悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、暑さでバテて何かシャキッとできる方法がないか悩んでいる人のためのビジネス書です。
■今回のお悩み
「体力が落ち、暑さですぐにバテてしまいます。手軽にシャキッとできる改善策があればいいのですが」(52歳女性/販売・サービス関連)
あっという間に夏が終わろうとしていますが、それでもまだ暑さは弱まる気配がありません。カラッとしていればまだいいのでしょうけれど、残念ながら湿気も高め。というわけで、なかなかスッキリとした気分にはなれないものです。
しかも、こういう時期は食欲もなくなりますし、おっしゃるとおり体力も落ちてしまいがち。つまりはバテても仕方がない条件が揃っているわけで、なんとかする必要はありますよね。
とはいっても日々の仕事がありますから、シャキッとするため日常的にできることは限られているのもまた事実。
そこで今回は、暑さに勝つための方法を、ちょっと違った角度から捉えてみました。しかも、簡単に取り入れられるものばかりです。
疲れは「脳」にあり
まず最初にご提案したいのは、脳を休めること。参考書籍は、『「脳科学×瞑想」で集中力が高まるーー世界のエリートがやっている 最高の休息法』(久賀谷亮 著、ダイヤモンド社)です。
著者は、ロサンゼルスに拠点を置く開業医。マインドフルネス認知療法、TMS磁気治療など、最先端の治療を取り入れた治療を行っているという人物です。
注目すべきは、「いつも疲れている」「なんとなくダルい」「集中力が続かない」などの原因についての著者の主張。それらは身体ではなく、脳が疲労している証拠だというのです。
そこで本書では、具体的な「脳の休め方」を紹介しているわけですが、今回はそのなかから「マインドフルネス呼吸法」を取り上げてみたいと思います。
注意散漫、無気力、イライラなどは、脳疲労のサイン。そして、その根本的な理由は、意識が常に過去や未来にばかり向かい、「いまここ」にない状態が慢性化していること。
つまり「現在」に意識を向ける「心の練習」をすることによって、疲れづらい脳をつくっていこうと提案しているわけです。
(1)基本姿勢をとる
・椅子に座る(背筋を軽く伸ばし、背もたれから離して)
・お腹はゆったり、手は太ももの上、脚は組まない
・目は閉じる(開ける場合は、2メートルくらい先を見る)
(2)身体の感覚に意識を向ける
・接触の感覚(足の裏と床、お尻と椅子、手と太ももなど)
・身体が地球に引っ張られる重力の感覚
(3)呼吸に注意を向ける
・呼吸に関わる感覚を意識する(鼻を通る空気/空気の出入りによる胸・お腹の上下/呼吸と呼吸の切れ目/それぞれの呼吸の深さ/吸う息と吐く息の温度の違い…など)
・深呼吸や呼吸コントロールは不要(自然と呼吸がやってくるのを「待つ」ような感覚で)
・呼吸に「1」「2」…「10」とラベリングするのも効果的
(4)雑念が浮かんだら…
・雑念が浮かんだ事実に気づき、注意を呼吸に戻す(呼吸は「意識の錨(いかり)」)
・雑念は生じて当然なので、自分を責めない
(21ページより)
意識が「いま、ここ」にあることを重視する、マインドフルネスの考え方が生かされているということ。なお、1日5分でも10分でもいいので毎日続け、同じ場所でやるべきだといいます。なぜなら脳は、「習慣」が好きだから。
忙しくてもできる「1分間」瞑想法とは
ところで、どれだけ忙しかったとしても1日のうちのちょっとした時間を活用することならできるはず。そこで次にご紹介したいのが、『人生を整える「瞑想」の習慣』(加藤史子 著、日本実業出版社)。
タイトルからもおわかりのように、いつでもどこでも実践できて、すぐに効果が出る「瞑想」の仕方を明かした書籍です。
著者は、「瞑想」を日常生活の中で簡単にできる手法をもとに、講演、講座、ワークショップ、執筆活動を行なっているというメンタルトレーナー。企業、教育機関、スポーツ団体、子どもの部活でのメンタル強化など、「誰でもすぐに取り組める瞑想メソッド」を指導しているのだそうです。
さまざまな瞑想法が紹介されていますが、今回はそのなかから、忙しいビジネスパーソンに最適な「1分間」瞑想法をピックアップしてみましょう。会議や商談の前後、電車での移動時間、トイレのなかなど、どこでも簡単にできる瞑想だといいます。
