悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、仕事のモチベーションが上がらず悩んでいる人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「30代後半になってモチベーションが上がらない」(36歳女性/営業関連)

  • 中堅の仕事のモチベーション問題(写真:マイナビニュース)

    中堅社員、仕事のモチベーション問題


毎日仕事をしていると、「同じことの繰り返しだ……」というような思いが強くなり、モチベーションも下がってしまいがち。おそらくそれは、すべてのビジネスパーソンに共通する悩みなのではないでしょうか?

しかも30代後半となると、部下のことも見なければならず、それに伴って責任も大きくなってきます。知らず知らずのうちにストレスも増えていき、どんどん負のスパイラルに巻き込まれていく可能性もあります。

ある意味で、それは仕方がないことでもあるのですが、ひとつだけ注意すべきことがあるように思います。そういう立場に立たされると、無意識のうちにネガティブ思考になってしまいがちだということ。

しかし、それではさらに自分を追い詰めることになってしまうだけです。

ちなみに僕はそんなとき、(いい意味で)開きなおることを意識していました。責任が重くなったり、モチベーションが下がってしまうというような状態を、あえて否定せずに受け入れてしまうのです。

「モチベーション、上がらないなー。けど、まぁ、それが事実なんだからまぁいいか」という感じ。どうあれモチベーションが上がらないということは事実なので、それを否定せず、「じゃあ、どうしましょうか? 」と考えてみる。そうすれば、なんらかの糸口が見つかるはずなのです。

少なくとも僕は、勤め人時代にそう感じていました。さて、今回ご紹介する3冊の著者は、この問題についてどんな回答をしてくれるのでしょうか?

過去を振り返る「井戸メソッド」

『たった1枚の紙で「続かない」「やりたくない」「自信がない」がなくなる』(大平信孝 著、大和書房)は、著者によれば、自分自身のなかにある本物の「やる気」を引き出す本。「続かない」「やりたくない」「自信がない」をなくし、どんな困難も打ち破るためのメソッドを紹介しているのだそうです。

注目すべき点は、「過去の記憶」が鍵になるという考え方です。やるべきことに向かって進めないのは、やる気が低い状態だから。しかし、過去を振り返るだけで、自信が回復でき、やる気が上がるというのです。

時間を忘れて夢中になった記憶が誰しもあるはずです。過去の記憶には、大切なあなたの価値観が眠っているのです。「本当に実現したいことや目標」の原点はそこにあるのです。(40ページより抜粋)

  • 『たった1枚の紙で「続かない」「やりたくない」「自信がない」がなくなる』(大平信孝 著、大和書房)

過去から「大切にしていた価値観」を思い出し、その価値観にのっとって行動する。そうすることで、本当にやりたかったことに向かっている感覚を呼び起こすということ。それができれば、義務感でやっていた仕事への見方もまた変わってくるという考え方です。

過去を思い出すとなると、大きな失敗や悲しかった出来事など、ネガティブなことばかりを思い出してしまうもの。人は無意識に、ネガティブなことのほうを強く記憶してしまう傾向があるからです。

逆にいえば、「過去には素晴らしい体験や経験もあった」ということを忘れてしまいがちだとも考えられます。だからこそ大切なのは、意図して過去を振り返ること。自分自身が、「本当によかった」「あのときは心の底から楽しんでいた」と感じられた瞬間を思い出すことが重要だというわけです。

たとえばそのための手段として、著者は「井戸メソッド」というものを勧めています。

過去を思い出すために、1枚の紙を用意します。書くことは非常にシンプルです。紙に、縦に2本、横に2本の線を引きます。「井」の字を紙の中央に大きく書くイメージです。そうすると紙を9分割にできます。(54ページより抜粋)

そして、

手順1 9分割されたスペースに、自分の人生の「名場面」を9つ書く
手順2 書き出した過去の素晴らしい記憶の中から、ベストワンの記憶を選ぶ
(56ページより抜粋)

たったこれだけで、自然とやる気や自信が回復し、ワクワク感があふれてきて、「いますぐ行動したい」「こんなに悩まなくてよかった」と考えられるようになり、改めて、自分の大切にしていることを実感できるというのです。「井戸メソッド」のすべてをここで解説することはできませんが、「おもしろそうだな」と感じたら、本書で詳細を確認してみてはいかがでしょうか?

