悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、仕事を先延ばしにし、締め切り直前で慌てることが多く悩んでいる人のためのビジネス書です。
■今回のお悩み
「締め切り直前で慌ててやることが多いので、このくせを直したいです」(43歳女性/専門サービス関連)
「締め切り直前で慌ててやる」ということですが、だとすれば多少なりとも「先送り」する癖がついているということなのでしょうね。理由はどうあれ先送りしてしまうからこそ、土壇場になって慌てなくてはならないわけです。
でも実際のところ、「(気乗りしない仕事であればあるほど)つい先送りしてしまう」というかたは意外に多いようです。僕の周囲にも、そう悩む人は何人かいます。
では、自分はどうかといえば、実は逆なのです。つまり僕の場合、「やらなくてはいけない仕事」「やりたくない仕事」ほど最優先させるようにしているということ。
いや、別に自慢しているわけではありません。それどころか、これは単に気の小さい性格のせいだと自己分析しているくらいです。先送りすればするほど不安がつのってしまうので、「だったら早く終わらせたほうが楽」だと考えているだけの話。要は早くやっちゃって、早く逃げ出したいのです。
どうやっても逃れることのできない、いつか必ずやらなくてはならない仕事なのだとしたら、そんなものはさっさと片づけて解放されたほうが精神的に楽じゃないですか。だから、いやな仕事ほど最優先しているという、それだけのこと。
そのため実体験として断言できるのですが、そういうものは早く片づけてしまったほうが間違いなく精神的に楽です。ですから僕としては、「早くやる習慣」を身につけることをお勧めします。
もちろん、最初からうまくはいかないかもしれません。でも、いずれきっと身につくと思いますので。
ということで今回は3冊の本を参考にしながら、「仕事を早くやるにはどうしたらいいか」について考えてみましょう。
「イヤな予定」への対処法は?
膨大な仕事量をこなしながらプライベートも充実させているような「できる人」と、そうでない人との差はなにか?
それは、仕事や課題に対して「すぐやる」という習慣を持っているか否かである。そう主張するのは、『すぐやる力 自然に動き出す自分に変わる!』(塚本亮 著、PHPビジネス新書)の著者です。
日本人はなぜか、どうせ自分は「すぐに行動できなくて、先のばしする性格なんだ」と特に根拠もなく決めてかかっている人が多いのです。だから、いくら「今日からすぐやるんだ」と決心しても、いつも長続きしないんだ……と考えがちです。でもそれは、性格の問題ではありません。すぐやるやり方を知らないから。ただ、それだけのことです。重要なのは、性格を変えることではなく、ちょっとした行動を変えること。誰にでもできる簡単な行動から始めて、少しずつ結果を出していけば、やがて「すぐできない自分」から脱却できます。(「はじめに ちょっとした行動で、すぐやる人になる」より)
たとえば、なんとか先延ばしできないかと思わずにはいられない「イヤな予定」がある場合の対処法については、「イヤな予定のあとに、楽しみな予定を入れておく」べきだと主張しています。
相性のいい人との打ち合わせを入れたり、気の合う友人と飲みに行く約束をしたり、いちばん食べたいものを食べに行こうと決めるなど。
「イヤな予定から逃げたい。でも、逃げられない」という矛盾を抱えているなら、その後に楽しみな予定を入れて「これがあるから、がんばれるじゃないか」と自分に言い聞かせればよいのです。(23~24ページより)
実際にやってみると、イヤな仕事をするための心理的なハードルが下がることがわかるそうです。しかも重要なポイントは、イヤな仕事のあとに楽しい時間を過ごして1日を終えることができれば、その日に対する印象も変わってくるということ。
イヤな仕事でつらい思いをしたとしても、楽しく締めくくることができれば、結果的には相殺でき、「まあいいや」と思えてくる。すると、おのずとモチベーションも高まるわけです。
冒頭に書いた「やりたくない仕事ほど最優先させる」という発想の変化球とも言えるかもしれませんが、たしかに効果がありそうです。
