悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、上司と反りが合わない人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「上司と反りが合いません」(27歳/事務・企画・経営関連)


ご相談内容を拝見し、20~30代のころの自分を思い出してしまいました。まだ会社勤めをしていたころ、僕⾃⾝が上司に対して「この⼈とは合わない。それどころか、そもそも価値観も違うし」みたいなことを思っていたからです。

そればかりではありません。管理職として人の上に立つようになってからは立場が一転し、「部下から"合わない"と思われているな」と感じたこともあります。

上司に対してであろうが部下に対してであろうが、うまくいかない状況のなかで悩み、もがいていたということ。ですから、なんだか人ごとではないような気がしたのです。

ということで、上司との人間関係を改善できるような本はないかと考えてみたのですが、その結果、ひとつの考えに気づきました。上司も人間であり、部下も人間。それぞれ人生観も経験も好き嫌いもすべてが違うのだから、もっと広い視野を持つべきではないかということ。

具体的には、「合わない上司をどうするか」ではなく、「(合わない上司と向き合いながら)自分がどう成長していくべきか」と考えたほうが建設的ではないかと思ったわけです。

そうすれば波風が立つことは少なくなる可能性がありますし、結果的に自分自身を向上させ、大らかな気持ちになれるかもしれないから。

今回は、そのような視点を軸として3冊をチョイスしてみました。

苦難を乗り越える言葉に学ぶ

まずご紹介したいのは、『働く君に贈る25の言葉』(佐々木常夫著、WAVE出版)。

  • 『働く君に贈る25の言葉』(佐々木常夫著、WAVE出版)

著者が東レ(株)に入社したのは、高度経済成長期のさなかである1969年。経済も会社も成長過程にあっただけに、「恵まれた世代」だったことも認めています。しかしその⼀⽅では、肝臓病を患い、うつ病を併発して⾃殺未遂をしたこともある奥様を看病するなど、厳しい時期も体験しています。

そんななか、数々の⼤事業を成功に導き、2001年には東レ取締役に役就任。以後、東レ経営研究所社⻑を経て特別顧問に就任したのです。

そしてビジネスマン人生を振り返ると、自分にとってのエポックとなるような出来事の多くは、20~30代に起こったことに気づいたのだそうです。そこで本書では若いビジネスマンに向け、これまでの人生のなかでつかみ取ってきた、「幸せに働き、居合わせに生きるためのエッセンス」をまとめているわけです。

上司との関係性はもちろん、それ以外にも、ビジネスパーソンとして、いや、人間生きていく上ではさまざまな問題が起こるものです。だからこそ、多くの苦難を乗り越えてきた著者の言葉は、きっと参考になることでしょう。

人間関係に悩んだ精神科医によるメソッド

  • 『自分の「人間関係がうまくいかない」を治した精神科医の方法』(西脇俊二著、ワニブックス)

タイトルからもわかるとおり、『自分の「人間関係がうまくいかない」を治した精神科医の方法』(西脇俊二著、ワニブックス)の著者は精神科医。テレビドラマの医療監修やメディア出演など、幅広く活躍する人物ですが、中学生時代から30代半ばまで20年以上にわたり、人間関係がうまくいかないことに苦しみ続けてきたのだそうです。

そんななか、本業である精神医学の最先端を学ぶことによってわかったのは、自分が発達障害、具体的にはアスペルガー症候群(AS)とADHD(注意欠如・多動症・注意欠陥・多動性障害とも)という、ふたつの要素を併せ持っていたということ。

しかし「人間関係がうまくいかない理由・生きづらさの理由は発達障害にあったのだ」と気づいてからは、それまで悩んできたさまざまなことがストンと踏み落ちたのだといいます。

そしてその結果、対人トラブルの数も激減し、人間関係も良好になったのだとか。つまり本書では、そのような立場から「人間関係をうまくいかせるためのメソッド」を明かしているわけです。

人間関係がうまくいかない具体例も多数紹介されており、もちろんそれらへの対処法も。特に「人間関係がうまくいく! コミュニケーションUPのコツ」内の「上司編」は、上司とうまくつきあっていくうえで参考になりそうです。

現代人にも役立つ「論語」の教え

人間関係について悩んでいるのなら、過去の文献を参考にしてみるのもひとつの方法。特に、中国春秋時代の思想家である孔子の言葉を集めた「論語」は、時代を超え、多大な影響を与えています。

  • 『超訳-論語-「人生巧者」はみな孔子に学ぶ』(田口佳史著、知的生きかた文庫)

とはいえ多忙なビジネスパーソンにとって、オリジナルの論語を読むことは時間的にもなかなか困難。

そこで、『超訳-論語-「人生巧者」はみな孔子に学ぶ』(田口佳史著、知的生きかた文庫)を読んでみてはいかがでしょうか。

東洋思想研究者であり、経営アドバイザーとして2,000社を超える企業の指導を行ってきたという著者が、論語を読みやすく「超訳」したもの。

著者はこれまでにも「論語を軸にした仕事論・人生論を書いてほしい」という要望を何度も受けてきたそうですが、それは論語に、現代人にとっても有用な教えが詰まっているからだと分析しています。

たしかに、上司としてのあり方、アドバイスの受け方、自立の必要性、人間関係のつくり方など、ビジネスパーソンに役立ちそうな考え方を多数確認することが可能。

一項目を一見開きでまとめたコンパクトな文庫版なので、バッグに入れておき、空いた時間に気になるところを読んでみるだけでも参考になりそうです。


人間関係はとてもデリケートなもの。好意を持って接したのに跳ね返されることもあるでしょうし、逆にこちらが相手を誤解してしまうことも考えられます。そして状況が悪化してくると、どんどん否定的な感情を持ってしまいがちです。しかし冒頭でも触れたように、そこであえて「自分の成長」に焦点を当ててみるのも一考。

そうすればきっと、気持ちは楽になっていくはずです。そして、自分をそちらの方向に向けていくためにも、ぜひ、これらの本を参考にしていただきたいと思います。

著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)

作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。