まず、姿勢などにはこだわらず、目を閉じて、自分の呼吸に意識を向けていきましょう。息を吸い込んだとき、その息が身体のどのあたりに入ったのか、胸なのかお腹なのか、その量はどれくらいなのかに意識を向けながら、楽なペースで3回呼吸をしてみましょう。自分の呼吸がどのようになっているのかを観察するだけでいいのです。3回の呼吸が終わったら、そのまま呼吸を観察し続けます。1分から3分、時間が許す範囲で自分の呼吸に意識を向け続けます(48~49ページより)
呼吸を観察することで、「いま、この場所」に意識を集中させることができるということ。呼吸に集中している間は考えを手放すことができ、気持ちをリセットすることが可能に。
すなわち、上記の『最高の休息法』と共通する考え方。別な表現を用いるなら、これは非常に普遍的なメソッドだということになるわけです。
なお、1分間瞑想法は、徐々に時間を長くしていくことがポイント。20分くらいまでの長さで、無理のない範囲で、気分転換のつもりで続けると効果があるそうです。
疲れやストレスは「食事」で解決
さて、最後は『仕事のパフォーマンスが劇的に上がる食事のスキル50』(川端理香 著、かんき出版)。疲れやストレスなどの問題を「食事」によって解決しようという一冊です。
私は現在、管理栄養士として、プロアスリートに対する栄養サポートを行っています。アスリート向けの栄養サポートと聞くと、「甘いものはいっさい食べない」「肉は低脂肪のササミ」など、厳しい食事制限がつきまとうイメージがあるかもしれませんが、それはさまざまな食事術のなかのほんの一部にすぎません。集中力をつける食事、思考力、判断力を上げる食事、疲労回復に効く食事、メンタルを鍛える食事など、さまざまな要素を組み合わせながら栄養サポートを行っているのです。(「はじめに」より)
ここで紹介されているノウハウは、ビジネスパーソンの仕事のパフォーマンスを上げるためにも効果を発揮するのだといいます。もちろん、暑さでバテたときの疲労回復にも。
たとえば「疲れたときには焼肉を食べてスタミナをつけよう」というような話をよく聞きますが、著者によればこれはウソなのだとか。脂質のとりすぎが、疲労を増大させるというのです。
「焼肉=疲労回復」というイメージが強く、多くの人が“スタミナ食”であると思っているようですが、焼肉を食べるとよけいに疲れることがあります。(116ページより)
肉には筋肉や骨、血液、骨、皮膚などをつくるタンパク質が含まれているので、身体にとって必要な食材であることは事実。しかし、「脂質」に問題が。
たとえば焼肉を食べた翌日にだるさを感じるのは、理由があるのだそう。カルビなどに含まれる脂質は消化に時間がかかる栄養素で、内臓への負担も大きい。つまり、食べれば食べるほど疲れることになるというわけです。
また、アスリートの栄養サポートを続けている立場からすると、体を動かしたあとにカレーを食べさせるのもNG。スポーツの試合は、身体に負担がかかるものだからです。
しかも脂質を多く摂取すれば、さらに消化に時間がかかって、内臓に負担をかけることになりかねないというのです。
そこで著者は、チームにカレーを出すときには、
(1)野菜や肉などを炒める際に油を使わない(もしくは減らす)
(2)脂身の多い肉は使わない
(3)カレー粉を使って調理する(ルウ・バターなどは使わない)
(119~120ページより)
といったことを意識しているのだといいます。こうすることで、カレーに含まれる脂質を大幅に削減することができるから。
こうしたことはアスリートだけの話ではなく、疲労に悩むビジネスパーソンにとっても重要なポイントなのではないでしょうか?
一般的な尺度で考えれば、暑さでバテることは当然であり、避けては通れないもののようにも思えます。しかし、少しでも楽な状態をつくる手段は確実にあるはず。
残りの暑い時期を少しでも快適に過ごすために、これら3冊をぜひチェックしてみてください。
著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)
作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。