悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。朝が苦手でどうしても起きられないと悩んでいる人のためのビジネス書です。
■今回のお悩み
「朝、目覚まし時計を3個セットしていても起きられない」(50歳男性/技能工・運輸・設備関連)
僕は高校生のころから、将来は自分ひとりでできる仕事に就きたいと思っていました。具体的になにをしたいのか、まったくわかっていなかったにもかかわらず、です。
やりたいこともわからないのに、なんだかおかしな話ですよね。でも、なんのことはありません。自分でできる仕事、すなわち通勤の必要がない仕事をすることができれば、朝早く起きる必要がないと考えていたのです。
つくづくナメきった話ですが、朝が本当に苦手だったので、それこそが最善の策であろうと真剣に考えていたわけです。
でも不思議なことに、そののち社会に出てみると、朝起きることを昔ほどつらく感じなくなりました。目覚まし時計をかけなくても、起きたい時刻に起きられるようになっていたのです。
10数年前に夜型から朝型に変えて以降は、そんなペースがより無理のないものになっていったようにも感じています。
とくに思い当たるような理由はないのですが、かつてあれほど朝が苦手(しかも寝つきが悪く、寝起きも悪いという最悪な状態)だったのに、なんとも不思議な話であります。
ひとつだけ思い当たることがあるとすれば、環境の変化でしょうか。社会に出て、仕事に慣れるに従って寝坊は減っていったように思えますし、早起きしなくてもいい自由業の身になると、逆に早起きしてしまえるようにすらなったのです。
専門家ではないので、そうだと断定することはできませんが。
さて、では専門家の方々は、今回のお悩みにどう答えるのでしょうか? さすがに「起きられない人」のための専門書はなかなか見つからなかったのですが、「睡眠術」関連書籍のなかにも、ヒントはたくさんありました。
自己覚醒法で自然に起きる
『専門医が教える毎日ぐっすり眠れる5つの習慣』(坪田聡 著、三笠書房)の著者は、日本睡眠学会、スポーツ精神医学会、日本医師会所属の医学博士。「睡眠コーチング」の創始者でもあります。
つまり、そうしたバックグラウンドに基づき、本書では「睡眠」を多角的に解説しているのです。もちろん“朝スッキリ起きる”習慣についても、一章を費やしています。
まず注目すべきは、「目覚ましが鳴る前に自然に起きる方法」。そんな方法があるのかと疑いたくもなりますが、いくつかのコツを利用すれば、体のなかに目覚まし時計があるかのように、睡眠時間をコントロールできるというのです。
私がおすすめしているのは、寝る直前に、起きるイメージと起床時刻を何度も頭の中で繰り返すという簡単なことです。もちろん、口に出しておまじないのように唱えてもかまいません。これを、「自己覚醒法」と言います。思った通りの時刻に起きられたら大好きなものを食べるなど、自分にごほうびを与えると、この習慣づけはさらにうまくいきます。気をつけてほしいのは、「○○時に起きなければならない」と思うのではなく、「大丈夫。私は○○時に目が覚める(起きられる)」と念じることです。「起きなければならない」と思ってしまうと、それが強迫観念となり、途中で目覚めてしまうことがあるからです。(128~129ページより抜粋)
これは、「なんとなく起きられるようになった」という僕自身の事例と、いちばん近いように思います。そのため、シンプルなのに効果が高いという著者の主張にも強く納得できます。
また、著者がこの方法を診察している方々に挑戦してもらったところ、半数の方々が成功したのだそうです。
しかも、翌朝きちんと起きられるか不安で寝つけない人や、アラーム音が鳴ってもなかなか目が覚めない人には、とくにおすすめだといいます。ぜひ一度、試してみてはいかがでしょうか?
