悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。仕事量が多く、どうすればよいか悩んでいる人のためのビジネス書です。
■今回のお悩み
「やらなければならないことが多すぎで、何から手を付けていいのか、途方に暮れています。」(28歳女性/事務・企画・経営関連)
多くの企業で人手不足が常態化し、そうした状況に伴ってひとりひとりの仕事量が増えています。今回のご相談にあるように、多くのビジネスパーソンが「やらなければならないことが多すぎる」ことで悩んでいるわけです。
しかし、「だからといって人を増やすわけにはいかない」というのが企業側の主張。そのため従業員としては従わざるを得ないのですが、そうはいってもひとりの人間にできることには限界があります。
ましてや忙しさから精神的に追い詰められてしまうと、おっしゃるとおり「途方に暮れてしまう」ことになっても不思議ではありません。
そしてその結果、ストレスが雪だるま式に増えていき、悪循環に陥ってしまったりすることも……。
では、どうすればいいのでしょうか?
現実問題として会社が解決策を案じてくれないのだとしたら、自分でなんとかする必要があるでしょう。理不尽な話ではありますが、どうしようもできないのであれば、まずはそれが得策ということになるからです。
そしてそのうえで、「少しでも楽になる方法」を見つける。それこそが、仕事量やストレスを減らすための最良の手段なのではないでしょうか?
そこで今回は、そのような観点から3冊をチョイスしてみました。
“最強の仕事効率化”とは
『捨てる。手を抜く。考えない。月460時間労働から抜け出した私の方法』(須田仁之 著、かんき出版)の著者は、かつてソフトバンクグループにおいて、Yahoo!BB事業立ち上げなどに従事したという実績の持ち主。
労働時間がピークだった20代のころには月460時間労働という、まさに“社畜”的な働き方をしてきたのだそうです。しかしその結果、人よりも仕事を速く処理することができるようになったのだとか。
そうした経験を生かし、現在は40社以上のベンチャー企業で顧問・取締役、社外役員として活躍中。つまりここでは、そうした経験から身につけた仕事効率化の方法を明かしているわけです。
僕にとって、激務を乗り越えて成果を出す“最強の仕事効率化”とは、「捨てる」「手を抜く」「考えない」の3つに集約されます。(「はじめに」より)
具体的には、ITツールで管理できたり、昔ながらの価値観のまま惰性で持っていたりするものは「捨てる」。自分の力で解決しようとせず、周囲やインターネットの力を借りながら「手を抜く」。トラブルが発生しないコミュニケーションを取り、本質を見失わないため「ムダなことに頭を使わない」といったこと。
「気合と根性」が重視された昔と違い、「ゆるふわ」な状態で成果を出すことが求められる時代だからこそ、ムダな仕事は最速で終わらせ(もしくはしないで)、人間だからこそできるアイデア出し、人的マネジメント、密度の濃いコミュニケーションなどに時間や労力を使うべきだというのです。
本書においてとくに注目したいのは、「『優先順位』という発想を捨てろ」という主張。仕事における優先順位など、考える時間がもったいない。「すぐ終わるものは終わらせておく」が基本であり、かつ最強の仕事術だという考え方です。
どうしても優先順位をつけたいなら、「すぐ終わるもの」と「時間がかかるもの」に分ける程度にし、前者は「思いついたらすぐ終わらせる」ことが重要。そして「時間がかかる仕事」は、まず「期限がいつなのか」を確認すべき。期限を確認すれば、「5時間で終わると思っていたものが、倍の10時間かかってしまった」というようなことを防げるわけです。
ただし、優先順位を考える時間があるなら、実現できる「スケジューリングを考える時間」に割いたほうがはるかに有意義だとも著者はいいます。
手を抜くには、自分の使っているスケジュールに入れ込んでしまい、視覚的にも「ここでやらなきゃ!」と自分を追い込むのです。(30ページより)
シンプルな方法ではありますが、これはとても大切なことかもしれません。
仕事を早く終わるにはまず行動を
仕事がいつまでも終わらない理由のほとんどは、よかれと思ってやっていることが、かえって仕事を増やしてしまっていることにあります。あなたももしかしたら無意識のうちに、自ら仕事の量、時間を増やしてしまっているかもしれません。(「はじめに」より)
