悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、愛想がない自分に対して悩んでいる人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「愛想のないのが悩みです。いつもニコニコ愛される人間でいる為にはどうすればいいのでしょう? 」(59歳男性/事務・企画・経営関連

  • 愛想が良い人間になるためには(写真:マイナビニュース)

    愛想の良い人間になるためには


ご相談を拝見してふと思ったのですが、「愛想がない」と自覚されている時点で、お悩みの半分は解決できているのではないでしょうか? 本当の意味で問題のある人は、それすら自覚できていないものなのですから。

「愛想がない」「○○ができない」「○○が人より劣っている」などということは、それをできるようになる、克服できるようになる可能性を持っていることだと僕は思っています。

つまり大切なのは、「できない自分」を受け入れ、その時点でできることを積み重ねていくこと。なんであれ、そうやって一歩一歩進んでいけば、いつか必ずコンプレックスは克服できるはずなのです。

ですから、まずは「愛想がない」自分を受け入れてみてはいかがでしょうか? いや、そう自覚しているということは、すでに受け入れているということでもあるでしょう。だとすれば、そこからできることを始めてみればいいのだと思います。

今回はそんな考え方をもとに、参考になりそうな3冊をピックアップしてみました。すべて女性の著者によるものですが、性別に関係なく、どんな方でも応用できるものばかりです。

人間関係の悩みをなくすための3つのポイント

『100%好かれる1%の習慣』(松澤 萬紀 著、ダイヤモンド社)の著者は、ANA(全日空)のCAとして、12年間勤務した経験を持つ人物。退社後はマナー講師、CS(顧客満足度)向上コンサルタントとして活動されています。

つまり本書においてはそうして得た実績を軸として、「人に好かれるために覚えておきたい大切なこと」を明かしているわけです。

もっとも大切なことは「相手を気づかう心」だと主張する著者は、人間関係の悩みをなくすためには「3つのポイント」に目を向ける必要があることに気づいたのだそうです。本書で紹介されているのも、それらのポイントを手にするための方法。

【ポイント(1)】「だれにでもできるのに、1%の人しかやらないこと」
相手に向き合い「だれにでもできるかんたんなこと」だけれども、「1%の人しかやっていないこと」を習慣にしている人は、ほぼ100%に近い確率で、まわりの人の心を「あたたかく」するのです。

【ポイント(2)】「人から選ばれる人になる」
私たちは、わずかひとつの物事から、ほかのすべてのことを類推して考えることをします。だとすれば、まわりの人たちから「良い意味づけ」をされ、「選ばれる人になる」ことを心がければ、人生が変わってくるでしょう。

【ポイント(3)】「毎日の習慣にする」
小さな習慣を、延々、長い時間積み上げてきたからこそ、「あの人は仕事ができる人」「あの人は丁寧な人」という印象を、相手に与えることができるのです。
(10~15ページより抜粋)

  • 『100%好かれる1%の習慣』(松澤萬紀 著、ダイヤモンド社)

「当たり前だけれど大切なこと」を毎日の習慣にし、まわりの人たちからも、そういうことをしている人だと認知してもらえるように生きる。大枠として重要なのは、そんなことだといえそうです。

なお著者は、「笑顔」は最高のコミュニケーションツールだと主張しています。そして大切なのは、それを習慣化することのようです。

1度や2度、笑顔を見せたところで、相手の印象には残りません。まわりの人から「あの人は、いつも笑顔だよね」「あの人は、笑顔が素敵な人だよね」と印象づけるには、いつ、どこで、だれといるときでも「笑顔」を見せることが大切です。でもその笑顔が、相手も自分も、楽しい気持ちにさせてくれるのです。(125ページより)

もちろん「愛想がない」と自覚している方にとって、それは簡単なことではないかもしれません。しかし、なんとかしたいという気持ちがあるのなら、トライしてみる価値はあるはず。最初はうまくいかなかったとしても、いつかその努力が実を結ぶのではないでしょうか?