生理的な起床準備をしてから眠る
いっぽう、『誰でもできる! 「睡眠の法則」超活用法』(菅原洋平 著、自由国民社)の著者は「作業療法士」。現状のなかでどのような行動をすれば生活が向上するかという、具体的な方法を提示する仕事だそうです。
作業療法士は、その人が日常生活の中でしていることを使って、脳や体の機能を高めていきます。効率よく仕事をしたい、自分の能力を高めたい、前向きに考えられるようになりたい。それを実現させるには、外から何か新しい方法を足すのではなく、毎日していることのやり方や、やるタイミングをちょっと変えるだけでいいのです。脳と体の仕組みを知れば、毎日生活しているだけで、もともと持っている能力をフル活用できるようになります。(6ページより抜粋)
では、「朝起きられない問題」に関して、著者はどのような考え方をしているのでしょうか? 睡眠に関する悩みにQ&A形式で答えている第8章「菅原洋平のスリープスクール」のなかの、「時計が鳴ってもなかなか起きられない。ボーッとします……」という項目を見てみましょう。
時計が鳴っても起きられない人に対して著者は、「生理的な起床準備をしてから眠りましょう」と提案しています。
まずは、膝下に冷温水をかけて、加えて自己覚醒法を試してみましょう。このときに、目覚まし時計は、通常通り使ってください。起きられるようになってきたら、目覚めてから、まず温かい飲み物を飲んで内蔵の温度、深部体温を高めましょう。(中略)朝の深部体温が上がるリズムを強調できれば、夕方に体温が上がりやすく、夜の寝つきを良くすることが狙えます。冬の寒い朝には、起床時間の1時間前に暖房がつくように、タイマーでセットしてみましょう。室温が上がってくれば、自然に目覚めやすくなります。(188~189ページより抜粋)
さらに、起きたらパジャマを着替えることも大切。ボーッとするからといってパジャマのまま過ごしてしまうと、朝の起きられない反応を助長してしまうというのです。放熱しやすいパジャマから洋服に着替え、深部体温の上昇を助けることが大切なのだといいます。
体内時計を調整するには
タイトルからもわかるとおり、『体内時計のふしぎ』(明石真 著、光文社新書)のテーマは「体内時計」。おもに体内時計と病気との関連性に重きが置かれていますが、今回とくに注目したいのは「朝」についての記述です。
体内時計による体内リズムと、日々送っている生活リズム(あるいは私たちをとり囲む環境のリズム)がずれないよう同期させるのに重要な因子として、光と食事が大事な役割を果たしているというのです。
なお、体内時計が夜型にずれないために守るべきポイントについては、次のような記述があります。
正しいタイミングで光を浴びたり食事をしたりすることで体内時計はうまく調節されるのですが、逆に、間違ったタイミングでの光や食事の摂取はむしろ体内時計と生活リズムのずれ(時差ぼけ)を起こすことになります。 夜型にずれないように体内時計を調節するには、「朝」が肝心になります。まず、屋外で朝日を30分以上しっかり浴びるのが効果的です(太陽光線を直接目に入れるととても有害なので、直視はいけません)。朝日を数分間だけ浴びれば良いというものではなく、やはりこれくらいの時間が必要になると思われます。室内にいても十分な照度の光を浴びることは難しいので、やはり外に出る習慣が必要になってくるでしょう。(163~164より)
また、カーテンを開けて眠ると、差し込む朝日が体内時計の朝方への修正を助けてくれることが期待できるそう。さらに朝食が朝日の作用を助けてくれるため、バランスよく栄養をとることも大切だといいます。
「目覚まし時計で起きられなくて悩んでいるのに、外に出ろなんて無理」だと思われるかもしれません。しかし、体内時計を調整することも、スッキリ目覚めることも、外に出ることも、バランスのよい朝食をとることも、すべてはつながっているのだと考えるべきなのではないでしょうか?
応急処置をすれば起きられるようになるというものではなく、生活の全プロセスが無理なく補完し合うからこそ、結果的にはそれは快適な睡眠や爽やかな目覚めにつながっていくということです。
それぞれアプローチの異なる3冊に共通しているのは、長い目で睡眠や覚醒と向き合うこと。マジックのようにすぐ改善できるようなものではなく、ライフスタイルを俯瞰しながら、全体のバランスを整えていくことが重要だという考え方です。
時間をかけて向き合ってみれば、いつかやがて、快適な目覚めを実現できるようになれるのではないかと思います。
著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)
作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。
『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。