悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、仕事をついつい先延ばしにしてしまう人のためのビジネス書です。
■今回のお悩み
「仕事をついつい先延ばしにしてしまい、いつも何かに追われているような状態。先延ばしにしてしまうクセをなんとかしたいです」(42歳男性/専門サービス関連)
仕事を先延ばしにしがちだという方は、意外に多いものですよね。嫌な仕事だったり面倒な仕事だったりすると、無意識のうちに"保留"状態にして他の仕事を優先させてしまったりするわけです。
とはいえ時間は均等に進んでいますから、先延ばしにした分だけ、その仕事にかけられる時間は短くなります。ただでさえ、先延ばしにしたくなるほど苦手な仕事なのに、そこにかけられる時間が減っていくのです。
つまりそのぶん、プレッシャーも大きくなっていくわけで、先延ばしの恐怖は、その点にあると言っても過言ではないでしょう。
そういえば、かつて僕の知り合いにも先延ばしの帝王がいました。大口を叩いて仕事をどんどん受けるものの、結局はできなくて、いつも中途半端な状態で放り出して逃げてしまうのです。
極端なケースではあるのですが、そこまでこじらせてしまうと、必然的に信頼も失われていきますよね。でも、そうなってからでは遅すぎます。彼のようにならないために、少しでも早く「先延ばし癖」を克服しておく必要があるわけです。
そのためにも、今回ご紹介する3冊を参考にしてみてはいかがでしょうか?
先送りに関するすべての答えは「実行力」にある
『「先延ばし」にしない技術』(イ・ミンギュ著、吉川 南訳、サンマーク出版)の著者は、「幸せな人生を手に入れるためには1%だけ変えればいい」という哲学を主張して数多くの人に影響を与え、「1%行動心理学者」と呼ばれている人物。
「先延ばし」をテーマにした本書においても、説得力のある力強い主張を展開しています。そして、その根底にあるのは「実行力」の重要性。
著者によれば、大きな成功を収めた人には平凡な人たちとは少し違うところがあるのだとか。それは、他人が頭だけで考えていることを行動に移し、実行したということ。いわば、「先送り」に関するすべての答えは「実行力」にあるということです。
同じような能力を持ち、同じことを願っている人でも、結果が千差万別だということはよくある話。しかしそれは当然で、なぜなら成果は力量(才能、知識、創造的なアイデアと組織の企画力、革新的な戦略などを含む)と実行力を掛け合わせた値で決まるから。
「成果=力量×実行力」。つまりは才能や知識、アイデアがどれだけ優れていても、実行力がゼロなら成果もゼロになってしまうということ。
さらに注目すべきは、実行力が「決心—実行—維持」という3段階からなるという著者の考え方。実行力をつけたければ、この3段階に準じて進んでいくべきだというのです。
そのため本書も「決心する」「実行する」「維持する」の3章で構成されています。ここで明らかにされた具体的なメソッドに沿って進んでいけば、高確率で実行力をつけることができるわけです。
先延ばしの「原因」を見極める
『DO IT NOW いいから、今すぐやりなさい』(エドウィン・ブリス著、弓場 隆訳、ダイヤモンド社)は、著者が実際にセミナーやカウンセリングでさまざまな質問に答えてきた経験をもとに、「先延ばし」について“対話形式”で話が進められるユニークな内容。
ーー「やればできる」と前向きになるのは素晴らしいことだと思います。しかし、それだけでは、問題は解決しないのではないでしょうか。前向きになって成果をあげるためにはどうすればいいですか?
まず、特定の課題に意識を向ける必要があります。「どうすれば先延ばし癖を許せるか?」ではなく、たとえば「どうすれば家の片づけができるか?」と具体的に考えることが大切です。
改善したい行動を選んで分析し、先延ばしの「原因」を見きわめましょう。疲労や情報不足、失敗の恐怖、注意散漫、内気、不明確な優先順位など、原因によって対処の仕方も違ってきます。意志力だけではたいていどうしようもありません。 ところが、多くの人は原因すら探ろうとしません。いうなれば、先延ばしの原因を分析するのを先延ばしにしているのです(第2章「今すぐできる、先延ばしの11の対策」より)。
たとえばこのように、アプローチは講演会やセミナーそのもの。そのため読者は、著者の生の声を聴いているような感覚で気軽に読み進めることができるのです。
しかも質問者はしばしば、著者に反論もします。すると、著者はそれを独自の考え方によって的確に論破します。そんなやりとりも楽しく、しかも実践的でもあるため、先延ばし癖から抜け出すためには大きな効果をもたらすのではないかと思います。
"精一杯に生きたと納得して死にたい"
『先延ばし克服完全メソッド』(ピーター・ルドウィグ著、斉藤裕一訳、CCCメディアハウス)の著者の経歴、そして「先延ばし」との関係性はとてもユニークです。なにしろ事故による瀕死状態から九死に一生を得た経験が、すべてのスタートラインだったというのですから。
きっかけは、生死の境を切り抜けたあと、生涯で最も強烈なその体験を忘れないようにと、こうメモに書き込んだこと。
精一杯に生きたと納得して死にたい。
ところが、この誓いを実行に移そうとしたところ、「先延ばし」という強敵に勝たなければならないということを思い知ることに。そこで友人たちとともに先延ばしをする理由を研究し、その結果を踏まえ、先延ばしと戦うための実践的なツールをまとめ上げたというのです。
そして、「そうした方法が実際に役に立つことを確かめたうえで、できる限り多くの人たちに共有してもらうことが世の中のためになる」と確信したことから本書が生まれたということ。
「モチベーション ーー モチベーションを高め、それを維持するには?」
「規律 —— 自分自身に命令を下し、それを守るには」
「成果 —— 幸福を感じ、それを維持するには」
「客観性 —— 自分の欠点に目を向けることを覚える」
このように、先延ばしを克服するための方法をさまざまな角度から、わかりやすく解説した内容。またイラストがふんだんに盛り込まれており、装丁もおしゃれなので、義務的にではなく、楽しみながら先延ばしと対峙することができるでしょう。
最後にひとつ、意識していただきたいことがあります。それは、この3冊以外にも「先延ばし克服本」はたくさん出ているという事実。つまり、そこには「需要」があるのです。先延ばしをしてしまうことに悩んでいる人は、たくさんいるということ。
先延ばしを繰り返していると、つい自分だけが劣っているような気持ちになりがちです。しかしそうではなく、同じような悩みを抱えている人は多いのです。そう考えると、少しだけ気持ちが楽になりませんか?
そうなれば、こうした書籍も肯定的に読み進めることができるはず。そして、より多くのものを吸収できるはずです。
著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)
作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。