"すぐにメモする"ことを習慣に
すぐに行動しない人は、総じてストレスレベルが高い人が多いように見えます。いつも何かに追われている、ココロが落ち着かない、やる気が出ない、そんな気分を持つ人も多いのではないでしょうか。(15ページより)
『すぐメモする人がうまくいく』(堀宏史 著、自由国民社)の著者は、こう指摘しています。「いつもなにかに追いかけられている感じ」だからこそ、すべてにおいて自分で主導権が取れず、後手後手にまわってしまう。それが、すぐに行動できない人の特徴だというのです。
そして、その原因は、脳のメモリーを無駄なことに浪費しているからなのだとか。
人間の脳はコンピューターと同じく、記憶用のメモリーとタスク処理用のメモリーに分かれていて、記憶用のメモリーがいっぱいになるとメモリー容量が足らなくなると同時に、処理用のメモリーの速度までうばっていくのです。(16ページより)
こうした処理の遅れやメモリー不足を解消するために大切なのは、「目の前のタスクをすぐに処理」し、記憶用のメモリーを無駄なことに占有させないこと。そして、情報を処理する際にいちばん理想的なのは、「情報を外部化する」、すなわちメモをしていくことなのだそうです。
きわめてシンプルではありますが、メモをするという行動習慣を日常的に積み重ねていくことには大きな効果があるようです。実行する人としない人とでは、結果的に大きな差がつくということ。
そこで本書では、「すぐにメモをする」という"シンプルな習慣"から始めることを提案しているのです。基本的な「メモの仕方」はもちろん、スマホアプリとPCを連携させた情報の一元管理法、Twitterを利用した"メモアップデート"法など、さまざまなアイデアを凝縮。
そのため、メモする習慣を無理なく身につけられるはず。そこまで到達できれば必然的に、「締め切り直前で慌ててやる」という悪癖から抜け出せるのではないかと思います。
「ムダな努力」を減らそう
ところで仕事を先送りしてしまうとしたら、そこには多少なりとも「手間と時間がかかりそうで面倒だ」と言う思いがあるのではないでしょうか? 手間がかかって面倒なら、誰だってやる気は失せますよね。
だとしたら、「手間をかけず=ラクをして」「時間をかけず=速く」終わらせることができるようになればいいわけです。そこでご紹介したいのが、『「ラクして速い」が一番すごい』(松本利明 著、ダイヤモンド社)。
人事・戦略コンサルタントである著者はここで、「ラクに仕事をするほうが、結果が出て、さらに人生の選択肢も増える」と断言しています。
誤解されやすいのですが、"ラクをする"とは「手抜きをする」「適当にする」ということではありません。力の「入れ所」と「抜き所」を押さえ、ムダな仕事を減らすことです。(「はじめに リストラされた5万人と選抜された6000人の『差』とは?」より)
端的にいえば「ムダな努力」を減らせばいいということですが、ムダな努力は次の5パターンに分類できるそうです。
(1)一生懸命がんばるけれども、やり直しが多い。
(2)すべてに全力投球で、疲れ果てる
(3)責任感を持ちすぎて、仕事を抱えすぎる
(4)根回しに労力と時間をかけすぎ、疲弊する
(5)上司の指示通りにやるが、結果が伴わない
(「はじめに リストラされた5万人と選抜された6000人の『差』とは?」より)
たしかにこれらのムダな努力をなくせば、効率的に仕事を進めることができるかもしれません。そして著者は、本書を活用すれば、こうした結果につながらない努力を排除できると主張しています。
とくに、無駄を省くためのコツを手体的に解説した1章「一発で決める」は、先送りしがちな仕事を無駄なく"やっつける"ために役立ってくれそうです。
こう言ってしまっては身も蓋もありませんが、「やらなくてはならないこと」は、「やるしかない」のです。やりたくなかったり気乗りしなかったとしても、それは自分の気持ちにすぎないのですから。
だとしたら、少しでもストレスなくやる方法を模索し、実践すべき。そうすればきっと、ストレスを軽減できるはずです。そこで、この3冊を参考にしながら、自分にとってベストな手段を見つけ出すことをお勧めします。