「壁マネジメント」とは

さて、井戸の次にご紹介したいのは「壁」です。『「壁マネジメント」部下の行動をもれなく結果に結びつける!』(山北陽平 著、あさ出版)がそれ。著者は、企業コンサルタントとして、大企業や中小企業の中間管理職にコンサルティングをしているという人物です。

ここでは、モチベーションが上がらない原因として「部下のマネジメント」に注目しているのです。

私のコンサルティングの大きな柱の1つに、「壁マネジメント」があります。「壁マネジメント」とは、部下の「成果の出ない望ましくない行動」をマネジャーがみずから「壁」となって防ぎ、「成果の出る望ましい行動」へと向かわせ、「やりきるチーム」を作るマネジメント術(図版(1))。(「はじめに」より)

  • 『「壁マネジメント」部下の行動をもれなく結果に結びつける!』(山北陽平 著、あさ出版)

「壁マネジメント」は現場指導と「NLP理論」「行動分析学」に基づいて体系化されており、業種を問わず成果を出しているのだそうです。なお、ここでいう「やりきるチーム」には、次のような3条件があるといいます。

(1)決めたことをやりきる
 (マネジャーが部下がとるべき行動を決める)
(2)マネジャーのやるべきことをやりきる
 (決められた行動を部下にやりきらせるために、マネジャーがとるべき行動をやりきり、組織に与えられた役割をやりきる)
(3)組織に与えられた役割をやりきる
 (売り上げ目標の達成やプロジェクトの成功など、組織の上位方針を実現していく。
(「はじめに」より)

マネジャーの仕事は、部下に成果を出させ、チームの目標を達成し、組織の上位方針を実現すること。そして重要なのは、「なにを、どれだけ、すればいいのか」を具体的、かつ100パーセント実践できる形で示していくこと。

それが「みずから壁になる」ということであり、「壁マネジメント」を活用すれば、部下教育を効率的に行えるわけです。そして、それが必然的に、マネジャーのモチベーションをも高めてくれるということです。

「ポジティブ認知」の重要性

最後にご紹介したいのは、『モチベーションの新法則』(榎本博明 著、日経文庫)。本書の内容について、著者は次のように説明しています。

今でも十分通用する古典的名著とも言うべきモチベーションの基本理論を紹介するとともに、最新のモチベーション理論やそこから得られた画期的な知見もふんだんに紹介することにしました。したがって、類書では学ぶことのできない最新のモチベーション心理学の知見をもとに、自分自身のモチベーションの高め方や部下のモチベーションの高め方についてのヒントが得られるようになっています。(「はじめに」より)

  • 『モチベーションの新法則』(榎本博明 著、日経文庫)

「こんな状況でモチベーションが上がるわけがない」「こんな仕事ばかりさせられていたら、モチベーションが下がってしまう」などと言う人がいます。しかし、どんな状況でもがんばり続けられる人はいるし、変わりばえしないルーティン仕事にもモチベーションをもって取り組んでいる人もいます。

そう考えると、物事をポジティブに受け止めるクセをつけることが重要であることがわかります。そして著者はそんな考え方に基づき、「ポジティブ認知」の重要性を強調しています。

ポジティブ認知のポイント
(1)加点法…失敗でなく成功を数える
(2)結果よりチャレンジにこだわる
(3)結果よりプロセスに目を向ける
       ↓
      ・自分自身の成長
      ・取り組んでいる最中の充実感
      ・力一杯打ち込んだことによる爽快感
(138ページより)

失敗を数える減点法ではなく、大切なのは加点法を用いて成功を数えること。また、チャレンジにこだわるほうがモチベーションを高く維持できるからこそ、結果ではなくチャレンジにこだわる。そして、出てしまった結果ではなく、(1)自分自身の成長に目を向け、(2)取り組んでいる最中の充実感に目を向け、(3)力いっぱい打ち込んだことによる爽快感、やりとげた感じに目を向ける。

そうすることで、結果に関係なくモチベーションを高く維持することができるわけです。


現実問題として、仕事でモチベーションを上げるのは大変なこと。でも大切なのは、「そういうものだ」と現実を受け止め、そこから先をどう進むべきかを考え、実行すること。

すぐに答えが出るようなものではないでしょうが、そうしていれば少しずつ気持ちに余裕が出てくるものではないかと思います。

著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)

作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。