「笑顔」になれるセルフコントロール術

社員力向上&ホスピタリティコンサルタントとしてビジネスマナーを教えているという『人生を変えるマナー』(三厨万妃江 著、あさ出版)の著者もまた、笑顔の重要性を強調しています。

第一印象で相手によい印象を与えるには、「笑顔」と「身だしなみ」が絶対要素だというのです。それは決して難しいことではないものの、継続して徹底することが大切なのだとか。

そして、そんな考え方をもとに勧めているのは、「鏡を見る習慣を日常のなかにつくる」こと。初対面の相手と接するときには、「笑顔」で緊張を解きほぐすことが大切だという考え方です。

いつでも笑顔になれるセルフコントロール術

(1)鏡の前でにっこり笑ってみる
つらい、落ち込んでいる……そんなときは、鏡の前に立って無理やりにでもにっこり笑ってみましょう。不思議なことにほんの少し気持ちが前向きになります。(中略)「作り笑い」でもかまわないので、笑顔で自分にエールを送り続ければ、次第に心が上向き、気づいたら気持ちが切り替わっているでしょう。

(2)「すみません」を「ありがとう」に変える
(前略)つい、「ありがとう」の代わりに「すみません」と言ってしまいますが、できるだけ「ありがとう」と言ってみましょう。 「ありがとう」は笑顔が一番似合う言葉なので、自然と笑顔になっているでしょう。

(3)大好きなものを想像する
大好きなものを思い浮かべると、一瞬で笑顔になれます。思わず「にっこり」してしまうもの。たとえば、家族の写真などを携帯電話の待ち受け画面にしておけば、こっそり見て気持ちを切り替えられるのでオススメです。
(41ページより)

  • 『人生を変えるマナー』(三厨万妃江 著、あさ出版)

常に笑顔でいると、楽しいことやうれしいことが舞い込んでくるもの。笑顔のまわりには人や情報が集まり、よい循環が生まれるわけです。だからこそ、上記3点を意識してみるべき。知らず知らずのうち、自然に笑顔が身につくかもしれません。

初動の30秒間は「イエス」で聞く

ところで、「自分ではなにもしていないつもりなのに、なぜか相手を怒らせてしまう」というようなことがあるものです。しかし、その原因は、自分が無意識に使っている言動にあると指摘するのは、『相手をイラつかせない怒らせない話し方と聞き方のルール』(竹内幸子 著、かんき出版)の著者。

でも、「怒り」をコントロールして「信頼」に変えてしまうことも可能で、それができれば、人生で起きるたいていのトラブルは回避できるのだとも主張しています。

そこで重要な意味を持つのが「聞く」こと。まずは「聞く」ことで相手の気持ちを受け止めることが重要であり、それができれば、「怒り」を、人間関係を改善する最大の味方にすることも可能になるというのです。ポイントは、「初動の30秒間」。

不機嫌や怒りを含んだ相手に対しては、最初の30秒は、相手がただ「イエス」と答えればいいような質問をつづけることがポイントです。イエスを引き出すコミュニケーションの決定打は「相手の言うことをリピートすること」。(24ページより)

  • 『相手をイラつかせない怒らせない話し方と聞き方のルール』(竹内幸子 著、かんき出版)

人の心理は意外に単純で、「肯定的な返事をしたり、聞いているうちに、ポジティブでいい気持ちになってくる」もの。その証拠に心理カウンセリングの技法にも、「全肯定カウンセリング」、つまり相手の言うことをすべて受け入れ、「イエス」とのみ応対する方法があるのだとか。

「イエス」「はい」には前向きの力があり、そんな応対を繰り返していると、相手のこわばっていた気持ちが次第にほぐれていき、物事をよい方向に捉えるようになっていくということ。

相手のことばを繰り返すことによって、「イエス」を積み重ねると、相手は「この人は私の言い分をわかってくれる人」だという印象を持つようになり、初動であるそんな印象は長く続くものだというのです。

その際に意識したいのは、「お手間をおかけして申し訳ございません」など、相手の気持ちに対して感謝したり、お詫びしたりすること。その結果、「がんばってる姿はよく見てきたらね」というようなプラスの反応を、相手から引き出すことができるわけです。

このように、相手に好印象を与えてから問題解決に入っていくという手順を踏めば、お互いに同じ目的に向かって進むことが可能に。怒りが消えるばかりか、気持ちが通い合い、好印象はさらに増していくといいます。

「笑顔」を利用することが難しいのであれば、こういった手段もあるのですね。


冒頭で触れたことにもつながりますが、「愛想がない」ということは、「ただそれだけのこと」でもあります。自己否定をしてネガティブになってしまうのではなく、「それが自分だ」ということを受け入れたうえで、そんな自分の個性をよりよい方向に活用すればいいだけだということ。

そう感じるからこそ、今回ご紹介した3冊を参考にしつつ、ぜひとも無理のない改善策を見つけ出していただけたらと思います。

著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)

作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。