は効率化できる
→議事法を制定することで、不明確な部分や迷いを解消できるため、会議の効率化を実現。
(2)目先の面倒を受け入れ、将来の面倒を回避する
→"目先の面倒"を回避せずに採決すれば、将来的に起きるトラブルを回避することが可能。
(3)声の大きさではなく、意見の正しさを重視する
→声の大きさではなく、多くの人が「正しい」と感じた意見を採用できる。
(4)機会平等を尊重し、結果平等は求めない
→参加者は意見を述べ、提案をし、投票する機会を平等に与えられるが、機会を結果に結びつけられるかどうかは本人の努力次第。
(5)最大限の権利と、最低限の罰則
→参加者は、規律を守る限りは最大限の自由な発言と活動の機会を保障されるが、規律を乱す者は最低限の罰則を受ける義務を負う。
(17~18ページより抜粋)
こうした理念を共有できてこそ、会議を有用なものにできるわけです。そしていうまでもなくそれは、テレワークに適したものでもあります。テキスト会議を活用してテレワークをより快適なものにするために、その方法を詳しく解説した本書を参考にしてみるのもひとつの手段です。
オフィスのムダ「報連相」が明らかに……?
さて、テレワークをするためには、まず日常のオフィス業務に散見する"仕事のムダ"をできる限り排除することが大切です。ムダをそのままテレワーク環境に持ち込んだとしたら、ムダはさらに肥大化してしまうのですから。
そこで、『やめるだけで成果が上がる 仕事のムダとり図鑑』(岡田充弘 著、かんき出版)を参考にしたいところです。タイトルからもわかるように、ビジネスシーンにおけるムダをとることの重要性を説いたもの。
たとえばムダのいい例が、"対面でのホウレンソウ(報連相)"。
メールで、関係者全員に情報共有しているはずなのに、上司から「なんで、報告しないんだ!」と叱られた経験のある人もいることでしょう。こういった状況が当たり前の職場は、もう一度「ホウレンソウ」の定義と運用法を見直したほうがいいと思います。本来の「ホウレンソウ」は、社内に適切な"情報の流れ"をつくるためのコミュニケーションルールです。(24ページより)
「報告」とは、上司の指示や依頼に対して、部下が自身の見解を交えて"経過や結果"を知らせること。
「連絡」は、資料の保存先やイベントの日程など、事実情報だけを上司や仲間に伝えること。
そして「相談」は、部下が判断に迷ったり、客観的な意見を聞きたい場合に、上司に状況を説明してアドバイスをもらうこと。
こうして改めて確認してみると、"対面"に執着する「ホウレンソウ」のスタイルは、デジタルやインターネットの特性を活用すればそこで完結させられることがわかります。
テレワークの場合、「ホウレンソウ」の問題はメールでクリアできるのです。しかも履歴が残るからこそ「言った、言わない」という不毛なトラブルも避けることができるでしょう。
たとえばこのように、テレワークをうまく活用すれば、日常のオフィスにおいて見えにくくなっているムダを改善することができるわけです。だからこそ、"快適な環境づくり"を実現するために、ぜひ参考にしたい一冊です。
コロナの流行は気持ちを暗くさせますが、テレワークを活用するためのチャンスであると考えてみてはいかがでしょうか? そんな発想は、日常を少なからず快適なものにしてくれるはずですから。