こう記しているのは、『仕事が早く終わる人、いつまでも終わらない人の習慣』(吉田幸弘 著、あさ出版)の著者。これまで3万人以上の人々からさまざまな相談を受け、仕事時間、量を減らす方法を伝えてきたという人材育成コンサルタントです。
そのような実績に基づき、本書では「仕事が早く終わる人」と「いつまでも終わらない人」を比較し、ムダを減らす時間の使い方を明かしているのです。たとえば著者は、「早く終わる人は見切り発車をし、終わらない人は慎重に計画を立てる」と指摘しています。
そして、そのうえで引き合いに出しているのが、売上増や生産性アップ、目標達成に向けて業務改善をしていくプロセスである「PDCAサイクル」。
・P(Plan:計画)……従来の業績や将来の予測などを元にして、業務の計画を作成する
・D(Do:行動)……計画に沿って業務を実行する
・C(Check:確認)……業務の実施が計画に沿っているかどうかを評価する
・A(Action:実行)……実施が計画に沿っていない部分を調べて改善する
(98~99ページより)
現代はスピードの激しい時代。インターネットの発達によって、ビジネスモデルが模倣されやすくなっているため、自分が思いついたビジネスモデルを、ライバルである他の誰かも思いついている可能性があるわけです。
だからこそ重要なのは、いかに速くPDCAを回すか。なぜなら、行動を起こしてからのほうが精度も高まるものだから。失敗を恐れる人もいますが、失敗は一時期の挫折にすぎず、成功にたどり着くためには必要不可欠なこと。だとしたら、早めに失敗してしまったほうがいいという発想です。
たしかにそう考えれば、細かいことで悩む機会も減り、効率がアップしそうです。
仕事の核の三点を重視する
『精神科医が実践する デジタルに頼らない 効率高速仕事術』(井原裕 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、著者のことばを借りるなら、「仕事の方法」について論じた書籍。おもに(1)発想の管理、(2)書類の管理、(3)時間の管理の3点を重視しているのだといいます。
ちなみに著者は精神科医。つまり本書には、精神科医としての知識と経験が反映されているわけです。なかでも特徴的なのは、時間管理において、眠気の周期性という生理学的な法則性を考慮に入れた点なのだそう。
精神科医だからこそわかるのは、身体法則性がいかに強力に思考を支配しているかということ。したがって、生理学的な法則性に反する「根性論」や「気合主義」とは無縁だといいます。
私の場合、仕事の核をなすのが、以下三点。いずれも適切な方法を採りさえすれば、実行可能です。根性や気合を必要とせず、無理なく、無駄なく、効率的な方法です。
・(1)「アイデアはすべて5秒以内に手帳に記すこと」(発想の管理)
・(2)「必要な書類の9割を30秒以内に机上に取り出せるようにすること」(書類の管理)
・(3)「時間管理の中心に睡眠リズムを置くこと」(時間の管理)
(「はじめに――精神科医の考える仕事の方法」より)
たとえば(1)のためには、24時間、ペンを挟んだ5号ノート(A6サイズ)を持ち歩いているのだそうです。それは、作業記憶(脳のランダム・アクセス・メモリー)に無駄な負担をかけないため。
「覚えておく」ための努力は集中力を妨げるため、「忘れてはいけないが、いちいち覚えていられない」ことをすべてノートに記載し、次の瞬間には意識の外に追い払うというのです。
(2)のためにするのは、書類のしまい方の工夫。角型2号封筒を大量に使い、保管場所はすぐ手の届く、机の右袖引き出しに統一。そうすれば整理の手間をかけず、書類を探す手間を少なくし、作業の流れを中断させなくてすむわけです。
そして(3)の目的のために重要なのは、「昼寝中心主義」。起床時刻から8~9時間後に昼寝の時間を置き、その前後にそれぞれなにをするかを考えるという方法です。集中力のピークを一日に2度以上つくるため、休憩効率の高い昼寝をあえて覚醒時間の中央におくということです。
それぞれについてここで詳しく説明することはできませんが、上記を確認するだけでも、本書の効率の高さは推測できるはず。もし気になったら、手にとってみることをおすすめします。
やることが多すぎると、どうしても余裕を失ってしまいがち。しかし、あえて落ち着いて「効率性」を意識してみれば、多くのストレスから解放されることになるのではないでしょうか?